ツェナーダイオード|逆方向降伏で精密基準電圧を供給

ツェナーダイオード

ツェナーダイオードは、逆方向に一定電圧で降伏し、その電圧をほぼ一定に保つ基準素子である。降伏には量子トンネルを起点とするZener効果(およそ3〜5V以下で顕著)と、pn接合の高電界でキャリアが雪崩増倍するアバランシェ効果(数V以上)があり、多くの実素子では両者が連続的に関与する。逆方向電流を適正範囲に流すことで、電源のリファレンス、簡易レギュレーション、クランプ、保護などに用いることができる。

動作原理と降伏機構

ツェナーダイオードは、逆方向にバイアスすると接合近傍の電界が急増し、所定の降伏電圧VZで急峻に導通する。低VZではZener効果由来のトンネル破壊が支配的となり温度係数は負に傾く。高VZではアバランシェ破壊が支配的となり温度係数は正に傾く。約5〜6V付近で両者が打ち消し合い、温度ドリフトが最小化することが多い。

特性パラメータ

  • VZ:試験電流IZTにおける定格降伏電圧
  • IZK:膝電流。これ未満では安定な基準電圧が得られにくい
  • IZT:規定の測定電流。データシートのVZはこの条件
  • rz:動的抵抗。VZの微分感度で、低いほど負荷変動に強い
  • PD:許容損失。VZ×IZがこれを超えないよう設計する
  • αVZ:温度係数(ppm/℃)。電圧温度安定性の指標

回路モデルと等価回路

ツェナーダイオードは、降伏電圧源VZと直列の小さなrz、および微小容量Cjで近似できる。高周波ではCjによる応答やノイズの影響が無視できず、バイパスやスナバと併用して安定化を図る。

基準電圧源としての利用

最も基本的な使い方は、シリーズ抵抗Rで電源から電流を供給し、負荷と並列にツェナーダイオードを接続するシャント方式である。入力変動や負荷変動に対し、rzとIZの余裕でVZを維持する。電流はIZ(min)≦IZ≦IZ(max)となるよう、最悪条件(最低入力・最高負荷電流、最高入力・無負荷)で検討する。

設計計算の要点

  1. Rの選定:R=(VIN(min)−VZ)/(IL(max)+IZ(min)) を初期値とし、最悪高入力時にIZがIZ(max)やPDを超えないか確認する。
  2. 損失:PZ=VZ×IZ。周囲温度上昇時はデレーティング曲線に従う。
  3. 温度:αVZと自己発熱(θJA)を考慮し、許容誤差内に収める。
  4. ノイズ:シャントはブロードバンドノイズを持ちうる。必要に応じRCでフィルタリングする。

クランプ・保護用途

ツェナーダイオードは信号ラインやゲートの過電圧クランプ、リレー・インダクタの逆起電力吸収、電源ラインのサージ緩和に用いられる。サージエネルギの繰り返しに耐える必要があるため、定格パルス耐量と非繰返しサージ電力の仕様を確認する。高速デジタルやESD対策では、低容量のTVSダイオード(ESDサプレッサ)を選定する。

精密基準との違い

バンドギャップリファレンスICは温度補償やカーブトリムにより、数十ppm/℃レベルの安定性を提供する。一方、ツェナーダイオードは簡易・低コスト・高応答で、数十mA規模のシャント電流で素早いクランプが可能である。用途に応じて、精度・消費電流・雑音・サイズを総合評価する。

品種とパッケージ

代表的な品種には1N4733A系(リード型)やSMDのBZX55、MMBZ、MM1Z系列などがある。VZは2V台から数十Vまで細分化され、rzやαVZ、許容損失別に型番が整理されている。パッケージはSOD-123、SOD-323、SOT-23などが一般的で、放熱・実装面積・実装高さの要件から選ぶ。

測定と評価

VZはデータシート規定のIZTで測定する。4端子法でrzを抽出し、温度チャンバで温度係数を評価する。ノイズは広帯域アンプとスペクトラムアナライザで観測し、必要に応じてRCやフェライトで低減する。

設計上の注意点

  • 膝付近運用回避:IZがIZKに近いとレギュレーションが悪化する。
  • 突入・サージ:電源立上がりや負荷遮断でIZが一時的に跳ねないよう、Rやシリーズ抵抗、ソフトスタートを併用する。
  • レイアウト:シャント帰還ループは最短で配線し、グラウンドは一点接続とする。高dv/dt環境ではバイパスCを近接配置する。
  • 信頼性:反復サージは接合劣化を促す。マージンと波形実測(TLP等)で健全性を確認する。

応用例

  • 基準電圧源:A/D、D/A周辺の簡易リファレンス
  • 過電圧クランプ:GPIO、オペアンプ入力、ゲート保護
  • 電源監視:レギュレータのプリレギュレーションや簡易UVLO/OVLO
  • ノイズシェーピング:シャント電流で電源インピーダンスを下げ瞬時負荷に追従

選定フロー

  1. VZの決定:必要な基準・クランプ電圧と温度係数の符号を考慮
  2. 定格:PD、IZレンジ、サージ耐量
  3. 性能:rz、ノイズ、容量Cj
  4. 実装:パッケージ、放熱、実装高さ・クリアランス

低電圧品の温度係数

3V以下のツェナーダイオードは負の温度係数が大きく、温度でVZが低下する。必要に応じて抵抗温度係数との相殺やオフセット補償を検討する。

高周波信号ラインでの注意

大きなCjは波形歪みや立上り遅延を招く。高速ラインでは低容量型またはTVSを選ぶか、シリーズ抵抗で帯域を整える。

安全規格とESD

民生・産業機器ではIEC 61000-4-2等のESD耐性が要求されることがある。ツェナーダイオード単体では不足する場合、専用ESD保護素子と組み合わせる。