ボールベアリング
ボールベアリング(玉軸受)は、内輪と外輪の転走面の間に複数の鋼球(ボール)を配置し、転がり接触により低い摩擦で回転を支持する軸受である。一般機械、モータ、家電、ロボットまで用途が広く、同サイズでの許容回転速度が高い点と取り扱いの容易さが特長である。特に深溝玉軸受は汎用性が高く、ラジアル荷重に加えて一定のアキシアル荷重にも対応できる。英語では ball bearing と呼び、JIS/ISO の規格により寸法・精度・内部すきま・記号体系が標準化されている。用途に応じてグリース密封形、シールド形、開放形などが選択される。
構造と働き
ボールベアリングは、内輪・外輪・ボール・保持器(リテーナ)・シール/シールドからなる。転がり接触はすべりに比べて接触面のエネルギー損失が小さく、発熱と摩耗が抑制されるため、同等荷重で高効率な支持が可能である。保持器はボール間隔を一定に保ち、潤滑剤の保持や騒音低減にも寄与する。転動体が点接触であるため、ローラ系より接触応力は高いが、トルク変動が小さく軽快な回転が得られる。
主な種類
- ボールベアリングの代表は深溝玉軸受で、ラジアル荷重主体に強く、片側のアキシアル荷重も許容する。
- アンギュラコンタクト玉軸受は接触角を有し、アキシアル荷重能力が高い。対向配置(DB、DF)やタンデム(DT)で主軸に用いられる。
- スラスト玉軸受は軸方向荷重専用で、座金形状により片方向・両方向がある。
- 自動調心玉軸受は外輪転走面が球面で、据付け誤差や軸のたわみに追従できる。
荷重と寿命の考え方
基本定格動荷重は一定条件での疲労寿命の基準であり、寿命は L10(90%信頼寿命)で表すのが一般的である(ISO 281)。ラジアル荷重・アキシアル荷重の合成や運転係数、温度係数、信頼度係数を考慮して選定する。内部すきま(C3 など)は熱膨張や取付けの締め代で変化するため、運転時目標すきまを見越して選ぶ。
許容回転速度と dN 値
許容速度は転走面潤滑状態、保持器材質、サイズに依存する。目安として dN 値(内径 d と回転数 N の積)を用い、グリースより油が高速度向きである。高回転では発熱とグリース劣化が支配的となるため、油噴射・ミスト・油空気などの潤滑方式に切り替える。
材料と熱処理
一般には高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)が用いられ、焼入れ焼戻しにより高硬度と耐疲労性を確保する。高温や腐食環境ではステンレス系(AISI 440C)やセラミックボール(Si3N4)を組み合わせたハイブリッド構成も選択される。転走面粗さと残留圧縮応力は転がり疲労寿命に影響するため、研削・超仕上げで均一な表面を得ることが重要である。
潤滑と密封
汎用機ではグリース封入形が多く、保守性に優れる。高温・高回転・連続運転では油潤滑が有利で、油浴・飛沫・循環・油霧などを選ぶ。グリースは基油粘度・増ちょう剤・添加剤の組み合わせで性能が決まり、耐水・耐酸化・低トルク特性のバランスが重要である。密封は接触シールが防塵性に優れ、非接触シールドは低損失で高速向きである。適切なグリース管理は寿命に直結する。
精度・公差・内部すきま
精度等級は JIS B 1514(例:P0、P6、P5 など)に規定され、主軸や計測機器では高等級が要求される。内部すきまは C2~C4 が一般的で、予圧を与えることで剛性・位置決め再現性・騒音を改善できる。一方で発熱・摩耗のリスクが増すため、回転速度と荷重、許容発熱を総合判断する。整備時の振動測定や音響解析は状態監視に有効である。
据付・はめあいと実務上の注意
内輪は回転側に、外輪は静止側に通常はめあいを与える。過大な圧入は内径方向の実効すきまを減少させ、発熱や早期剥離の原因となる。加熱取付けでは誘導加熱で80–120℃程度を目安とし、温度差によりスムーズに装着する。締結部は規定トルクで均等締付けし、偏荷重や傾きが生じないよう治具を用いる。ハウジング固定に用いるボルトの管理やシール座面の清浄度も信頼性に直結する。
整列(アライメント)と熱の影響
軸とハウジングの同軸度・直角度が悪いと、接触応力が片当たりし、寿命が低下する。熱膨張差で内部すきまが変動するため、材質・通風・放熱経路を含む熱設計を行う。初期馴染み運転で温度上昇と騒音を確認し、必要に応じてすきまや潤滑条件を調整する。
故障モードと対策
- フレーキング:転走面の疲労剥離。荷重過大、潤滑不良、異物混入を改善する。
- 摩耗:固体異物・水分・潤滑剤劣化が原因。シール強化と清浄管理が有効。
- 焼付き:高荷重・高速度・潤滑切れで発生。油量増加や粘度見直しで対処。
- はく離前兆:音・温度・電流値の変化で予知保全を行う。
選定の手順(実務フロー)
- 使用条件整理:荷重方向、目標寿命、回転速度、環境、取付け制約を洗い出す。
- 型式仮決め:深溝/アンギュラ/スラストなどから、ボールベアリングの型式を選ぶ。
- 寸法選定:基本定格動荷重と L10 寿命で寸法系列(6xxx、62xx、63xx など)を絞る。
- 潤滑・密封:グリースか油か、補給間隔や密封方式を決める。
- 精度・すきま:等級(P6 等)と内部すきま(C3 等)、必要なら予圧を設定する。
- 据付検討:はめあい、公差、軸肩寸法、工具・治具を確認し、試作で温度・音・所要トルクを評価する。
他の軸受との比較
ベアリングの中で、ボールベアリングは軽負荷~中負荷・高速域に適し、低トルク・低騒音が得やすい。一方、重荷重にはローラ系が有利である。寸法互換性が高く、保守性・コストバランスに優れるため、汎用機械の第一候補となることが多い。
規格と表示・呼び番号
呼び番号は系列(例:6000、6200、6300)で剛性・荷重能力が変わる。接触角やすきま、密封・保持器材質は末尾記号で表記される(例:ZZ、2RS、C3、P5 など)。図面・部品表では ISO/JIS の整合を取り、互換品選定や代替管理を行うと良い。適切な潤滑計画と状態監視を組み合わせることで、ボールベアリングの総合コストを最小化できる。