孫子
春秋時代の末期、呉王闔廬に仕えた孫武が呉の戦争の教訓を元に体系的な軍事思想を記述した。孫武は厳格な軍令に基づく用兵術を持ち、呉王闔廬から実力を評価して、呉の将軍に採用された後、西方では強国の楚を破り、北方では晋や斉に圧力をかけ、その頭角を表した。
目次
『孫子』
計、作戦、謀攻、形、勢、虚実、軍争、九変、行軍、地形、九地、火攻、用間の全十三篇からなる。
孫子がでてきた背景
春秋時代の戦争は、総兵力は数百~数万の貴族を中心とした部隊で構成され、平原における合戦で行われた。比較的小規模で弓矢や剣、戦車にによる短期的な戦闘であった。しかし、戦国時代に戦争は大規模化する。数十万~数百万の貴族や一般人民で構成され、歩兵や騎兵が主戦力となり、戦術も地形や多彩な用兵をつかうなど複雑化した。それまでは数日でおわったものが最大で数十年こえるような長期なものとなる。それにともない、従来の戦争では、講話で解決されていたものが、負けると亡国の危機が訪れるようになった。こうした被害の深刻化の背景の中で戦争を避け、「戦わずして勝つ」ことを説いた孫子が誕生されることとなる。
戦争の悪影響
孫子は、戦争が経済に及ぼす悪影響を強調する。戦争がいかに大量の物資を消耗し、戦費の重圧や人員・物資の調達が国家経済の疲労させるかを説明する。この負の部分を直面から見つめることが、孫子の兵法の第一である。
戦争は敵を欺く行為である。
戦争は軍事衝突であるというより、敵を欺き、出し抜く行為であると定義した。国家の戦争理由は常に利益の奪い合いにある。だとすれば、軍事衝突に勝ち抜くことが目的ではなく、利益を確保することこそ目的であり、それゆえに敵の意志を拒み、相手に利益を確保させないことを考えなければいけない。軍事衝突は経済的損失からみて、利益を確保する、という目的と反する関係になりかねないといえる。
短期決戦の重視
戦争は経済的損失が大きいので、その損害を抱きる限り抑えるため、短期決戦こそが重要とかんがえられる。そのため長期化しやすい城攻は下策であると考える。相手が警備の固い城に立てこもっているときに戦うことは、長期化を招き、消耗戦に陥ることが多く、たとえ勝利したとしても経済的損失が大きすぎる。城塞を素通りし、野戦で勝利をすることに利があるとした。
防衛戦を否定、遠征戦を行うべき
防衛戦はできるだけ避け、敵国深くに軍を派遣し、外で戦争すべきである。これは軍事規模が劣勢である場合を想定している。国内で防衛戦を行うと、兵士は妻子や故郷を頼って国外に逃げてしまう。一方、敵国に攻め入ると、逃げ場を失った兵士は結束し、戦意が高揚する。また国内深くに攻め込まれた敵国は、必ず主力軍を繰り出して、侵攻軍を阻止しようとする。そこで主力軍同士の決戦に持ち込み、短期に決着をつける。
主力軍の分断
決戦場に誘いだした敵の主力軍を機動力によって分断し、個々の戦闘での相対的優勢を確保して個別に撃破せよ、という戦術である。戦争全体を短期に集結させるため、局地戦を避け、敵国の主力軍との決戦に持ち込まないといけない。ただし主力軍同士が衝突すれば、被る損害は大きく勝利に持ち込むことも多い。従い、敵の意表をつく奇襲攻撃か、敵の主力軍を撹乱して分断するよう仕向けることが大事である。
情報戦
軍事コストを抑えるため情報戦を重視する。敵に罠をしかけ、敵の事情を正確を把握し、自分に有利な状況になるよう策謀する。敵側に自国の実情厳重に秘匿しなければならない。自分の情報はもらさずに、各種の諜報員や工作員を敵国に潜入させ情報戦に勝利しなければならない。
ただし、軍事衝突を避けるよう努めることが大事
軍事力の使用は大きなコストであり、その損失は大きくリスクも甚大である。損失に見合う利益が見込めるかどうか、軽はずみに侵略することを避け、十分な勝算がたったときのみ開戦すべきである。