遺伝子組換え|遺伝子を導入し形質を改変する技術

遺伝子組換え

遺伝子組換えとは、ある生物から取り出した遺伝子を別の生物のDNAに組み込み、本来その生物がもたない性質を持たせる技術である。英語ではgenetic modification、またはrecombinant DNA technologyと呼ばれる。基礎は1970年代の米国で確立された。現在ではヒトインスリンや抗体医薬品の製造、除草剤耐性ダイズなどの作物開発、洗剤用酵素の生産まで、医薬・農業・化学工業の各分野で使われている。日本では2004年に施行されたカルタヘナ法が、その使い方を細かく規制している。

誕生の経緯とアシロマ会議

出発点は1973年、スタンフォード大学のスタンリー・コーエンとカリフォルニア大学のハーバート・ボイヤーの共同研究にある。2人は異なるプラスミドに由来する抗生物質耐性遺伝子をつなぎ合わせ、大腸菌の中で増やすことに成功した。未知の危険を心配した研究者たちは、1975年に米国カリフォルニア州のアシロマに集まった。この会議で、物理的封じ込めと生物学的封じ込めを柱とする自主規制の指針がまとめられている。産業化は意外なほど早かった。1982年には、組換え大腸菌でつくったヒトインスリンが米国FDAの承認を受けている。それまでの糖尿病治療薬は、ブタやウシの膵臓から抽出したインスリンに頼っていた。

組換えDNAができるまで

実験室での作業は、おおむね次の4段階に分かれる。

  1. 目的遺伝子の取得:PCRで増幅するか、化学合成で用意する
  2. 切断と連結:制限酵素でDNAを切り、DNAリガーゼでつなぐ。代表的なEcoRIはGAATTCの6塩基を認識する
  3. 宿主への導入:大腸菌では塩化カルシウム処理やエレクトロポレーション、植物ではアグロバクテリウム法やパーティクルガン法を用いる
  4. 選抜と確認:抗生物質耐性マーカーで組換え体を選び、塩基配列を解析して正しく入ったかを確かめる

ベクターの役割

遺伝子を宿主へ運ぶDNAをベクターと呼ぶ。古典的なpBR322は4,361塩基対の小さなプラスミドで、多くの改良型の土台になった。タンパク質を大量につくる目的では、T7プロモーターを持つpET系がよく選ばれる。

宿主によって変わる生産性

同じ遺伝子を入れても、どの生物に入れるかで、できる製品の性質も製造コストも大きく変わる。主な宿主の特徴を比べると次のようになる。

宿主 倍加時間の目安 糖鎖付加 代表的な製品
大腸菌 約20分 できない インスリン、成長ホルモン
酵母 約90分 高マンノース型 B型肝炎ワクチン、HPVワクチン
CHO細胞 約20〜24時間 ヒト型に近い 抗体医薬品、エリスロポエチン

医薬品製造の現場での使い分け

分子量が約150kDaもある抗体医薬品は、糖鎖がないと薬効や体内での安定性が落ちる。そのためチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞が事実上の標準になっている。商業生産では容量10,000〜20,000Lのステンレス製バイオリアクターが使われてきた。ここ10年ほどは、洗浄バリデーションを省ける2,000L級のシングルユースバッグの採用が広がっている。CHO細胞の培養は培地費が高く、1バッチに2週間前後かかる。大腸菌は培地が安く工程も短い。ただし、目的タンパク質が封入体として固まると巻き戻し(リフォールディング)工程が増え、収率が大きく下がることがある。このため製造部門は、宿主を選ぶ段階で下流工程まで含めた総コストを見積もる。現場では、スケールアップの前に2L程度のベンチ培養槽で溶存酸素や攪拌条件を詰めておくのが通例である。

作物への応用と世界の栽培状況

農業分野で最初に市販されたのは、1994年に米国で発売された日持ちのよいトマト「フレーバーセーバー」である。1996年にはグリホサート耐性ダイズと、害虫抵抗性のBtトウモロコシが登場した。Btトウモロコシには、土壌細菌Bacillus thuringiensisがつくる殺虫性タンパク質の遺伝子が組み込まれている。国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によれば、2019年の世界の栽培面積は約1億9,040万haに達し、米国、ブラジル、アルゼンチンがその中心を占める。日本では食用作物の商業栽培は行われていないが、飼料用トウモロコシや搾油用ダイズの多くを輸入に頼っている。サントリーが2009年に発売した青いバラは、国内で流通する数少ない組換え植物の例である。

カルタヘナ法による規制

正式名称は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」という。2003年に発効したカルタヘナ議定書を国内で実施するための法律である。使用形態は2つに分かれる。圃場での栽培のように、環境への拡散を防がずに使う場合を第一種使用と呼ぶ。実験室や工場のように、拡散防止措置をとって使う場合は第二種使用にあたる。研究開発ではP1からP3までの物理的封じ込めレベルが定められ、産業利用では安全性の高いGILSPやカテゴリー1といった区分が設けられている。工場の実務では、培養後の廃液を121℃で20分以上オートクレーブ処理するなど、不活化の手順を標準作業書に明記しておく必要がある。所管は文部科学省、経済産業省、厚生労働省、農林水産省、財務省、環境省にまたがる。

食品表示のルール

食品表示基準では、大豆やとうもろこしなど9農産物と33加工食品群が表示の対象になる。2023年4月の改正により、「遺伝子組換えでない」と表示できるのは、組換え体が検出されない場合に限られるようになった。意図しない混入が5%以下に抑えられている場合は、「分別生産流通管理済み」などの表示を使う。

ゲノム編集との線引き

2012年にCRISPR-Cas9が発表され、ゲノム編集が急速に広まった。開発者のジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエは2020年にノーベル化学賞を受賞している。外来DNAを残さず、標的の部位を切断して変異を起こすだけの手法はSDN-1と呼ばれる。環境省は2019年、SDN-1をカルタヘナ法の対象外とする方針を示した。これに対して、外来の遺伝子を組み込むSDN-3は、従来どおり遺伝子組換えとして扱われる。2021年にはGABAを多く含むトマトが国内で届出を経て販売され、法律上の区分の違いが開発期間と審査費用を大きく左右することが、実例で示された。

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