鏡面仕上げ|金属表面を鏡のように磨き上げる加工法

鏡面仕上げ

鏡面仕上げ(きょうめんしあげ)とは、金属や樹脂の表面を段階的に磨き、微細な凹凸を極限まで取り除いて、鏡のように像が映り込む光沢面にする加工である。英語ではmirror finishと呼ぶ。ステンレス鋼の板材では「#800」や「No.8」という名称で流通している。表面粗さの目安は算術平均粗さRaで0.05μm以下とされることが多い。装飾品や建材のほか、半導体製造装置、食品・医薬品の配管など、清浄性が必要な分野でも広く使われている。

金属鏡から工業製品へ

金属を磨いて像を映す技術の歴史は古い。中国では紀元前から青銅製の銅鏡が作られ、日本にも弥生時代に伝わった。江戸時代には、曇った鏡を研ぎ直す「鏡磨ぎ(かがみとぎ)」の職人が町を回っていたことが記録に残っている。工業的な鏡面加工が広まったのは20世紀に入ってからである。1930年代にフランスの研究者ピエール・ジャケが電解研磨の原理をまとめ、機械で磨く以外にも表面を平らにする方法が生まれた。戦後の日本では、ステンレス製の流し台や家電の外装が普及して需要が急に伸びた。新潟県燕市は、洋食器の鏡面研磨で世界に知られる産地となった。

仕上げ記号と表面粗さの目安

鏡面かどうかは、見た目だけでなく数値でも判断する。ステンレス冷延鋼板の表面仕上げは、日本産業規格のJIS G 4305に2B、BA、No.4、HLなどが定められている。ただし最上級の鏡面にあたるNo.8はJISの区分ではなく、米国規格ASTM A480に由来する呼び方である。国内では「#800」と表記する慣習が定着している。粗さの測り方と表し方はJIS B 0601に規定がある。

仕上げ記号 主な加工方法 外観の特徴 Raの目安
2B 冷間圧延後に軽く圧延(調質圧延) にぶい光沢 0.1〜0.5μm
BA 光輝焼鈍 明るい光沢があるが、映る像はややぼやける 0.05〜0.1μm
No.4 #150〜#180の研磨ベルト 研磨目の残る艶消し 0.2〜0.8μm
HL 長く連続した研磨目をつける 髪の毛のような筋目 0.3〜1.0μm
#800(No.8) 番手を上げたうえでバフ研磨 鏡のように像がはっきり映る 0.05μm以下程度

表の数値はあくまで目安で、鋼種やメーカー、ロットによって幅がある。取引で品質が問題になりやすいため、図面には仕上げ記号だけでなくRaの上限値も書いておくと確実である。

機械研磨の工程

一般的な機械研磨では、粗い砥粒から細かい砥粒へ少しずつ番手を上げていく。基本は、前の工程でついた傷を次の工程で完全に消すことである。途中の番手を飛ばすと、深い傷だけが最後まで残る。

  1. 粗研磨:#120〜#240の研磨ベルトや砥石で、黒皮や溶接ビードを取り除く
  2. 中研磨:#320〜#600で、前の工程の研磨目をそろえる
  3. 仕上げ研磨:#800〜#1000程度まで番手を上げ、細かい筋目にそろえる
  4. バフ研磨:綿布やサイザル麻のバフに研磨剤をつけ、周速およそ30〜40m/sで光沢を出す
  5. 洗浄・保護:研磨剤の油分を脱脂し、保護フィルムを貼って出荷する

電解研磨との組み合わせ

機械研磨の仕上げとして電解研磨を行う方法もある。リン酸と硫酸を主な成分とする電解液に製品を浸け、陽極として電流を流すと、表面の出っ張った部分から先に溶けていく。機械研磨と違って加工によって変質した層が残らず、クロムを多く含む不動態皮膜ができるため、さびにくくなる。半導体工場のガス配管などでは、内面の粗さをRa 0.25μm以下などと厳しく指定する例が多い。

材料による仕上がりの違い

同じ鏡面でも、素材によって難しさはまったく違う。SUS304は扱いやすく、鏡面材として最も多く流通している。電解研磨と組み合わせる用途では、炭素量の少ないSUS316Lがよく使われる。アルミニウムはやわらかいため、研磨中に砥粒が食い込んで傷になりやすい。A5052の板材なら比較的きれいに仕上がるが、ダイカスト材のADC12は内部の小さな空洞(巣)が表面に出てくるため、鏡面には向かない。銅や真鍮は磨きやすいものの、空気中ですぐに変色するので、クリア塗装で保護するのが普通である。樹脂レンズを成形する金型では、NAK80や再溶解処理(ESR)をした鋼材を選び、ダイヤモンドペーストで#8000以上に相当する段階まで磨く。精密な平面が必要な部品にはラッピングを併用することもある。

現場での使い分けとコスト

鏡面は見栄えがよい反面、指紋や小さな傷が目立つ。このため、人がよく触れるエレベーターの扉や業務用厨房機器ではHLやNo.4が選ばれやすく、鏡面仕上げは看板、反射板、高級建材など見た目を重視する場所が中心になる。材料の価格は、2B材と比べて鏡面材は1.5〜2倍程度になることが多い。費用がさらにふくらむのは、溶接した後で現場で磨き直す場合である。溶接部の周りは手作業で番手を上げ直すしかなく、1か所に数十分かかることも珍しくない。製造現場では、溶接位置を目立たない面に移すように設計者へ提案したり、保護フィルムを貼ったまま曲げやプレスをしたりして、後からの研磨をできるだけ減らしている。

加工中に起きやすい不具合

よくある不具合はいくつかある。研磨圧が高すぎると表面が局所的に熱くなり、焼けや変色が起きる。バフで長く磨きすぎると、表面がみかんの皮のように波打つ「オレンジピール(ゆず肌)」になる。そのほか、材料中の非金属介在物が抜け落ちてできる小さな穴(ピット)や、溝に残った研磨剤のかすも出荷前の検査で見つかりやすい。研削の段階で傷を残さないこと、そして番手ごとに洗浄して粗い砥粒が持ち込まれないようにすることが、手直しを減らす一番の対策になる。

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