オイルダンパ|粘性流体で建物や機械の揺れ抑制

オイルダンパ

オイルダンパは粘性流体の抵抗を利用して運動エネルギーを熱に変換し、振動・衝撃・相対速度を抑制する機械要素である。シリコーンオイルなどの粘性流体を封入したシリンダ内でピストンを移動させ、オリフィスやクリアランスを通過する流体圧力損失により減衰力を発生する。自動車のサスペンション、建築土木の制振、産業機械の位置決めや端部衝突の緩和まで用途は広い。理想化すれば減衰力は速度比例の粘性減衰が基本であり、F=c·v(c: 減衰係数, v: 相対速度)で表されるが、実機は流路の非線形やシール摩擦の影響を受ける。

原理(粘性減衰のメカニズム)

オイルダンパは流体の粘度ηと流路形状に依存した圧力差Δpを利用する。ピストン運動で生じる体積流量Qがオリフィスを通過すると、一般にΔp∝QまたはΔp∝Q²の関係が現れ、結果として減衰力Fが速度vに対して線形~準二乗で増加する。発生した減衰力が仕事を行い、瞬時の散逸パワーはP=F·v=c·v²であり、発熱はオイルと外筐へ伝導・対流で放散される。熱容量と放熱設計は性能安定の要である。

速度依存性と非線形モデル

低速域はシール摩擦の寄与で擬似クーロン成分が現れ、等価モデルとしてF=c·v+F₀+αv|v|を用いる場合がある。高速域ではキャビテーション抑制のため背圧室やガス封入を設け、連行気泡を抑えて安定した力特性を確保する。

構造と主な形式

  • オリフィス型:ピストンに固定オリフィスを設け、差圧で減衰力を得る基本形式。構造が簡素で信頼性に優れる。

  • 剪断流型:隙間剪断の粘性抵抗を主因とする。低ノイズで微小速度の追従に適する。

  • 可変オリフィス型:ニードルやスプールで流路断面を可変化し、温度や荷重に応じた減衰調整を可能にする。

  • 蓄圧器併用型:ガス室を備え体積変動を吸収、キャビテーションを緩和し連続大ストロークに対応する。

シール材と漏れ対策

シールはNBR、FKM、PTFEなどを用途温度・媒体適合で選ぶ。初期摺動抵抗(ブレークアウェイ)低減のため表面粗さと潤滑設計を最適化し、圧力保持のため端部はボルト締結の予圧管理を行う。

特性と設計指標

オイルダンパの主要指標は、減衰係数c(N·s/m)、最大減衰力Fmax、許容ストローク、最大速度、温度範囲、耐久回数である。温度上昇で粘度ηが低下しcが減少するため、連続動作では熱平衡時の特性を基準化する。力-速度線図、力-変位ヒステリシス、周波数応答で評価し、温度補償やバイパス機構で平坦化を図る。

温度依存性

粘度のArrhenius型依存を考慮し、冬季低温・夏季高温の双方で所望の減衰を満たすよう選定する。必要に応じて高粘度指数のシリコーンオイルを用いる。

用途

建築土木の制振:ブレース間やアウトリガーに配置し、地震時に相対変位速度から減衰力を得て層間変位を低減する。設計は耐震設計の枠組みで、入力は地震荷重応答スペクトルを用いて検討する。免震層の補助減衰として免震構造にも併用されるほか、上部構造の制振構造での採用も一般的である。

  • 輸送・機械:搬送機の端部衝突緩和、産業ロボットの停止衝撃緩和、計測機の振動低減。位置決め精度や再現性の向上に寄与する。

  • 車両:サスペンション用ショックアブソーバに相当し、乗り心地と操安を両立させる。バルブ系は多段で、低速域のコンプライアンスと高速域の減衰力を両立する。

設計・選定の留意点

  1. 目標減衰比ζの設定:1自由度近似でc=2mωnζより必要減衰を算出(m: 等価質量, ωn: 固有角速度)。詳細系は多自由度で最適化する。

  2. ストロークと速度余裕:最大相対変位と速度を記録し、Fmaxと許容温度上昇を満たすよう容量選定を行う。

  3. 取り付け剛性:取付部の剛性不足はエネルギー散逸の実効低下を招く。座屈・座金・高力ボルトの締結管理が必要である。

  4. 流路設計:オリフィス面積、流入角、キャビテーション余裕圧を確保する。流量制御にはニードルやボールバルブを使う場合がある。

  5. 安全・フェイルセーフ:漏れ・機能低下時にも致命的破断に至らない系統冗長を設計する。

取り付け姿勢とアライメント

ロッド偏心はシール摩耗とスティックスリップの原因となる。球面軸受やフローティングマウントを用い、熱伸びを吸収する自由度を確保する。

試験評価と規格

オイルダンパは力-速度、力-変位の定常計測に加え、実地震波・ランダム波での時系列応答評価を行う。温度サイクル、耐久サイクル、漏れ試験、塩水噴霧などの環境試験を併用する。評価データは運動方程式に基づく数値モデルに同定し、構造解析の境界要素として導入すると精度が高い。

モデル化と解析

等価粘性モデルのほか、Bingham型やBouc–Wen型でヒステリシスを表現する。時刻歴解析では微小時間刻みで速度に応じたF(v)を更新し、エネルギー散逸量を積分して熱設計に反映する。

故障モードと保全

  • オイル劣化:熱酸化やシール由来成分の混入で粘度が変化する。定期点検で力特性のドリフトを監視する。

  • キャビテーション・エアレーション:発泡で力が不安定化する。背圧室やブリーダで抑制する。

  • シール摩耗・漏れ:摺動傷と圧力スパイクで進行する。フィルタリングと面粗さ管理で寿命を延ばす。

以上のように、オイルダンパは粘性抵抗に基づく確立した減衰要素であり、設計では速度域・温度・耐久・取付剛性の総合最適化が鍵となる。流路の非線形とシール摩擦を把握し、モデル同定と実機試験を往還させることで、所望の減衰性能と熱安定性を長期にわたって確保できる。