シリコーンゴム
シリコーンゴムは、ケイ素と酸素が交互につながったシロキサン結合(Si–O–Si)を主鎖にもつ合成ゴムである。炭素を骨格とする一般的なゴムと比べて耐熱性と耐寒性に優れ、標準的なグレードでもおおむね−60℃から+200℃の範囲で弾性を保つ。ASTM D1418では側鎖の種類によってMQ、VMQ、PVMQ、FVMQに分類され、市場で最も多く流通しているのはビニル基を少量導入したVMQである。用途は自動車部品や電子機器から、哺乳瓶の乳首、医療用チューブまで幅広い。
開発の経緯
始まりは1940年代の米国にさかのぼる。航空機エンジンの周辺で使える耐熱絶縁材料が必要とされ、1943年設立のダウ・コーニング社とゼネラル・エレクトリック社が、ほぼ同じ時期にオルガノポリシロキサンの工業化を進めた。軍需向けに生まれた素材が民生品へ広がったのは戦後のことになる。日本では1953年に信越化学工業がシリコーンの国産化に着手し、のちに東レ・ダウコーニングなども生産を始めた。1970年代には液状タイプが実用化され、射出成形による自動化が一気に進んでいる。
熱に強い理由は分子構造にある
Si–O結合の結合エネルギーは約444 kJ/molで、C–C結合の約356 kJ/molを大きく上回る。熱を受けても主鎖が切れにくいのはこのためである。代表的なジメチルシロキサンの繰り返し単位は –[Si(CH3)2–O]n– と表される。Si–O–Siの結合角は約143°と広く、結合まわりの回転もしやすい。分子鎖がしなやかに動くので低温でも硬くなりにくく、ガラス転移温度は約−125℃と汎用ゴムの中で際立って低い。
補強材なしでは強度が出ない
分子どうしを引きつける力が弱いことは弱点でもある。補強しない状態の引張強さは0.3 MPa前後しかなく、そのままでは実用にならない。このため、比表面積の大きいヒュームドシリカを樹脂100部に対して20〜40部ほど配合するのが一般的である。配合後の引張強さは5〜10 MPa程度まで上がり、硬さもJIS K 6253のデュロメータA硬さで20〜80の範囲に調整できる。
ほかのゴム材料との比較
材料を選ぶ現場では、EPDMやフッ素ゴムと並べて比べることが多い。耐熱性だけで比べるとフッ素ゴムに近い性能をもつものの、耐油性や機械的強度では劣る。価格はEPDMより高く、フッ素ゴムよりは安い。下の表は一般的な目安であり、グレードや配合によって変わる。
| 項目 | シリコーン(VMQ) | EPDM | フッ素ゴム(FKM) | NBR |
|---|---|---|---|---|
| 使用温度範囲 | −60〜+200℃ | −50〜+150℃ | −20〜+230℃ | −30〜+120℃ |
| 耐油性 | 劣る | 劣る | 優れる | 優れる |
| 耐候性・耐オゾン性 | 優れる | 優れる | 優れる | やや劣る |
| 引裂強さ | 低い | 中程度 | 中程度 | 高い |
| 材料単価の目安 | 中〜高 | 低 | 非常に高 | 低 |
形態と硬化方式による分類
形態によって、ミラブル型(HTV)、液状射出成形用(LSR)、室温硬化型(RTV)の3種類に分けられる。ミラブル型は粘土のように固い生ゴムをロールで練り、圧縮成形や押出成形で加工する。LSRは2液を混ぜて金型に注入するタイプで、成形サイクルが数十秒と短い。RTVは空気中の湿気や2液の反応によって常温で硬化し、シーリング材や型取り材として使われる。
過酸化物架橋と付加反応架橋
硬化の仕組みは大きく2つある。ひとつは有機過酸化物のラジカルで分子鎖をつなぐ方法で、ミラブル型で広く使われている。もうひとつは白金触媒のもとで、ビニル基とSi–H基を付加反応させる方法である。後者は分解生成物が出ないため、成形品に臭いが残りにくく、食品用や医療用に向いている。どちらも分子鎖を架橋してゴム弾性を生むという点は、天然ゴムの加硫と同じ考え方である。
製造現場で起こりやすい不具合
白金触媒を使う付加型は扱いやすい反面、硬化阻害を起こしやすい。触媒が別の物質と結びついて働かなくなり、表面がべたついたまま固まらない現象である。阻害の原因になりやすいのは、次のような物質である。
- 硫黄を含む加硫ゴムや硫黄系の添加剤
- 縮合型RTVに使われる有機スズ化合物
- アミン類やアミド類を含む硬化剤・接着剤
- リン化合物を含む難燃剤や可塑剤
実際の工場では、NBR製の手袋を着けたまま原料を扱っただけで硬化不良が出た例もある。治具や容器を専用にすることが、トラブルを防ぐ近道になる。もうひとつ見落とされやすいのが、環状低分子シロキサン(D3〜D10)の揮発である。電子機器の内部で揮発した成分がリレーやスイッチの接点に付着し、放電の熱でSiO2に変わって接点不良を起こす。対策として、200℃で4時間程度の二次加硫(ポストキュア)を行うか、低分子量品を減らした接点障害対策グレードを指定する。
用途と規格
自動車ではイグニッションプラグのブーツ、ラジエーターホース、各種ガスケットやOリングに使われる。電子機器では、カーボンを配合して導電性をもたせたキーパッドの接点や、放熱シートが代表的な用途である。食品分野では、2020年6月に施行された食品衛生法のポジティブリスト制度に適合することが前提となる。輸出品であれば、米国FDAの21 CFR 177.2600への適合も確認される。医療機器向けでは、ISO 10993に基づく生体適合性の評価が欠かせない。試験方法は、JIS K 6249(未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法)にまとめられている。
LSR成形のコスト感
LSR用の金型は、コールドランナーやバリが出ない構造が必要なため、ミラブル型の圧縮金型に比べて数倍の費用がかかることも珍しくない。それでも、月に数十万個を超える量産品であれば、サイクルタイムの短さと後工程のバリ取りが不要になる効果で、1個あたりのコストは下がる。試作や少量品はミラブル型の圧縮成形、量産品はLSRと使い分けるのが現場では一般的である。
苦手な使用環境
鉱物油や燃料に触れると大きく膨潤するため、エンジンオイル周りには向かない。そのような箇所では、側鎖にトリフルオロプロピル基を導入したフロロシリコーンゴム(FVMQ)が使われる。0.3 MPaを超えるような高圧の水蒸気にさらされると、加水分解が進んで劣化しやすいことにも注意したい。引裂きや摩耗にも弱く、動的なシール部品には熱可塑性エラストマーやほかの合成ゴムを選ぶこともある。
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