化学蒸着|気相の化学反応で薄膜を形成する技術

化学蒸着

化学蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)は、ガス状の原料を反応室に送り込み、加熱した基板の表面で化学反応を起こして固体の薄膜を積み上げる成膜技術である。材料そのものを蒸発させて付着させる物理蒸着(PVD)とは異なり、原料ガスが分解・反応してできた生成物が膜になる。半導体の絶縁膜や配線、切削工具の硬質皮膜、光学部品の反射防止膜など、用途は電子部品から機械部品まで広い。

白熱電球から半導体工場へ

起源は1880年代にさかのぼる。当時、白熱電球のフィラメントを丈夫にするため、炭化水素ガスを熱分解して炭素を被覆する方法が試された。工業技術として本格的に広まったのは1960年代以降である。シリコンのエピタキシャル成長がトランジスタ製造に取り入れられ、続いて1960年代末には欧州の工具メーカーが超硬合金チップへの炭化チタン(TiC)被覆を実用化した。こうして化学蒸着は、電子と機械という二つの分野でほぼ同じ時期に生産技術として定着した。

膜ができるまでの反応過程

反応室の中では、原料ガスの輸送、基板表面への吸着、表面での反応、副生成ガスの脱離という4段階が連続して進む。代表的な反応としては、モノシランの熱分解によるシリコン膜の形成があげられる。

SiH4 → Si + 2H2
TiCl4 + 1/2N2 + 2H2 → TiN + 4HCl

2つめの式は窒化チタン皮膜を得る反応で、工具コーティングでは約900〜1050℃で行われる。成膜速度は温度によって支配要因が変わる。低温では表面反応の速さが律速となり、速度は温度に対して指数関数的に増える。高温になるとガスの供給が追いつかなくなり、ガス流れの設計が膜厚の均一性を左右するようになる。装置メーカーがガスノズルの配置やウェハ間隔に細かくこだわる理由はここにある。

方式による違い

反応を起こすエネルギーの与え方と反応室の圧力によって、いくつかの方式に分けられる。主なものを下表に示す。

方式 圧力の目安 基板温度 主な膜・用途
常圧CVD(APCVD) 約101kPa 350〜500℃ SiO2層間絶縁膜
減圧CVD(LPCVD) 10〜100Pa 600〜800℃ 多結晶Si、Si3N4
プラズマCVD(PECVD) 数十〜数百Pa 200〜400℃ SiN保護膜、太陽電池
有機金属CVD(MOCVD) 1〜100kPa 500〜1100℃ GaN、GaAs系LED
熱CVD(工具用) 数kPa〜常圧 900〜1050℃ TiC、TiN、Al2O3

プラズマを使う方式は、電子の衝突で原料ガスを分解するため、熱だけに頼る方式より300℃以上低い温度で成膜できる。アルミ配線のように熱に弱い層の上にも膜を形成できる点が大きな利点である。

原子層堆積(ALD)

原料ガスを1種類ずつ交互に流し、1サイクルで約0.1nmずつ膜を積む派生技術がALDである。成膜速度は遅いものの、深い溝の底まで均一に覆えるため、DRAMのキャパシタや先端ロジックのゲート絶縁膜に使われている。

工具コーティングでのPVDとの使い分け

製造現場で最もよく比べられるのはPVDである。熱CVDは1000℃前後の高温が必要なので、焼戻し温度が約550℃の高速度工具鋼に使うと母材が軟化してしまう。そのため対象は、高温に耐える超硬合金やサーメットにほぼ限られる。膜厚は5〜20μm程度まで厚くでき、密着性に優れるので、鋳鉄や鋼の旋削用インサートでは今も主流である。

PVDは400〜500℃で処理でき、膜厚は2〜5μmほど。刃先を鋭く保てるため、エンドミルやドリル、ステンレス鋼の仕上げ加工に向いている。コスト面では、CVD炉は1回に数千個のインサートをまとめて処理できるので、1個あたりの皮膜費用は安くなりやすい。ただし冷却時に膜の中へ引張残留応力が残り、微細なクラックが入りやすい。量産ラインでは成膜後にショットブラストなどで応力を調整し、欠けにくくする工程を追加するのが一般的である。

半導体製造における役割

直径300mmのシリコンウェハを扱う最新の工場では、成膜工程の多くをCVD系の装置が担う。縦型炉を使うLPCVDは100枚以上のウェハを一度に処理でき、窒化膜や多結晶シリコンを安定した品質で量産できる。配線をつなぐ接続孔には六フッ化タングステン(WF6)を水素で還元するタングステンCVDが使われ、アスペクト比10を超える細い穴でも埋め込める。段差を均一に覆う「ステップカバレッジ」に優れていることが、スパッタリングではなく化学蒸着が選ばれる最大の理由となっている。人工ダイヤモンドの合成も、マイクロ波プラズマCVDの応用例として知られる。

原料ガスの危険性と保安

CVDで使う原料ガスには、毒性や自然発火性を持つものが少なくない。日本の高圧ガス保安法では、次の7種類が「特殊高圧ガス」として特に厳しく管理されている。

  • モノシラン(SiH4)
  • ジシラン(Si2H6)
  • アルシン(AsH3)
  • ホスフィン(PH3)
  • ジボラン(B2H6)
  • セレン化水素(H2Se)
  • モノゲルマン(GeH4)

モノシランは空気に触れるだけで燃え出すため、配管にはガス漏れ検知器と自動遮断弁を備えるのが基本となる。排気側では副生成物の塩化水素や未反応ガスを除害装置で無害化してから放出しなければならない。真空ポンプの内部に反応生成物の粉体がたまりやすいことも、保守担当者を悩ませる問題のひとつである。粉体が詰まるとポンプが止まって成膜条件が乱れるので、多くの工場では処理時間や電流値をもとにポンプの点検周期を決めている。

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