グリース
グリースは、基油に増ちょう剤を分散させ、添加剤を配合した半固体の潤滑剤である。流れにくく保持性が高いため、開放部や密閉しにくい部位の潤滑に用いられる。代表的な用途は回転機械のベアリング、ギヤ、摺動案内、カップリングなどであり、オイル潤滑に比べシールが簡素で、補給間隔を長く取りやすい特徴をもつ。
構成要素と役割
グリースは「基油」「増ちょう剤」「添加剤」から成る。基油は鉱物油、PAO、エステル、シリコーン、PFPEなどで、粘度が耐荷重・低温始動性に影響する。増ちょう剤は基油をゲル化し保持する骨格で、ちょう度、耐水性、耐熱性を左右する。添加剤は酸化防止、防錆、極圧(EP)、摩耗防止、固体潤滑(MoS2、PTFE)など機能を付与する。
主な増ちょう剤の種類
- リチウム/複合リチウム:汎用性が高く高滴点。電動機用に広く用いられる。
- カルシウム系:耐水性に優れる。海水環境などに適する。
- アルミニウム複合:せん断安定性と耐熱性のバランスが良い。
- ポリウレア:長寿命・低騒音。モーターや精密ボールベアリングに適する。
- ベントナイト・シリカ:非融点で高温下に強いが、油分離管理が重要。
ちょう度(NLGI)と分類
グリースの硬さはNLGIグレード(000〜6)で表す。機器の隙間・回転速度・供給方式で選定する。一般にNLGI 1〜2がベアリング用の標準、000〜00は集中潤滑やギヤ、3以上は高温・高負荷や漏れ防止に用いる。
- NLGI 000〜00:半流動。低温始動性と供給性重視。
- NLGI 1〜2:汎用。回転機械の長寿命化に適する。
- NLGI 3:保持性向上。漏れや飛散を抑えたい場合。
主要特性と指標
- 滴点(dropping point):熱で軟化・流出し始める温度の目安。
- せん断安定性:長時間運転後の硬さ変化の少なさ。
- 油分離性:貯蔵・運転中の基油分離量。過大だと潤滑不足や漏れの原因。
- 耐水洗浄性:水で洗い流されにくい性質(water washout)。
- 耐荷重・耐摩耗:EP性能、4-ball試験などで評価。
- 低温トルク:始動時の抵抗。寒冷地や高速精密機器で重要。
潤滑機構
グリースは静置で固く、せん断で軟化するチキソトロピーを示す。運転中に基油がにじみ出て、流体潤滑・混合潤滑・境界潤滑が共存する。転がり要素周辺に保持され、停止時も油膜供給源として機能する点がオイル潤滑と異なる。
長所と短所(オイルとの比較)
- 長所:密封簡素化、漏れにくさ、補給間隔の延長、固体潤滑剤の併用容易、清掃性。
- 短所:放熱性・清浄性が低く、劣化物の排出が難しい。高速・高温では軟化・油分離に注意。
- 適用例:電動機、ファン、搬送ローラ、工作機械案内、屋外機械など。
用途と具体例
グリースはローラーベアリングやボールベアリングの長寿命化、歯車の飛散抑制、スプラインやピンの摩耗低減に使われる。高温域ではタービン近傍の補機、低温域では冷凍設備の小型軸受、湿潤環境では海事・水処理装置の開放摺動に適する。
選定指針
- 速度:DNまたはNDm(軸受径×回転数)で評価。高速は低粘度基油・NLGI 1〜2、低速高荷重は高粘度・EPタイプ。
- 温度:連続使用温度は滴点の目安より低く設定。高温はポリウレアや複合石けん、低温はPAOやエステル。
- 環境:水・薬品は耐水性や防錆性重視。食品機械はH1相当品を選ぶ。
- 軸受型式:精密・静粛性重視なら低騒音仕様、重荷重の圧縮機はEP・耐熱性重視。
使用・管理(グリースアップ)
グリース量は軸受空間の約1/3〜1/2が目安である。入れ過ぎは発熱・撹拌抵抗増大を招く。補給は旧グリースのパージを考慮し、定期的に少量ずつ行うと良い。再充填周期は温度・速度・汚染度で短縮する。混合は避け、やむを得ず行う場合は同系増ちょう剤で相溶性を確認する。
保管・異物対策
- 密閉容器で保管し、水分・粉塵の混入を防ぐ。
- 専用グリースガンを色分けし、他銘柄との取り違えを防止。
- 異音・温度上昇・電流値の変化を監視し、状態基準保全に活用。
評価規格と代表試験
グリースはJISやISOで分類・試験方法が定められている。JIS K 2220(潤滑グリース)、ISO 6743-9(分類 L-X..)などが参照される。代表試験にはASTM D217(ちょう度)、D2265(滴点)、D1264(耐水洗浄)、D2266(4-ball摩耗)、D2596(4-ball EP)、D3336(軸受寿命)等がある。用途に応じ、銅腐食、酸化安定性、低温トルクも確認する。
産業別の適用ヒント
- 発電設備:電動機や発電機は低騒音・長寿命タイプ。
- 高温補機:ボイラ・タービン周辺は耐熱・非融点系が有効。
- 搬送・食品:防錆性と耐水性、必要に応じH1対応。
- ポンプ補機:軸受・カップリングには漏れにくいNLGI 2、場合によりスクリューポンプ周辺の補機にも適用。
トラブル事例と対策
過充填による温度上昇、異種混合による軟化・油分離、耐水性不足による乳化・錆、粉塵混入による摩耗が典型例である。原因に応じて量の最適化、同系統への統一、シール強化、フィルタ・清掃の徹底で再発を防止する。
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