ホーニング盤
ホーニング盤は砥粒を含むストーンを内外径面に押し当て、主軸回転と往復運動を重畳させて微細切削する仕上げ工作機械である。低い周速度と一定の面圧により切削と塑性流動をバランスさせ、真円度・円筒度・直進度を高精度に整えつつ、潤滑保持性に優れる交差ハッチ模様を形成する。代表的な適用はエンジンシリンダ、油圧シリンダ、軸受用ブッシュ、ギヤ内径などで、研削後の最終仕上げとして表面粗さRa0.1〜0.4 μm程度(条件によりさらに低減)を安定的に得ることができる。
加工原理
ホーニング盤のヘッドに装着したストーンを半径方向へ拡張し、ワーク面に一定圧で接触させる。主軸回転(周速度v)と軸方向の往復運動(ストローク速度)を同時に与えることで、工具軌跡は斜めの交差ハッチとなる。材料除去は微小切削と微小塑性変形の混合で進み、砥粒先端の切れ味、結合度、切削油の潤滑・洗浄作用が面生成を左右する。
構成要素
- ホーニングヘッド/エキスパンダ機構(マンドレル、ウェッジ、スプリング等)
- ストーン(Al2O3、SiC、CBNなどの砥粒と結合材)
- 主軸・往復ユニット(回転数、ストローク量、加減速制御)
- ワーク保持・治具(内径芯出し、端面当て、自動クランプ)
- 切削油(鉱物油系・水溶性、ろ過・温調・ミスト対策)
- 計測・補正(ボアゲージ、エアゲージ、インプロセス測定による自動補正)
加工条件とパラメータ
代表パラメータは、周速度v=πDN、往復ストローク速度、接触圧p、ストーン粒度・結合度、拡張送り量、切削油流量である。粗加工では粒度を粗くし圧と送りを高めて能率を確保し、仕上げでは細粒・低圧・低送りで形状精度と表面性状を整える。温度安定化とろ過は寸法ばらつきと面傷の抑制に直結する。
交差ハッチと表面機能
交差ハッチ角θは一般に20〜45°の範囲で設計し、潤滑油保持と初期なじみの両立を図る。自動車エンジンではθ≈30°が目安となることが多い。プレートホーニング(峰部削り)を組み合わせると、油膜保持に寄与する谷部を維持しつつ、峰部を平坦化して初期摩耗を低減できる。
種類と用途
ホーニング盤は縦形・横形、単軸・多軸、プラネタリ型(ワーク固定で工具が公転)などに大別される。内径ホーニングが主流だが、外径や端面ホーニングにも対応する機種がある。量産ラインでは自動搬送とインプロセス計測を組み込み、エンジンブロック多穴の同時・順次加工でタクト短縮を図る。
精度・品質項目
- 形状:真円度、円筒度、直進度の是正・維持
- 寸法:目標ボア寸法への収束とバラツキ低減
- 表面:Ra/Rz、ハッチ角、プレート率(山谷バランス)
- うねり・リードマーク抑制:ストローク条件と同調回避が鍵
欠陥モードと対策
テーパ(上細り・下細り)は拡張圧とストローク端の滞留を見直し、ストーン摩耗を均一化する。バレル形状は中央部の切削過多が原因で、ストロークプロファイルと圧配分を補正する。ベルマウスは端面当てと進入・離脱制御を最適化する。目詰まり・焼付きには適正切削油、ろ過精度、ドレッシング頻度の管理が有効である。チャタは系剛性と同調回避(回転数・ストローク周波数の位相調整)で抑える。
ストーン選定の要点
鋳鉄・焼入れ鋼にはAl2O3またはSiC、難削材や高硬度材にはCBNが有効である。結合度は形状保持と切れ味のバランスで選定し、粗→仕上げの段階で粒度を細かくする。ドレッシングは切れ刃の自生作用を補助し、面性状の再現性を高める。
段取りと自動化
ホーニング盤では治具設計が品質の土台となる。内径芯出しと端面基準の安定化、クランプ力の再現性が重要である。インプロセス計測とCNC補正を用いれば、ストーン摩耗や熱ドリフトを自動追従でき、最小切込み量で目標寸法に到達させる「寸法先詰め」運転が可能となる。
切削油と環境・安全
切削油は潤滑・冷却・洗浄・防錆を担う。粘度・添加剤は被削材と量産条件に合わせ、ろ過(紙・遠心・静電)、温調(チラー)で安定化する。ミスト対策のエンクロージャ、火災・皮膚感作への配慮、廃液処理・油水分離の管理は必須である。
関連プロセスの位置づけ
ホーニング盤は研削後の形状修正と表面機能付与を担う工程として位置づく。ラッピングや超仕上げはさらに低荷重・微細砥粒で面を整えるが、ボア幾何の是正能力はホーニングが優れる場合が多い。工程設計では前加工のリードマークや残留応力も考慮し、総合の面機能を狙う。
設計・生産での実務ポイント
- 前加工の余肉量配分:粗・中・仕上げ各段の除去量を明確化
- 温度管理:工作機・切削油・ワークの熱平衡化
- 測定連携:ボアゲージの校正、測定点の定義統一
- 保全:ストーン在庫とロット差管理、ヘッドのガタ・振れ監視