食品衛生法|飲食による健康被害を防止する法律

食品衛生法

食品衛生法は、飲食によって生じる健康被害を防ぐことを目的とした日本の法律である。昭和22年(1947年)法律第233号として公布され、1948年1月1日に施行された。規制の対象は飲食物だけではない。食品添加物、器具、容器包装、乳幼児用のおもちゃ、野菜や食器用の洗浄剤まで含まれ、製造から販売に至るまでの各段階で事業者に義務を課している。所管は厚生労働省で、2024年4月からは規格基準を策定する業務が消費者庁へ移管された。

制定の背景と改正の歩み

終戦直後の日本では、メチルアルコールを混ぜた密造酒や腐敗した闇市の食品による死亡事故が相次いでいた。こうした状況を受けて1947年に制定されたのが食品衛生法である。その後、1955年の森永ヒ素ミルク事件や1968年のカネミ油症事件を経て、規制は少しずつ厳しくなった。大きな転機となったのは2003年の改正である。BSE問題や無登録農薬の問題をきっかけに食品安全基本法が同じ年に制定され、法の目的も「公衆衛生の向上」から「食品の安全性の確保」へと書き改められた。この改正にもとづき、2006年5月29日には残留農薬のポジティブリスト制度が始まり、基準が定められていない農薬には一律基準として0.01ppmが適用されるようになった。

規制の対象と基本的な仕組み

法の中心となるのは、第6条の「不衛生食品等の販売等の禁止」と第13条の「規格基準」である。具体的な数値は「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)にまとめられている。この告示を見ると、清涼飲料水は中心温度65℃で10分間以上の加熱殺菌、食肉製品は中心部を63℃で30分間加熱する方法か、それと同等以上の効力がある方法での殺菌が求められている。缶詰やレトルト食品のような容器包装詰加圧加熱殺菌食品では、120℃で4分間の加熱と同等以上の殺菌が基準になる。

規格基準の多くは成分規格・製造基準・保存基準の3つに分かれており、事業者はそれぞれを満たさなければならない。

区分 内容 代表例
成分規格 製品が満たすべき微生物数や化学物質量の上限 牛乳の細菌数:1mLあたり5万以下
製造基準 原料の扱い方や加熱条件など工程に関する決まり 食肉製品:63℃・30分間の加熱
保存基準 流通・販売時の温度管理などの決まり 生食用鮮魚介類:10℃以下で保存
使用基準 添加物の対象食品や使用量の上限 保存料ソルビン酸の使用量上限

2018年改正で変わった7つのポイント

平成30年(2018年)法律第46号による改正は、前回の大きな見直しから約15年ぶりとなるもので、段階的に施行されて2021年6月1日までにすべて完了した。食品業界に与えた影響の大きさでは、戦後でも有数の改正といえる。主な内容は次の7点である。

  1. 広域的な食中毒事案への対策強化(広域連携協議会の設置)
  2. HACCPに沿った衛生管理の制度化
  3. 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
  4. 国際的な基準に合わせた器具・容器包装の衛生規制の整備
  5. 営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設
  6. 食品リコール情報の報告制度の創設
  7. 輸入・輸出に関する規制の見直し

HACCPの義務化

2021年6月1日の経過措置終了により、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられた。ただし、1事業場あたりの従業員が50人未満の小規模事業者や飲食店は、業界団体の手引書を使う「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」でもよいとされる。大手工場の場合は、Codexの7原則12手順に従った「HACCPに基づく衛生管理」が必要になる。すでにISO 22000やFSSC 22000の認証を取得している工場なら、追加でやるべき作業はそれほど多くない。

営業許可業種の再編

許可が必要な業種はそれまでの34業種から32業種に整理された。漬物製造業や水産製品製造業などが新しく許可の対象になった一方、リスクが低い業態は届出制へ移っている。

器具・容器包装のポジティブリスト制度

現場の技術者が特に注意すべきなのが、合成樹脂製の器具・容器包装に導入されたポジティブリスト制度である。2020年6月1日に施行され、5年間の経過措置は2025年5月31日に終わった。この制度では、リストに載っている基材樹脂と添加剤しか使えない。以前のネガティブリスト方式(使ってはいけない物質だけを決める方式)とは考え方が逆になっている。B2Bの取引では、樹脂メーカーから包材加工業者、そして食品メーカーへと「適合性確認の情報」を順に受け渡す義務がある。このため、原料ロットを切り替えるたびに適合証明書を取り直すことが、品質保証部門の日常業務になっている。証明書のやり取りが遅れて新しい包材を採用するまでに数か月かかった、という話は珍しくない。

現場に置くべき責任者

営業許可を受けた施設や届出をした施設には、原則として食品衛生責任者を1名置かなければならない。調理師や栄養士などの資格がない場合でも、都道府県などが開く約6時間の講習を受ければ資格を取れる。全粉乳、食肉製品、魚肉ハム・ソーセージ、添加物などを作る施設では、さらに専門性の高い食品衛生管理者を置く必要がある。食品衛生管理者になれるのは、医師、薬剤師、獣医師のほか、大学で医学・薬学・農芸化学などの課程を修めた者などに限られる。人材を確保するハードルは高く、中堅の食肉加工会社では採用計画に直接影響することもある。

食品リコール報告と行政処分

2021年6月からは、事業者が自主回収を行う場合、都道府県知事などに届け出ることが義務になった。届け出た情報は厚生労働省の「食品衛生申請等システム」で公開される。回収の区分はCLASSⅠからⅢまでの3段階あり、重い健康被害や死亡につながるおそれが高いものがCLASSⅠにあたる。報告対象には食品表示法にもとづく回収も含まれるため、アレルゲンの表示漏れは今でも回収理由の上位を占めている。トレーサビリティの仕組みが十分でないと、回収範囲を絞りこめず、出荷したロットを全部回収するしかなくなる。

罰則も厳しく定められている。第6条違反の場合、個人には3年以下の拘禁刑(2025年6月1日の刑法改正で懲役刑から変更)または300万円以下の罰金、法人には最高1億円の罰金が科される。営業停止や許可の取消しといった行政処分を受ければ、取引先からの信用をすぐに失う。そのため、多くのメーカーが刑罰そのものより取引停止のほうをおそれている。

関連する法令との関係

食品に関わる法律は食品衛生法だけではない。表示については2015年4月に施行された食品表示法が、品質や規格についてはJAS法が、それぞれ受け持っている。食肉処理場には「と畜場法」、食鳥処理場には「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」が別に適用される。輸出向けの製品では、相手国の規制(米国FSMAやEU規則852/2004など)との違いを把握する必要もある。工場の衛生設計や品質管理の仕組みは、国内法の最低基準ではなく、取引先が求める最も厳しい基準に合わせて作るのが一般的である。

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