新石器時代
新石器時代は、農耕・牧畜開始以後の石器時代で、石器を単に打製するだけでなく研磨技術を用いて仕上げを行い、人々が農耕や家畜化などの生産活動に本格的に取り組みはじめた時期を指す。それ以前の旧石器時代では狩猟採集を主とした移動型の生活が中心であったが、新石器時代には生産性の向上と安定的な食糧確保が可能となり、定住的な集落づくりが進展した。石臼や磨製石斧などの新たな石器は農作業や建築作業の効率化に寄与し、土器の普及によって貯蔵技術や調理方法の多様化も生まれた。こうした社会的・技術的変革(食料生産革命)が、後の文明形成の土台となる重要な位置づけを持つ時代でもある。日本では縄文文化の時期にあたり、日本でも縄文土器が使用された。

土器
時代区分と特徴
新石器時代の始まりは地域ごとに異なるが、概ね世界各地で紀元前1万年頃から段階的に展開したとされる。温暖化に伴う環境変化が野生の植物や動物に与える影響は大きく、人類は狩猟対象や採集資源の変化に合わせて自らの生活様式を変革した。その結果として農耕が成立すると、人口が増加し、より大きな集落が形成され、社会構造も複雑化していった。特に、作物栽培や家畜化の導入は安定した食料供給源をもたらし、集落規模の拡大や専門的な分業の発展を促進したのである。
石器の研磨と道具の進化
新石器時代を特徴づける研磨石器は、斧や彫刻具として使われ、建築作業や木材加工の効率を飛躍的に高めた。従来の打製石器は鋭利な刃先を得やすい反面、耐久性に難があった。しかし研磨石器は強度に優れ、繰り返し使用が可能となった。さらに石臼や磨石などの道具の普及は、穀物の粉砕や調理を容易にし、食事の質を格段に改善した。その一方で、多様な作物を加工・調理するためにさらに多彩な石器が考案され、地域ごとに異なる形態の石器文化が形成されていった。
磨製石器
先石器時代では磨製石器が出てくる。磨製石器は、農耕の発達に伴って生まれ、砂や低石で研磨した石器である。これまでの狩猟を中心とした石器から、磨製石斧や、穀物をつぶすための石白・石皿・石杵・摺石・石鉢など農耕の生活に役立つ石器が使われるようになった。
細石器
剥片は石器の小型のもの。中石器時代から新石器時代初めにかけて、木や骨の柄にはめこみ、矢・槍・鎌などの利器として使用された。
土器と貯蔵技術
新石器時代には土器の製作技術が飛躍的に進み、粘土を焼成することによって容器が作られた。土器は食物を煮炊きしたり貯蔵したりするために重要な役割を果たし、それまでの狩猟採集中心の生活には見られなかった長期保存や栄養管理を可能とした。特に植物性の食料資源を効率的に利用できるようになった結果、定住化が一段と進み、人口増加と社会構造の複雑化につながったと考えられている。
火の活用と生活様式
火を利用する技術自体は旧石器時代から存在したが、新石器時代の土器や石臼などと組み合わせることで、煮炊きや加工の手法が大きく広がった。調理によって食材が柔らかくなり、消化吸収が向上したことで栄養価の高い食生活が実現した。また、火による加工は土器の焼成にも不可欠であり、他の道具や建材への応用も加速した。これにより集落や家屋の建設が進み、生活領域がさらに拡大したのである。
家畜化と農耕の発達
新石器時代は、狩猟を中心とした獲得経済から農耕や牧畜を中心とした生産経済に移る。約9000~8000年前、西アジアから東地中海域を中心に麦の栽培とヤギ・羊・犬・豚・牛の家畜化が進んだ。これら家畜の利用により、肉や乳製品などの動物性タンパク質を安定的に得られるだけでなく、皮革や毛といった工業的資源も確保できた。一方で農耕においては、コムギやオオムギ、イモ類などが主要作物として栽培され、地域によってはイネやキビなどが発達した。こうした獲得経済から生産経済に移行は生活の安定や、集団のコミュニティの形成、文化の発達などを促した。
地母神
農耕を中心とした社会では、地母神とよばれる、女性の繁殖力を強調する裸像として表されることが多かった。農耕では女性の活躍が大きくなるためだと考えられている。
集落の形成と社会構造
生産活動が軌道に乗ると、人々は年間を通じて同じ場所で生活する定住形態を確立した。これにより、集落内では役割分担が進展し、道具生産や農業・牧畜を専門に担う階層が現れる。さらに人口密度の増大に伴い社会秩序の維持が重要課題となり、長老や指導者層の権威が高まり、信仰や儀式を通じた共同体の統合がはかられた。こうして政治的・宗教的指導者が生まれ、後の都市文明へとつながる基盤を形成していったのである。
地域差と多様な展開
新石器時代は単一の文化圏ではなく、ユーラシア大陸からアフリカ、南北アメリカやオセアニアに至るまで、気候や地形、資源に応じて多様な農耕・牧畜形態が展開した。一部地域では早期に高度な灌漑農業が発達し、大規模な集落や祭祀施設が作られたのに対し、他の地域では移動農耕の形態を長期間維持した事例もある。いずれにせよ各地で研磨石器や土器の製作、家畜化による生産活動が広がり、人類史上初期の「文明の萌芽」が世界各地に生まれたのである。
- 研磨技術の普及による石器の進化
- 土器の利用と加工食文化の発展
- 家畜化による安定した食糧供給
歴史的意義
新石器時代に確立された農耕と家畜化の基盤は、後の金属器時代や大河文明へと発展する礎となった。(新石器革命(食料生產革命))余剰食料の出現は交易の活性化を生み、巨大建造物の建設や社会階層の形成にもつながっていった。また、特定地域への定住は土地に対する概念を変化させ、私有財産や領土意識が芽生える要因ともなった。こうした一連の変化は人類社会の組織や価値観を根本的に再編し、文明史上の大きな転換点であったといえる。