ヒンドゥー教
ヒンドゥー教とは、古代インド主流の民族宗教である。バラモン教に複雑な民間信仰が混ざリ合って成立した民族宗教のこと。ウパニシャッド哲学などの影響を受け、『ヴエーダ』の聖典の他『マハーバーラタ』や『プラーナ』なども聖典としている。キリスト教のように明確に体系が整った宗教ではなく、インドの伝統的な宗教の慣習などが集積されたものである。民族や土地によって様々な特色がある。その意味では、インド宗教の総称と見ることができる。
ヒンドゥー教の特徴
ヒンドゥー教は、仏教のような宗教体系をもたないものの、アーリヤ人以前のインド先住民の民間信仰や仏教・ジャイナ教の要素を含んでいて、ヴィシュヌ神を中心とする派やシヴァ神を中心とするなど多数の宗派に分かれる。仏教やキリスト教・ユダヤ教に比べてインド国民の文化や習慣の中に生きる民衆信仰である。
バラモン教と土着の宗教とが融合
マウリヤ朝、崩壊後の4~5世紀の間に、バラモン教と土着の宗教とが融合した形で、ヒンドゥー教が次第に生まれてきた。
ヴィシュヌ神
ヴィシュヌ神はヴェーダの宗教では太陽神のひとつにすぎなかったが、ヒンドゥー教では宇宙を創造し保持する神、慈悲の神とされる。危機に際して現れ、無差別に人々を救済する。また多くの名で呼ばれるが、これは地方的に信仰を集めていた神がヴィシュヌ神と同一視された結果である。
ヴィシュヌ神の化身
ヴィシュヌ神は、様々な姿に変わり、地上世界を救った。ヴィシュヌ神の化身は、あるときは、民衆の信仰を集めていたクリシュナ神、あるいは『ラーマーヤナ』の英雄ラーマがおり、また仏教を興したブッダもまた化身のひとりとされる。これらの神々に祈りを捧げることはヴィシュヌを拝むことと解釈される。
シヴァ神
シヴァ神は、ヒンドゥー教の破壊神で、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしている。また踊る神、芸術の神であり、苦行する神、獣類の神でもある。すでにインダス文明の印章にシヴァ神の原型とみられる神が彫られているが、ヴェーダの宗教の暴風神ルドラと同一視されることによって、アーリヤ民族の宗教のなかにとりこまれ、やがてヒンドゥー教の最高神の地位を獲得した。
ブラフマー神
ブラフマー神は、世界を創造する神。ブラフマーが創造した世界を、ヴイシュヌ神が維持し、シヴア神が破壊し再生するとされた。ブラフマー神はヴィシュヌ神やシヴァに比べて、民衆の間にあまり人気がなかった。
自然神を崇拝する多神教
ヒンドゥー教は『ヴエーダ』と呼ばれる聖典をもつバラモン教が民間の信仰や風習を吸収することによって成立した自然神を崇拝する多神教であり、現在ヒンドゥ—教徒はインド人口の約8割を占めると言われている。
『ヴァガヴァッド・ギーター』
聖ヴァガヴァット(クリシュナ)は告げた。
アルジュナよ、この世には二種の立場があると前に私は述べた。
すなわち、知識のヨーガによるサーンキヤ(理論家)の立場と行為のヨーガによるヨーギン(実践者)の立場とである。
人は好意を企てずして行為の超越に達することはない。
また単なる〔行為の〕放擲のみによって、成就に達することはない。
・・・
運動器官を制御しても、思考器官(意)により感官の対象を想起しつつ坐す心迷える人彼は似非行者と言われる。
しかし思考器官により感官を制御し執着なく、運動器官により行為のヨーガを企てる人、彼はより優れている。