亜共析鋼
亜共析鋼は、炭素含有量が共析組成の約0.77%未満の炭素鋼を指す。英語ではhypoeutectoid steelと呼ばれる。ゆっくり冷やした状態の組織は初析フェライトとパーライトの2相でできており、炭素量が増えるほどパーライトの割合が大きくなる。JIS G 4051(機械構造用炭素鋼鋼材)のS10C〜S58Cや、一般構造用の圧延鋼材の多くがこの範囲に入る。工業的に流通する鋼材の大部分は、この区分に属している。
Fe-C状態図での位置づけ
鉄と炭素の状態図では、727℃のA1線上、炭素量0.77%の位置に共析点がある。この点より炭素が少ない側が亜共析鋼、0.77〜2.11%の側が過共析鋼で、ちょうど共析点の組成をもつものを共析鋼と呼ぶ。共析点の値は文献によって0.76%や0.8%と書かれることもある。合金元素が加わると共析点は低炭素側へ移る。MnやCrを含む合金鋼では、炭素0.6%程度でもほぼ全面がパーライトになることがある。そのため、炭素量の数値だけで亜共析か過共析かを決めず、組織写真で確かめるのが確実である。
徐冷中に起こる組織変化
高温で単相のオーステナイトになった鋼を炉内でゆっくり冷やすと、A3線を下回ったところで、結晶粒界からフェライトが析出し始める。これが初析フェライトである。フェライトが溶かし込める炭素は727℃でも最大0.0218%しかない。このため、フェライトが増えるにつれて、残ったオーステナイトの炭素濃度は上がっていく。727℃に達すると残留オーステナイトは共析組成になり、フェライトとセメンタイトが層状に重なったパーライトへ一度に変わる。A3温度は炭素量によって変わり、純鉄では912℃、炭素0.4%前後ではおよそ790〜800℃まで下がる。
ウィドマンステッテン組織
結晶粒が粗くなった状態でやや速く冷やすと、初析フェライトが粒界から針状に粒の内部へ伸びることがある。これをウィドマンステッテン組織といい、衝撃値を下げる原因になる。1200℃を超える温度で加熱した鍛造品や、溶接の熱影響部によく現れる。
てこの関係で組織割合を求める
徐冷した状態の組織の割合は、てこの関係(レバールール)でおおよそ見積もれる。炭素量をC(%)とすると、パーライト分率WPは次の式で表される。初析フェライトの分率は、100からこの値を引いたものになる。下の表は、代表的な鋼種について炭素量の中央値で計算した目安で、実際の組織は冷却速度によってずれる。
WP(%)=(C − 0.02)÷(0.77 − 0.02)× 100
| 鋼種(JIS G 4051) | 炭素量(%) | パーライト分率の目安 | 代表的な用途 |
|---|---|---|---|
| S15C | 0.13〜0.18 | 約17% | 浸炭部品、ピン |
| S25C | 0.22〜0.28 | 約31% | ボルト、軸受ハウジング |
| S35C | 0.32〜0.38 | 約44% | ナット、ロッド類 |
| S45C | 0.42〜0.48 | 約57% | シャフト、歯車、金型部品 |
| S55C | 0.52〜0.58 | 約71% | スプロケット、刃物の台金 |
炭素量と機械的性質
フェライトはやわらかく延びやすい。これに対してパーライトは硬く、強度を担う。このため、炭素量が増えると引張強さは上がり、伸びや絞りは小さくなる。JIS G 4051の焼ならし材で比べると、S25Cの引張強さは440 N/mm²以上、S45Cは570 N/mm²以上と規定されている。加工性はその逆の傾向を示す。S10C〜S20Cは冷間圧造や曲げ加工に向き、0.4%を超える鋼種は切削での仕上げを前提に使われることが多い。
熱処理温度の決め方
亜共析鋼の焼入れでは、A3点より30〜50℃高い温度まで加熱し、組織をすべてオーステナイトにしてから急冷する。A1とA3の間で加熱を止めると、未変態のフェライトがマルテンサイトの中に残り、硬さにむらが出る。これを不完全焼入れという。焼なまし(完全焼なまし)も同じくA3+30〜50℃に加熱し、炉の中で冷やす。焼ならしはA3より50℃ほど高く加熱して空気中で冷やし、鍛造や圧延で粗くなった結晶粒を細かくする。過共析鋼がA1直上で焼入れするのと比べ、加熱温度の決め方が異なる点に注意したい。
製造現場での使い分け
実際の現場では、S45Cを生材のまま買うか、焼入れ焼戻し済みの調質材を買うかで、コストと納期が大きく変わる。量産品では、生材を荒削りしてから高周波焼入れで必要な部分だけを硬くする工程が多い。S45Cを水で焼入れすると、キー溝や穴の角から焼割れが起きやすい。そのため、形状が複雑な部品は油焼入れにするか、焼入れ性の高いSCM440に切り替えることがある。炭素0.25%以下の鋼は焼入れしても硬さがあまり上がらないので、表面だけを硬くしたい場合は浸炭で炭素を補ってから焼入れする。
溶接性と炭素当量
溶接のしやすさは、炭素と合金元素の影響をまとめた炭素当量で判断する。JISやWESで使われる式は、Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14である。炭素0.2%前後までの亜共析鋼は、予熱なしでも割れにくく、溶接構造物の主な材料になっている。炭素当量が0.4%を超えたあたりからは、熱影響部に硬いマルテンサイトができやすくなり、低温割れが心配になる。S45Cを肉盛りや補修で溶接するときは、150〜200℃程度の予熱と溶接後の徐冷を組み合わせ、硬化と割れを防ぐのが一般的な方法である。
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