硬度
硬度とは、材料がもっている硬さであり、物質が外力に対してどの程度変形しにくいかを示す指標である。一般に硬度が高いほど塑性変形しにくく、工具や機械部品など耐摩耗性が求められる場面で注目を集める。金属からプラスチック、ガラスに至るまであらゆる材料に適用される概念であり、その測定手法によって目的や特徴が異なる。例えば、鋼の焼入れによる硬度の変化は熱処理の品質管理に活用されるほか、セラミックスの硬度は高温部材の寿命を左右する重要パラメータとなる。ただし、絶対的な指標はなく、それぞれの測定方法によって、規定されている値が基準となっている。
硬度の定義
一般的には、強度・靱性などの機械的性質の一部として扱われるが、明確な定義は試験方法によって大きく左右される。塑性変形だけでなく、弾性変形や破壊の起こり方にも影響を受けるため、単純に「強い」「弱い」という二分法では語れない面がある。そこで測定条件を統一し、圧痕やひっかき傷などの形状や深さを定量化することで、材料ごとの比較が行われる。
測定方法の種類
代表的な測定手法として、マルテンス硬さ測定法、ビッカース硬度試験、ブリネル硬度試験、ロックウェル硬度試験、ショア硬さ試験などが挙げられる。ビッカース硬度試験はピラミッド形のダイヤモンド圧子を用い、微少領域にも適用しやすい。一方ブリネル試験は鋼球を用いて大きめの圧痕を残すため、金属組織の平均的な硬度を評価しやすい。ロックウェル硬さ試験は測定手順が比較的簡単で生産現場に適しており、材料の種類や硬さ域に応じて複数のスケールが設けられている。これら各手法には一長一短があり、用途や材料特性に合わせて使い分けられる。
ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ビッカース硬さ、ショア硬さの試験機がそれぞれあって、さすがにときめいちゃった。 pic.twitter.com/Jp6csHnYMT
— しんほむら (@flyingcicada) February 25, 2018
マルテンス硬さ測定法
マルテンス硬さ測定法とは、試験機がなかった頃に行われた測定方法である。岩石や宝石を使用して互いに引っ掻いてきずつけ合い、きずがついた溝幅を測定するという簡便な手法を用いる。やすりの硬さを利用して、互いにきずをつけて比較する方法もある。
マルテンス硬度はひっかき硬さではあるけど鉱物同士のひっかきじゃないから別に選択肢にあってもいいのか
— デルタ (@Delta_Catalina) February 15, 2020
ビッカース試験
ビッカース硬度試験とは、ダイヤモンド触針による硬度試験法で、ダイヤ型の対角長さを計測する。単位はHv。精密品、面粗度が小さい部品に用いる。
Hv = P/A = 2Psin68°/d2
- A:永久くぼみの表面積
- P:荷重
実物初めて見たwビッカース硬さ試験機w pic.twitter.com/N8Mv4zUnfC
— まどせん (@madsen0423) June 4, 2023
ブリネル硬度試験
ブリネル硬度試験とは、ブリネル硬さ試験機による材料の硬さ測定であり、荷重をかけて材料についたきずの大きさを計測する方法である。単位はHBである。鋼球の触針によるもので、丸型のくぼみの直径を計測する。鋳肌、鍛造肌などの材料に用いる。
HB = P/A = 2P/πD {D-(D2-d2)1/2}
- A:永久くぼみの面積
- P:荷重
- D:球の直径
- d:くぼみ表面の直径
この油圧式ブリネル硬度試験機、すき pic.twitter.com/evlVKN30Q0
— 赤田造兵廠 (@kuuteisyozoku) January 7, 2016
ロックウェル硬度試験
ロックウェル硬度試験とは、くぼみの深さが計器上に数値として表わされる測定方法で、A、B、Cの三種類の触針を選定して、対象物のきずの深さで硬度を測定する。単位はHRA、HRB、HRCである。面粗度が小さい精密品に用いる。
カッター刃について
耐久タイプ(普通の)、黒刃、チタンコーティング刃、ステンレス刃
どれがいいのかな~ってなりますよね。
なのでまずは硬さの違い!
ロックウェル硬さを調べてみました。下からNT ステンレス刃、オルファ ステンレス刃、耐久タイプ、スコッチ チタンコーティング刃、オルファ 黒刃 pic.twitter.com/0IVDlFaNwY
— くろたけ@手工具ソムリエ🤫 (@kurotake1972) February 15, 2020
ショア硬さ試験
ショア硬さ試験とは、対象物面に針を垂直に落とし、その反発高さが計器に表される測定方法である。単位はHSである。簡便であり、現場で使われている。熟練の技術が要求され、結果にばらつきが生じやすい
引張強さ
引張強さは、一般の硬度と直線的に比例する関係にある。硬度が高ければ引張強さが大きくなる。
引張強さ=(0.37-0.38)HB
硬度と他の機械的特性の関係
強度や靱性などの機械的特性とは異なり、硬度は表面近くの変形抵抗を直接示すため、耐摩耗性や切削性との相関が比較的高いとされる。ただし、同じ硬度を持つ材料でも引張強度や降伏点が必ずしも同じとは限らない。組織構造や化学成分の違いが変形挙動を左右するからである。このため、製造プロセスの評価や材料選定においては、強度試験や疲労試験などと合わせて総合的に判断することが望ましい。
実用上の意義
機械部品や工具の寿命を延ばすには、摩耗や塑性変形に対して高い抵抗を示すことが重要である。そのため、硬度を管理することは部品の品質保証に直結する。また、鍛造や焼入れなどの熱処理を施した後の硬度分布を測定すれば、組織変化が想定通りに進んだかを容易に確認できる。さらには表面処理(浸炭や窒化など)の効果測定としても用いられ、表面の硬度を上げることで耐摩耗性や疲労強度を大幅に向上させることが可能となる。
測定時の注意点
- 試験面の状態: バリや汚れが残ると正確な圧痕形状を得られず、測定誤差が増大する。
- 試験荷重の選定: 試料の硬さや厚みに応じて適切な荷重を設定しないと、材料内部まで変形が及ぶ可能性がある。
- 温度管理: 高温下では塑性変形が進みやすく、同じ硬度スケールでも値が変化し得る。
- 圧子の摩耗: ダイヤモンド圧子や鋼球が摩耗すると測定値がばらつくため、定期的な点検が欠かせない。