作業環境測定
作業環境測定とは、労働者が働く場所の空気中に含まれる有害物質の濃度や、騒音・暑熱などの物理的因子の状態を、デザイン・サンプリング・分析(解析)の手順で把握する一連の行為である。労働安全衛生法第65条で事業者に実施が義務付けられ、測定結果は作業場を3段階の管理区分に評価するために用いられる。労働衛生の基本となる3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)のうち、作業環境管理の出発点にあたる。
制度の成り立ち
日本で測定の担い手と方法が法律で定められたのは1975年の作業環境測定法の制定による。それ以前にも鉱山や工場で粉じん濃度を測る取り組みはあったが、測定者や手法がばらばらで、結果を比べることが難しかった。この法律によって国家資格である作業環境測定士の制度が作られ、厚生労働大臣が告示する「作業環境測定基準」と「作業環境評価基準」に沿って測定と評価を行う仕組みが整った。資格は第1種と第2種の2つに分かれる。第2種はデザイン・サンプリングと簡易測定機器による分析までを担当でき、第1種はそれに加えてガスクロマトグラフや原子吸光分析装置を使った分析まで行える。
対象となる作業場と測定頻度
労働安全衛生法施行令第21条には、測定が必要な作業場が10種類挙げられている。そのうち粉じん、有機溶剤、特定化学物質、鉛、放射性物質を取り扱う作業場は「指定作業場」と呼ばれ、作業環境測定士または登録を受けた作業環境測定機関による測定が必須となる。主な対象と頻度は下の表のとおりである。
| 対象作業場 | 測定頻度 | 記録の保存期間 |
|---|---|---|
| 土石・岩石・鉱物等の粉じん作業場 | 6月以内ごとに1回 | 7年 |
| 有機溶剤(第1種・第2種)を扱う屋内作業場 | 6月以内ごとに1回 | 3年 |
| 特定化学物質(第1類・第2類)を扱う屋内作業場 | 6月以内ごとに1回 | 3年(特別管理物質は30年) |
| 石綿等を扱う屋内作業場 | 6月以内ごとに1回 | 40年 |
| 鉛業務を行う屋内作業場 | 1年以内ごとに1回 | 3年 |
| 著しい騒音を発する屋内作業場 | 6月以内ごとに1回 | 3年 |
| 暑熱・寒冷・多湿の屋内作業場 | 半月以内ごとに1回 | 3年 |
酸素欠乏危険場所はこれとは別扱いで、作業を始める前に毎回、酸素濃度(必要に応じて硫化水素濃度も)を測る。定期的に測るのではなく、入るたびに測る点が他の作業場と大きく異なる。
A測定とB測定の考え方
有害物質の濃度は、同じ工場の中でも場所や時刻によって大きく変わる。そこで測定基準では、作業者が動く範囲を「単位作業場所」として区切ったうえで、2種類の測り方を組み合わせる。A測定は、単位作業場所の中に6m以下の等間隔で線を引いてマス目を作り、その交点から5点以上を選んで、床上50〜150cmの高さで空気を採取する方法である。1点あたりの採取時間は10分間以上とされる。これにより、場所全体の平均的な汚染状態がわかる。
B測定は、発散源のすぐ近くで作業する時間帯など、濃度が最も高くなると考えられる位置と時刻を狙って測る方法である。A測定だけでは見落としやすい局所的な高濃度を捉えるために行う。
個人サンプリング法(C測定・D測定)
2021年4月からは、作業者の襟元にサンプラーを付けて呼吸域の濃度を測る個人サンプリング法も選べるようになった。全体の平均を見るものをC測定、高濃度作業時の15分間の測定をD測定と呼ぶ。塗装や溶接のように作業者が発散源と一緒に動く作業では、定点で測るA測定よりも実際のばく露に近い値が得られる。対象物質は当初、特定化学物質の一部と鉛、有機溶剤などに限られていたが、段階的に広げられている。
評価値と管理区分
測定値は、物質ごとに決められた管理濃度と比べて評価する。たとえばトルエンの管理濃度は20ppmである。ただ、濃度の分布は対数正規分布に近い形をとるため、単純な平均値ではなく統計的に求めた「評価値」を使う。1日だけ測った場合、A測定の第1評価値EA1と第2評価値EA2は次の式で求められる。
log EA1 = log M1 + 1.645 √(log2σ1 + 0.084)
log EA2 = log M1 + 1.151 (log2σ1 + 0.084)
ここでM1は測定値の幾何平均、σ1は幾何標準偏差を表す。EA1は単位作業場所のうち95%の地点・時間で濃度がこの値を下回ると推定される値で、EA2は算術平均濃度の推定値にあたる。この2つの値とB測定値を組み合わせて、作業場は次の3段階に分けられる。
- 第1管理区分:EA1が管理濃度未満で、かつB測定値も管理濃度未満。作業環境管理が適切と判断される
- 第2管理区分:第1・第3のいずれにも当てはまらない状態。改善に努める必要がある
- 第3管理区分:EA2が管理濃度以上、またはB測定値が管理濃度の1.5倍を超える状態。直ちに改善しなければならない
- 評価結果は記録して保存し、第2・第3管理区分では労働者へ周知することが求められる
第3管理区分になったときの対応
2024年4月に施行された化学物質の自律的管理に関する改正で、第3管理区分の事業場への対応はかなり厳しくなった。まず外部の作業環境管理専門家に意見を聞き、改善できるかどうかの判断を受けなければならない。改善が難しいと判断された場合や、改善後の測定でも第3管理区分のままだった場合は、個人サンプリング法などで濃度を測り、その結果に合う防護係数を持つ呼吸用保護具を使わせることになる。面体を持つ保護具については、1年以内ごとに1回、フィットテストを行う義務もある。
改善策として現場でよく取られるのは、発散源を囲う局所排気装置の新設やフードの形の見直しである。全体換気だけで濃度を下げようとすると、必要な換気量が大きくなりやすく、空調費がかさむ。冬場の暖房負荷まで考えると、発散源の近くで吸い込むほうが運用コストは低く抑えられることが多い。
製造現場での実務上のポイント
測定機関に委託する費用は、1単位作業場所・1物質あたり数万円程度が目安とされることが多い。物質の数や単位作業場所が増えると、年2回の定期測定だけで年間数十万円規模になる工場も珍しくない。そのため、塗装ブースや洗浄工程をレイアウトでまとめ、単位作業場所の数を整理するだけで費用が下がる場合がある。
測定日の設定にも注意したい。生産量の少ない日や、発散の多い工程を止めた日に測ると、良い結果が出ても実態とずれてしまう。測定機関の担当者には、通常の生産条件、溶剤の使用量、局所排気装置の稼働状況をあらかじめ伝えておくと、デザインの段階で適切な測定点を選んでもらえる。石綿を含む建材が残る古い建屋では、改修工事の前後で測定を追加することもある。製品の切り替えで使う有機溶剤の種類が変わったときは、次の定期測定を待たずに対象物質の見直しを行うのが望ましい。
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