ドーパント
ドーパントは、半導体にごく微量添加される不純物元素で、キャリア(電子や正孔)の濃度や移動度を変化させることで、半導体の電気特性を制御する役割を担う。シリコン(Si)をはじめとする結晶構造の中にドーパントを導入すると、必要な導電型やしきい値電圧を得ることができ、トランジスタやダイオードなど多種多様なデバイスを実現できる。特に現代の集積回路では、高速動作や低消費電力を達成するため、わずかなドーパント量を極限まで制御する技術が欠かせない。逆に誤った濃度や位置に導入すると性能を損ない、歩留まりが悪化する要因となるため、ドーパント技術の精密さは半導体製造の肝といえる。
ドーパントの役割
半導体が機能するためには、結晶構造内で適度なキャリアを発生させることが重要だ。結晶内に自由電子が不足すれば電気伝導が起こりにくいし、過剰になればリーク電流が増加してオフ特性が劣化する。そこでドーパントを注入して適正なキャリア密度を確保するのが基本的なアプローチだ。ドーパント濃度を細かく制御することによって、MOSFETやバイポーラトランジスタなどの特性を意図的に調整できる。特定のエネルギーレベルを持つドーパントが結晶中に加わることで、新たな電子準位が作られ、これがキャリアの生成・再結合速度を左右する。
p型とn型
半導体で最も代表的なのがp型とn型の区別だ。シリコンに3価元素のホウ素(B)やアルミニウム(Al)を加えると、正孔が主なキャリアとなるp型半導体を得られる。一方で5価元素のリン(P)やヒ素(As)をドープすると、自由電子を主キャリアとするn型半導体が形成される。p型とn型を組み合わせることでpn接合が作られ、ダイオードやトランジスタなど多彩な素子を構成できる。近年では微細化に伴い、単純なp型・n型だけでなく、超浅接合技術や選択的エピタキシャル成長など、より複雑な構造に合わせたドーピングが行われている。
ドーピングの方法
ドーパントを注入する方法としては、大きくイオン注入法とインサイチュドーピングが挙げられる。イオン注入法は、加速したドーパントイオンをシリコンウエーハに衝突させる工程で、注入深さや量の制御が容易だ。一方、イオン衝撃による格子欠陥の発生が懸念されるため、アニール(熱処理)で欠陥の修復と活性化を同時に行う必要がある。インサイチュドーピングでは、結晶成長中にドーパントを供給して同時に取り込むため、格子配列が乱れにくく、品質の高い層を形成しやすいが、注入領域の自由度はイオン注入に比べて劣る面もある。
材料ごとの違い
ドーパントの種類や働き方は、半導体のバンドギャップや結晶構造に大きく依存する。シリコンではホウ素やリンが典型例だが、ゲリウム砒素(GaAs)など化合物半導体の場合、シリコンそのものがドーパントとして用いられるケースもある。ワイドバンドギャップ半導体のシリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)に至っては、ドーピングが難しく、結晶欠陥や表面状態がデバイス特性を大きく左右する。こうした材料固有の課題に対処するため、成長技術や注入プロセスが綿密に研究されている。
先端技術との連携
超微細化が進むCMOSプロセスでは、FinFETやゲートオールアラウンド(GAA)構造のようにトランジスタ形状自体が3次元化しており、従来の水平的なドーピングだけでは十分に対応できない場面が増えた。そこでイオン注入時のビーム角度や局所的なマスク技術を駆使することで、立体的なチャネル領域への正確なドーピングが試みられている。フォトリソグラフィとの組み合わせだけでなく、アニール時にレーザーやフラッシュランプを用いるなど、プロセス全体を複合的に最適化する取り組みが重要性を増している。
応用例と課題
ドーピング技術は半導体デバイスだけでなく、太陽電池やパワーデバイスなどエネルギー分野、LEDやレーザーダイオードなどの光デバイスにも広く応用されている。例えば太陽電池の高効率化には、pn接合の形成が肝となり、表面再結合を抑えるための選択的ドーピングが開発の鍵を握る。一方で、高濃度化に伴う結晶欠陥やデバイス寿命の低下、加速工程でのチャージアップなど課題は多い。製造工程が複雑化する中で、歩留まりを高めるためにシミュレーション技術やin situ計測がますます重要になっている。