包括的核実験禁止条約(CTBT)
包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty)は、宇宙空間、大気圏内、水中、地下のあらゆる核爆発を禁止し、その検証手段を定めた条約である。1996年9月に国連総会で採択されたが、インドとパキスタンが署名しないため発効していない。1998年5月には両国が相次いで核実験を強行し、北朝鮮は2009年以降核実験を継続、2023年、ロシアはCTBTの批准を撤回するなど批准はより難しくなっている。
条約の概要
包括的核実験禁止条約(以下、CTBT)は大気圏内外、水中、地下のあらゆる核実験を禁止する条約である。特に部分的核実験禁止条約(PTBT、1963年)で除外された地下実験を含むことが特徴である。冷戦終結後の核実験のモラトリアム(一方的停止)の流れを受け、1993年にジュネーブ軍縮会議(CD)で本格的な交渉と条約起草が開始された。
背景と目的
交渉の背景には、冷戦終結による緊張緩和や核兵器技術の成熟により実験の必要性が減少したこと、地域紛争や核拡散への懸念があった。1995年の核不拡散条約(NPT)の無期限延長決議に伴い、CTBT交渉の早期完了が求められた。これにより核開発を抑制し、核不拡散体制を強化する狙いがあった。
条約の交渉と採択
1996年にジュネーブ軍縮会議で条約案がほぼ完成したが、インドの反対により全会一致での採択が困難となった。インドは核廃絶の期限設定がないことや署名・批准を発効要件とされたことに反発した。その後、オーストラリアが国連総会に条約案を提出し、1996年9月10日に採択された。
条約の内容
CTBTは核爆発を伴うあらゆる実験を禁止し、他国の実験を支持したり参加することを禁じている。ただし、核実験の定義には曖昧さが残り、アメリカやロシアは爆発を伴わない未臨界核実験を継続している。条約の履行を確保するため、CTBT機構(CTBTO)が設立され、国際監視制度(IMS)を構築している。
条約の発効と現状
2010年2月時点で182カ国が署名し、153カ国が批准しているが、発効には核兵器開発能力のある44カ国すべての批准が必要である。署名のみで批准していない国や署名すらしていない国があり、条約発効の見通しは立っていない。
主要国の動向と今後の展望
インドとパキスタンは1998年に核実験を実施し、核保有を宣言した。北朝鮮も2006年以降核実験を繰り返し、ロシアは2023年にCTBTの批准を撤回した。これにより、条約の有効性に対する懸念が高まっている。オバマ政権は核なき世界を目指し、CTBTの批准を一つの課題としたが、アメリカ上院の批准拒否により実現しなかった。今後の国際秩序の形成において、CTBTの発効は依然として重要な課題である。