交流回路|時間とともに周期的に変化する電流

交流回路

交流回路は、電圧や電流の向きと大きさが時間とともに周期的に変化する電源を含む電気回路である。家庭のコンセントに来ている100Vの電気がその代表で、発電、送配電、モーター駆動、機器の電源部に至るまで、産業の基幹を支えている。直流回路ならオームの法則だけで電圧と電流の関係が決まる。ところが交流回路では周波数と位相が加わるため、解析にはもう一段の道具立てが必要になる。

直流から交流へ、送電方式をめぐる転換

1880年代のアメリカでは、エジソンの直流方式と、ウェスティングハウスやテスラが推した交流方式が送電の主導権を争った。いわゆる「電流戦争」である。1893年のシカゴ万国博覧会で会場照明に交流方式が採用され、1896年にはナイアガラ水力発電所が交流で送電を始めた。決め手になったのは変圧器で電圧を自由に昇降できる点である。同じ電力を送るなら、電圧を10倍にすれば電流は10分の1になり、送電線での損失(I2R)は100分の1まで減る。遠くの水力発電所から都市へ電気を運ぶには、この性質が欠かせなかった。

正弦波と実効値

電力系統で扱う交流は基本的に正弦波で、瞬時値はv(t) = Vm sin(ωt + φ)と書ける。角周波数はω = 2πfで、fが50Hzなら約314rad/sである。ここで注意したいのは、コンセントの「100V」が最大値ではなく実効値だという点だ。実効値はV = Vm/√2で求まるため、100Vの波形のピークは約141Vに達する。設計現場ではこの差が効いてくる。たとえば200V系を整流して平滑すると直流側は約283Vまで上がるので、電解コンデンサの耐圧は余裕を見て400V品を選ぶのが定石になっている。

実効値と平均電力

交流回路では数値が常に変動するため、直流と同等の仕事量を示す値として「実効値」が用いられる。また、実際に消費される電力を有効電力、回路内を循環するだけで消費されない電力を無効電力と呼び、その比率を力率という。効率的な電気利用のためには、この値をに近づけることが重要である。

素子ごとの応答

交流を加えたとき、抵抗、コイル、コンデンサは電流の流れ方がまったく異なる。コイルは電流の変化を妨げ、コンデンサは電圧の変化を妨げるためである。

素子 抵抗成分(リアクタンス) 電流の位相 周波数が上がると
抵抗 R R 電圧と同相 変化しない
コイル L XL = ωL 電圧より90度遅れる 流れにくくなる
コンデンサ C XC = 1/(ωC) 電圧より90度進む 流れやすくなる

100mHのコイルを例にとると、50Hzでは XL ≒ 31.4Ω、60Hzでは約37.7Ωになる。周波数がわずかに違うだけでも、流れる電流は2割近く変わる。

インピーダンスで一括して扱う

抵抗とリアクタンスをまとめた量がインピーダンスである。R、L、Cを直列につないだ場合の大きさは、Z = √(R2 + (XL − XC)2)で表せる。位相のずれまで含めて計算するなら、虚数単位jを使った複素数表示が便利である。この表示では、直流と同じ代数計算で直列・並列の合成ができる。手計算の見通しが良くなるうえ、回路シミュレータの内部処理も基本的にこの考え方に沿っている。

インピーダンスと位相差

これらの要素が組み合わさることで、回路全体の電圧と電流の間に位相差が生じる。

  • 抵抗成分:電圧と電流の位相が一致する。
  • コイル成分:電流の位相が電圧よりも遅れる。
  • コンデンサ成分:電流の位相が電圧よりも進む。

電力と力率の話

電圧と電流の位相がずれると、流れた電流のすべてが仕事に使われるわけではなくなる。実際に消費される有効電力はP = VI cosφで、cosφが力率である。モーターや変圧器のような誘導性の負荷が多い工場では、力率が下がりやすい。高圧で受電する事業所では、基準力率の85%を上回るか下回るかで電気料金の基本料金が割引や割増になる。そのため進相コンデンサを設置して力率を95%前後に保つ事業所は多い。大型設備を導入するときは、三相交流の受電容量とあわせて力率の見積もりも先に確認しておきたい。

共振現象

特定の周波数において、コイルとコンデンサの反応が打ち消し合い、インピーダンスが最小(または最大)になる現象を共振と呼ぶ。この原理はラジオの選局や通信機器のフィルタ回路に応用されている。

共振周波数

直列回路でXLとXCが等しくなると、互いに打ち消し合ってインピーダンスは最小のRだけになる。この状態が共振で、共振周波数はf0 = 1/(2π√(LC))で決まる。L = 10mH、C = 0.1μFなら約5.0kHzである。ラジオの同調回路は、この性質で目的の放送局だけを取り出している。電源回路のフィルタ回路でも同じ原理が使われる。意図しない共振は逆に事故のもとで、高調波を含む系統に進相コンデンサをつないだ結果、特定の次数で共振してコンデンサが焼損する例が現場では報告されている。

複素数による解析手法

交流回路の計算を容易にするため、ベクトルや複素数を用いた「フェーザ表示」が一般的に利用される。これにより、微分方程式を解くことなく、代数計算のみで複雑な回路理論を扱うことが可能となった。この手法はチャールズ・プロテウス・スタインメッツによって体系化され、電気工学の飛躍的な発展に寄与した。

三相交流の利点

産業用電力を中心に、位相がずつずれた3つの回路を組み合わせた「三相交流」が広く普及している。単相交流に比べて同じ電力をおくるための電線重量を削減でき、強力な回転磁界を容易に作れるため、大型の電動機(モーター)の駆動に極めて適している。

日本に2つの周波数がある理由

日本は、東日本が50Hz、西日本が60Hzという世界でも珍しい国である。1895年に東京電灯がドイツのAEG製50Hz発電機を導入し、1897年に大阪電灯がアメリカのGE製60Hz発電機を採用したことが起点とされる。境界は静岡県の富士川や新潟県の糸魚川付近にあり、佐久間、新信濃、東清水の各周波数変換所が両者を結ぶ。実務上の影響は意外に大きい。誘導電動機の同期速度はN = 120f/pで決まるため、4極機なら60Hzで1800min-1、50Hzで1500min-1になる。西日本で使っていた設備を東日本の工場へ移すと、回転数が6分の5に落ちる点に注意が要る。

測定時の落とし穴

歪んだ波形を一般的なテスターで測ると、実際とずれた値が出ることがある。安価な平均値応答形は、正弦波を前提に目盛りを補正しているからだ。整流回路やインバータの出力を測るなら、真の実効値(True RMS)に対応した計器を使う必要がある。計器の安全規格はIEC 61010に定められており、測定カテゴリ(CAT III、CAT IVなど)を設置場所に合わせて確認することが、感電事故を避ける基本になる。

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