けい肺|粉じん吸入で肺が線維化する職業病

けい肺

けい肺は、結晶質の二酸化ケイ素(遊離けい酸)を含む粉じんを長期間吸い込むことで、肺に線維化が進む職業性疾患である。じん肺の中で最も古くから知られる病型で、鉱山、トンネル工事、鋳物、窯業、石材加工などの現場で多く発生してきた。一度硬くなった肺組織は元に戻らず、粉じん作業をやめた後も病変が進むことがある。

鉱山の「よろけ」からじん肺法まで

鉱山労働者の呼吸器病は16世紀には記録されており、1556年に刊行されたアグリコラの『デ・レ・メタリカ』にも坑夫の肺の病が書かれている。日本では佐渡金山などの坑夫が息切れでふらつく様子から「よろけ」と呼ばれた。法整備は戦後に進み、1955年(昭和30年)に「けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法」が制定された。その後、対象を粉じん全般に広げる形で1960年(昭和35年)にじん肺法が公布され、けい肺はじん肺の一類型として扱われるようになった。1979年には粉じん障害防止規則(粉じん則)も定められている。

結晶質シリカが肺を硬くする仕組み

原因物質は石英、クリストバライト、トリジマイトなどの結晶質シリカである。肺胞まで届くのは粒径およそ0.5〜5μmの吸入性粉じんで、これより大きい粒子は鼻や気管支でほとんど捕らえられる。肺胞に入った粒子はマクロファージに取り込まれるものの、シリカの表面は細胞膜を傷つけるため、マクロファージ自体が壊れてしまう。そのとき放出される炎症性物質が線維芽細胞を刺激し、コラーゲンが同心円状に重なった「けい肺結節」ができる。結節が増えて融合すると大きな塊状影となり、肺の容積と弾力が失われていく。国際がん研究機関(IARC)は1997年に結晶質シリカをグループ1(ヒトに対する発がん性あり)に分類した。

発症までの年数による3つの病型

ばく露の濃度と期間によって、経過は大きく異なる。

病型 発症までの目安 主な特徴
慢性けい肺 ばく露開始から10〜20年以上 最も多い型。上肺野を中心に小粒状影が広がり、ゆっくり進行する
加速型けい肺 5〜10年 高濃度ばく露で起こる。進行が速く、塊状線維化に移りやすい
急性けい肺 数週間〜5年 極めて高濃度のばく露で発生。肺胞たんぱく症に似た像を示し、予後は悪い

粉じんが出やすい作業と遊離けい酸含有率

リスクの大きさは、扱う材料に含まれる遊離けい酸の割合でかなり変わる。鋳物砂として使う珪砂は90%を超えることが多く、花崗岩は20〜45%程度、石灰石はわずかである。危険な作業として知られるのは、鋳物工場の型ばらしや砂処理、岩盤の削孔・発破、耐火れんがの解体、陶磁器原料の粉砕、ガラスの原料調合などである。かつて多発したサンドブラストは、現在ではアルミナ系やスチールグリットの研削材に置き換えるのが一般的になった。

診断とじん肺管理区分

診断の基本は、粉じん作業の職歴と胸部X線写真である。X線では上肺野の小粒状影が典型で、肺門リンパ節の縁が卵の殻のように石灰化する「卵殻状石灰化」がみられることもある。わが国のじん肺健康診断では、陰影の量に応じて第1型〜第4型に分類し、肺機能検査の結果と合わせて管理1〜管理4に区分する。管理4は療養が必要な段階である。常時粉じん作業に従事している労働者の場合、健康診断の頻度は管理1で3年以内ごとに1回、管理2と管理3で1年以内ごとに1回と定められている。

法令で定められた合併症

管理2または管理3の人が次の病気にかかった場合、療養の対象となる。

  • 肺結核
  • 結核性胸膜炎
  • 続発性気管支炎
  • 続発性気管支拡張症
  • 続発性気胸
  • 原発性肺がん

作業環境管理の数値基準

土石や岩石の粉じんを扱う屋内作業場では、作業環境測定の結果を管理濃度と比べて評価する。管理濃度E(mg/m3)は、粉じんに含まれる遊離けい酸の含有率Q(%)から次の式で求める。

E = 3.0 / (1.19Q + 1)

たとえばQが30%ならEは約0.08mg/m3となり、含有率が高い材料ほど厳しい基準になる。海外では、米国OSHAが2016年に吸入性結晶質シリカの許容濃度を50μg/m3へ引き下げ、ACGIHは25μg/m3を勧告している。

現場で効く対策と費用の考え方

対策の優先順位は、発生源を抑えること、次に捕集、最後に個人保護という順序になる。研削や切断では湿式化が最も安上がりで効果も大きいが、鋳物の砂処理のように水を使えない工程では局所排気装置が中心となる。フードの形状が悪いと、ファンを大きくしても捕集されないことが多い。そのため、設計段階で発生源とフードの距離を詰めるほうがランニングコストを抑えられる。防じんマスクは国家検定品のRS2・DS2以上が目安だが、顔に合っていなければ漏れ率は数十%に達するため、フィットテストを欠かせない。2023年の労働安全衛生法関連の改正でも、フィットテストの実施が求められるようになった。高濃度の現場では、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)に切り替える例が増えている。

人工石の加工で再び増える患者

いったん減少したと考えられていたけい肺が、2010年代から新たな形で注目されている。キッチン天板などに使われる人工石(エンジニアドストーン)は石英の含有率が90%を超える製品が多く、乾式切断を行う加工職人の間で、20〜30代の若い患者や急速に進行する例が報告された。オーストラリアは2024年7月に人工石の使用を原則禁止し、欧米でも規制の議論が続いている。治療法はいまも確立されておらず、重症例では肺移植が検討されるにとどまる。そのため、ばく露を減らすことが唯一の確実な予防策であり、材料の選定から工程設計まで一体で見直す必要がある。

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