プランク定数
プランク定数は、光や電子などのミクロな世界で、エネルギーがどれだけの大きさの「粒」に分かれているかを表す物理定数である。記号はhで表し、値は6.62607015×10-34 J·sと定義されている。1900年にドイツの物理学者マックス・プランクが導入した。量子力学の出発点となった定数で、2019年からは質量の単位キログラムを定める基準にもなっている。
黒体放射の問題から生まれた定数
19世紀の終わり、溶鉱炉や電球のように熱くなった物体が出す光の色の分布(スペクトル)を、当時の理論では説明できなかった。この現象は黒体放射と呼ばれる。レイリー・ジーンズの式は短い波長ほど放射が無限に大きくなると予測してしまい、のちに「紫外発散」と呼ばれた。プランクは1900年12月14日のドイツ物理学会で、振動数νの光のエネルギーはhνの整数倍しかとれないと仮定すれば実測と一致することを示した。本人は当初、この仮定を計算上の工夫と考えていたようである。それでも、エネルギーがとびとびの値をとるという考え方は、その後の物理学を大きく変えることになった。
光電効果と光子のエネルギー
1905年、アインシュタインはプランクの仮説をさらに進め、光そのものがE = hνのエネルギーをもつ粒であると考えた。これで光電効果、つまり金属に光を当てると電子が飛び出す現象をうまく説明できた。弱い光でも振動数が十分に高ければ電子は出てくるが、強い光でも振動数が足りなければ1個も出てこない。この性質は、光を波と考えるだけでは説明できなかった。この光の粒は、現在光子と呼ばれている。
アメリカのミリカンは約10年かけて実験を重ね、1916年にこの関係が正しいことを確かめた。光電効果で求めたhの値は、黒体放射から求めた値と誤差の範囲で一致した。異なる現象から同じ定数が得られたことで、プランク定数は自然界の基本的な量として認められるようになった。
換算プランク定数と不確定性原理
理論計算では、hを2πで割った換算プランク定数ħ(エイチバー)がよく使われる。値はおよそ1.054571817×10-34 J·sである。ハイゼンベルクが1927年に示した不確定性原理は、位置と運動量の測定のばらつきについて、Δx·Δp ≥ ħ/2という関係で表される。私たちの日常の物体ではħがとても小さいため、この影響は気にならない。ところが電子1個の大きさでは、この関係がはっきり効いてくる。
2019年のSI再定義とキログラム
質量の単位は長いあいだ、1889年に作られた白金イリジウム合金の国際キログラム原器という「物」で決められていた。しかし各国の複製と比べると、100年あまりで約50 μgの差が見つかっていた。そこで2018年11月の第26回国際度量衡総会で国際単位系の改定が決まり、2019年5月20日に施行された。このときプランク定数は不確かさのない定義値になり、キログラムはこの定数から決める仕組みに変わった。
| 定義定数 | 記号 | 定義値 | 主に関わる単位 |
|---|---|---|---|
| プランク定数 | h | 6.62607015×10-34 J·s | kg |
| 電気素量 | e | 1.602176634×10-19 C | A |
| ボルツマン定数 | k | 1.380649×10-23 J/K | K |
| アボガドロ定数 | NA | 6.02214076×1023 mol-1 | mol |
キッブルバランスとXRCD法
定義値を決めるため、2つの方法でhが精密に測られた。1つはイギリス国立物理学研究所のブライアン・キッブルが1975年に考え出したキッブルバランスで、電気の力と重力をつり合わせて質量を求める。もう1つは、ケイ素28の割合を99.99 %以上に高めた単結晶球の原子の数を数えるX線結晶密度法(XRCD法)である。日本の産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)はXRCD法で測定データを提供し、2017年のCODATAによる値の決定に貢献した。
電気標準を支える量子効果
電圧と電気抵抗の標準も、プランク定数を使った量子現象で作られている。ジョセフソン効果では、マイクロ波を当てた超伝導素子に、ジョセフソン定数KJ = 2e/hで決まる非常に正確な電圧が発生する。量子ホール効果で得られる抵抗は、フォン・クリッツィング定数RK = h/e2(約25812.807 Ω)で決まる。hとeがどちらも定義値になったため、これらの定数も誤差のない値になった。
製造現場で役立つ光子エネルギーの計算
光デバイスの設計では、E = hc/λを電子ボルトで使いやすくした近似式「E[eV] ≒ 1240 / λ[nm]」がよく使われる。たとえば波長500 nmの緑色の光は約2.48 eV、波長1064 nmのYAGレーザーは約1.17 eVになる。この換算は次のような場面で使われる。
- 発光ダイオードの発光色と材料のバンドギャップを対応させる
- シリコン(バンドギャップ約1.12 eV)の受光素子が感じられる長波長の限界(約1100 nm)を見積もる
- 半導体レーザーの波長を選ぶときに、加工する材料が光を吸収するかどうかを判断する
- 紫外線硬化樹脂に合わせて、光源の波長(365 nmなど)を決める
実務では、受光センサーを選ぶときにこの計算を省くとトラブルになりやすい。たとえば1550 nm帯の通信用光はシリコンフォトダイオードではほとんど検出できないため、InGaAs素子を使う必要がある。InGaAs素子は同じ受光面積のシリコン品より数倍から10倍ほど高くなることがあり、見積もりの段階で光子エネルギーを確認しておくと仕様の差し戻しを防げる。質量の校正については、SIの再定義後もJCSSの分銅校正の手順や不確かさの扱いは実質的に変わっていない。日本国キログラム原器No.6は、現在も国内の質量標準をつなぐ役割を担っている。
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