安全データシート|化学品の危険性と取扱いを伝える文書

安全データシート

安全データシートは、化学物質やそれを含む混合物を他の事業者へ譲渡・提供する際に、その危険有害性や取扱い方法を伝えるための文書である。英語のSafety Data Sheetを略してSDSと呼ばれる。国内ではJIS Z 7253に記載項目と様式が定められており、16項目の構成をとる。塗料、接着剤、洗浄剤、切削油など、工場で日常的に使う資材の多くに添付されている。

MSDSからSDSへ名称が変わった経緯

ベテランの技術者には「MSDS(Material Safety Data Sheet)」という呼び方のほうがなじみ深いかもしれない。日本では1992年に旧労働省・旧厚生省・旧通商産業省が指針を示し、MSDSの交付が始まった。転機は2003年である。この年、国際連合がGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)を採択し、国ごとにばらばらだった分類基準と表示方法を世界共通にする流れが生まれた。国際規格ISO 11014やGHS文書では名称がSDSに統一され、日本でも2012年改正のJIS Z 7253で「安全データシート」という呼称が正式に採用された。現在の最新版はJIS Z 7253:2019である。

交付を義務づける3つの法令

国内でSDSの提供義務を定めている法律は3つある。対象となる物質の範囲がそれぞれ異なるため、ひとつの製品が複数の法令にまたがって該当することも珍しくない。

法令 主な対象 根拠条文
労働安全衛生法 通知対象物(2024年4月以降、順次追加) 法第57条の2
化学物質排出把握管理促進法 第一種指定化学物質515物質、第二種指定化学物質134物質 法第14条
毒物及び劇物取締法 毒物・劇物 施行令第40条の9

なかでも影響が大きいのが労働安全衛生法の改正である。従来の通知対象物は674物質だったが、国がGHS分類を済ませた物質を2024年4月から段階的に追加しており、最終的には約2,900物質まで広がる見込みとなっている。2023年4月施行の改正省令では、SDSのうち「人体に及ぼす作用」の項目を5年以内ごとに確認し、必要に応じて更新することも義務になった。

記載される16項目

JIS Z 7253で定められた項目と順番は次のとおりである。並び順は国際的に共通しているため、海外メーカーのSDSを読む際にも同じ番号で該当箇所を探せる。

  1. 化学品及び会社情報
  2. 危険有害性の要約
  3. 組成及び成分情報
  4. 応急措置
  5. 火災時の措置
  6. 漏出時の措置
  7. 取扱い及び保管上の注意
  8. ばく露防止及び保護措置
  9. 物理的及び化学的性質
  10. 安定性及び反応性
  11. 有害性情報
  12. 環境影響情報
  13. 廃棄上の注意
  14. 輸送上の注意
  15. 適用法令
  16. その他の情報

現場で特によく参照されるのは、第2項・第8項・第9項の3つである。第2項には絵表示と注意喚起語(「危険」または「警告」)がまとめられており、製品の危うさを一目でつかめる。第8項には許容濃度や必要な保護具が載っていて、第9項には引火点や沸点、蒸気圧といった物性値が並ぶ。

混合物の場合の扱い

塗料のように数十種類の原料を配合した製品では、すべての成分を開示するわけではない。営業秘密にあたる成分は名称を伏せることが認められているものの、危険有害性に関わる成分の含有量は記載する必要があり、実務上は「10~20%」のような幅で示されることが多い。

製造現場での使われ方

SDSは受け取ってファイルに綴じるだけの書類ではない。2024年4月から本格的に始まった化学物質の自律的管理では、事業者がSDSの情報をもとにリスクアセスメントを行い、ばく露を抑える方法を自ら選ぶことになった。たとえば第8項に記載された濃度基準値と作業環境の測定結果を見比べ、局所排気装置を新たに設けるか、呼吸用保護具で対応するかを判断する。このとき、第9項の引火点が21℃未満であれば消防法上の第1石油類に当たる可能性があり、保管数量によっては危険物倉庫の設置まで検討が必要になる。

購買部門にとっても無視できない書類である。新しい資材を採用する前にSDSを取り寄せ、社内の禁止物質リストと照らし合わせる運用は、自動車や電機業界のサプライチェーンでは当たり前になっている。

作成と更新の実務上の注意

自社製品のSDSを作る場合、原料メーカーから届いたSDSを集め、配合比率に基づいて混合物としてのGHS分類をやり直す手順を踏む。専用のSDS作成ソフトを導入する企業もあれば、外部の専門業者に委託する企業もある。委託の場合、国内向け1件あたり数万円程度がひとつの目安とされ、多言語化や海外法規への対応を加えると費用は大きく膨らむ。

輸出の場合は手間がさらに増える。EUではREACH規則の附属書IIに沿った様式が求められ、米国ではOSHAの危険有害性周知基準(HCS 2012)に従う必要がある。同じ製品であっても仕向け国ごとに別の版を用意しなければならない。顧客から「最新版のSDSを送ってほしい」という依頼が届くのは、多くの場合、法改正や原料変更の直後である。改訂日と版番号を第16項に明記しておくと、取引先とのやり取りがずっと円滑になる。

ラベル表示との関係

容器に貼るGHSラベルとSDSは、内容が一致していなければならない。ラベルは限られた面積で絵表示や注意書きを伝える「入口」の役割を担い、詳しい情報はSDSが受け持つ、という分担になっている。両方の様式はどちらも日本産業規格のJIS Z 7253にまとめて規定されている。ラベルだけを修正してSDSの改訂を忘れると内容に食い違いが生じ、監査で指摘を受ける原因となる。

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