全ねじボルト
全ねじボルトとは、軸部の全長にわたってねじ山が切られたボルトの総称である。頭部を持つ全ねじ六角ボルトと、頭部を持たない棒状の寸切りボルト(長ねじ・スタッド)の両方を含む呼び方であり、円筒部を残した半ねじ(呼び径六角ボルト)と対比される。任意の位置でナットをかみ合わせられるため、締結位置の自由度が高く、建築設備の吊り金具、配管支持、機械の据付けなど幅広い分野で使われている。寸法や形状はJIS B 1180(六角ボルト)で規定され、頭部のない寸切りタイプはメーカー規格として呼び径M6~M24、長さ285mmや1,000mmといった定尺品が流通している。
半ねじとの違いと使い分け
六角ボルトの軸部は、ねじ部と円筒部の構成によって呼び径六角ボルト、有効径六角ボルト、全ねじ六角ボルトの3種類に分けられる。全ねじボルトは円筒部を持たず、首下から先端までねじが連続する。半ねじは円筒部でせん断荷重を受け持てるため強度的に有利とされる一方、板厚の組合せによってはナットがねじ部に届かず締め切れないことがある。全ねじであればどの長さでもナットの位置を選ばず、被締結物の厚さが変わっても同じボルトで対応できる。実務では、在庫管理の観点から全ねじに統一して品種を減らす工場も多い。ただし、ねじ谷底は応力集中源になるため、せん断面がねじ部にかかる設計は疲労強度の低下を招きやすく、繰返し荷重が作用する箇所では半ねじやスタッドボルトの採用を検討すべきである。
寸切りボルト(頭なし全ねじ)
頭部を持たない棒状の全ねじは、寸切りボルト、長ねじ、ずんぎりなどと呼ばれる。定尺の全ねじ棒を必要な長さに切断して使うことが名称の由来である。両端に六角ナットをかけて部材を挟み込む使い方が基本で、天井からの吊りボルトとして空調ダクトや配管、ケーブルラックの支持に大量に消費される。建築設備ではW3/8(ウィットねじ3分)とM10が代表的な呼びで、あと施工のアンカーボルトやインサートに直接ねじ込んで垂下させる施工が一般的である。切断面にはバリが残りやすく、ナットの通りが悪くなるため、現場ではダイスでのねじ山修正や面取りを行ってから使用する。
規格・強度区分・材質
全ねじ六角ボルトの寸法はJIS B 1180に規定され、ねじ精度は6g、部品等級はA・B・Cで区分される。強度面では鋼製ボルトのねじの強度区分が適用され、一般流通品は4.8が中心で、機械構造部には8.8や10.9の高強度品が使われる。強度区分4.8は呼び引張強さ400N/mm2、降伏比0.8を意味し、8.8では800N/mm2となる。材質はSS400やSWCHなどの炭素鋼に電気亜鉛めっきを施したユニクロ品が最も安価で、腐食環境ではSUS304、塩害や薬品環境ではSUS316が選定される。屋外の鉄骨まわりでは溶融亜鉛めっき(HDZ)品を使うが、めっき厚さ分だけねじがきつくなるため、オーバータップを施したナットと組み合わせる点に注意が必要である。
締結の考え方と施工
ねじによる締結は、軸部に発生する引張りの軸力によって部材同士を圧接する仕組みであり、この原理はねじの機能として体系的に整理されている。全ねじの場合、座面直下までねじ山があるため、締付け時の座面陥没やねじ山のへたりが半ねじより起こりやすい。そこで平座金を介して面圧を分散させるのが定石である。締付けはスパナや六角レンチで行い、重要部位ではトルクレンチによる管理を併用する。M10・強度区分4.8・乾燥状態の標準締付けトルクは概ね20N・m前後が目安となるが、潤滑や表面処理で摩擦係数が変わるため、トルク表は条件ごとに整備しておくのがよい。
製造方法とねじ山の品質
全ねじの量産には転造加工が用いられる。ねじ山の形状を刻んだ平ダイスまたは丸ダイスの間に線材を通し、塑性変形によって山を盛り上げる方法で、切削と異なり材料の繊維(ファイバーフロー)が切断されない。転造後のねじ山表面は加工硬化しており、切削ねじに比べて疲労強度が2~3割高いとされる。素材径はねじの有効径に近い値を選び、たとえばM10並目(ピッチ1.5mm)では約9.0mmの線材から転造する。寸切りタイプは1,000mm前後の定尺で転造した後、需要に応じて切断・面取り・めっきの工程を経て出荷される。頭付きの全ねじ六角ボルトは、冷間圧造で頭部を成形してから軸部を転造する二段構えの工程となる。切削で全ねじを製作するのはM30を超える太径や少量多品種の特注品に限られ、単価は転造品の数倍に跳ね上がるのが通例である。
ゆるみ対策
吊りボルト用途の全ねじは振動にさらされることが多く、ゆるみ対策が欠かせない。代表的な手法はダブルナットで、下ナットを締めた後に上ナットを重ね、羽交い締めによって両ナット間のねじ面に逆向きの接触力を発生させる。ナイロンインサートナットや歯付きワッシャー、嫌気性接着剤の塗布も併用される。空調機器の防振吊りでは、全ねじの中間に防振ゴムを挟み、その上下をナットで固定する構造が標準的であり、施工後の増し締め点検を竣工時と1年後に行う運用が多い。天井内は目視点検が難しいため、合いマークをナットとボルトにまたがって記入し、マークのずれで回転ゆるみを検出できるようにしておくと保全性が高まる。2011年の東日本大震災以降、天井吊り設備の脱落対策として斜め振れ止め材の併設が国土交通省の技術基準で求められるようになり、全ねじ単独で水平力を負担させない設計が浸透している。
選定時の実務ポイント
調達面では、全ねじは半ねじより安価で納期も短い傾向があり、M10×1,000mmの定尺ユニクロ品は1本100円台から入手できる。設計段階で確認すべき事項は次の通りである。
- せん断荷重がねじ部に直接かかる継手になっていないか
- 強度区分・材質・表面処理が使用環境(屋内外、温度、腐食性)に適合しているか
- 吊り用途では許容引張荷重に対して安全率3以上を確保しているか
- 溶融亜鉛めっき品ではナット側のオーバータップ有無を指定しているか
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