腐食電位|腐食反応が釣り合う金属の混成電位

腐食電位

腐食電位は、電解質の中で金属が自然に腐食しているときに示す電極電位である。外部から電流を流さずに測るため、「自然電位」とも呼ばれる。記号はEcorrで表す。値は、金属が溶け出すアノード反応と、酸素還元や水素発生などのカソード反応の速さが釣り合ったところで決まる。電気化学で腐食を評価するときの基本となる量であり、材料選定や電気防食の管理、コンクリート構造物の劣化診断など、多くの現場で測定されている。

混成電位理論から見た成り立ち

考え方の基礎は、1938年にC. WagnerとW. Traudが示した混成電位理論にある。鉄を中性の水に浸すと、表面では2つの反応が同時に進む。1つは鉄の溶解反応Fe → Fe2+ + 2e−、もう1つは酸素の還元反応O2 + 2H2O + 4e− → 4OH−である。2つの反応はそれぞれ別の平衡電位を持つ。しかし同じ金属片の上で起きている以上、溶解で出た電子は還元反応ですべて使われなければならない。その結果、アノード電流密度iaとカソード電流密度icが等しくなる電位に表面が落ち着く。この電位が腐食電位であり、このときの電流密度を腐食電流密度icorrという。平衡電位とは違い、反応が一方向に進み続けている状態の電位である点に注意したい。

測定方法と参照電極の選び方

測定では、試料と参照電極を同じ電解質に浸け、入力抵抗の高い電圧計で電位差を読む。一般的な電圧計の入力抵抗は10 MΩ以上で、研究用にはさらに高い1012 Ω級のエレクトロメータを使う。入力抵抗が低いと測定中に電流が流れて試料の電位がずれ(分極し)、値が狂う。どの参照電極を基準にするかで数値が変わるので、記録には「vs SCE」などと必ず基準を書き添える。

参照電極 略称 電位(vs SHE、25 ℃) 主な用途
飽和カロメル電極 SCE +0.241 V 実験室での分極測定
銀・塩化銀電極(飽和KCl) Ag/AgCl +0.197 V 実験室、海水中の測定
飽和硫酸銅電極 CSE +0.316 V 埋設管、コンクリート

基準の換算でよくある誤り

文献の値どうしを比べるときは、いったん標準水素電極(SHE)の基準にそろえるのが確実である。たとえばSCE基準で−0.65 Vの値は、SHE基準では約−0.41 V、CSE基準では約−0.72 Vになる。海水用のAg/AgCl電極には、内部液に飽和KClではなく海水を使う型もあり、その場合は電位が数十mVずれる。カロメル電極は水銀を含むため、Ag/AgCl電極に切り替える試験室が増えている。

海水中の電位列と異種金属の組み合わせ

同じ環境で各金属の腐食電位を高い順・低い順に並べたものを電位列(ガルバニック系列)と呼ぶ。理論値を並べた標準電極電位の表とは違い、表面の酸化皮膜や溶存酸素の影響を含んだ実用的な並びである。流れのある約25 ℃の海水での目安を次に示す。

金属 腐食電位(vs SCE)
黒鉛 +0.20~+0.30 V
チタン −0.05~+0.06 V
SUS316(不動態の状態) −0.00~−0.10 V
銅 −0.30~−0.36 V
軟鋼 −0.60~−0.71 V
アルミニウム合金 −0.76~−1.00 V
亜鉛 −0.98~−1.03 V

電位差の大きい金属どうしを接触させると、電位の低い(卑な)側がアノードになって腐食が速まる。これを異種金属接触腐食という。ステンレス鋼のボルトでアルミニウム合金の板を締めた船舶部材や、屋外の筐体でよく見られる。設計の目安として、海水がかかる厳しい環境では電位差を0.15 V以内、空調の効いた屋内でも0.50 V以内に抑えるという指針がある。現場では電位差に加えて面積比も効いてくる。アルミ板をステンレスボルトで留める組み合わせ(卑な側の面積が大きい)は比較的もつ。逆にステンレス板をアルミリベットで留めると、小さなリベットに電流が集中し、短期間で穴があく。絶縁ワッシャーは1個数十円程度なので、後から補修する費用を考えれば最初に入れておく方がずっと安い。

電位から腐食速度は読み取れない

現場でよくある誤解に、「電位が低いほど速く錆びる」という見方がある。腐食電位はアノード反応とカソード反応が釣り合う位置を示すだけで、腐食の速さそのものを表すものではない。速さを知りたいときは、電位をわずかにずらしたときの電流の応答(分極)から分極抵抗Rpを求め、Stern-Geary式で換算する。

icorr = B / Rp  B = βaβc / {2.303(βa + βc)}

βaとβcはアノード側とカソード側のターフェル勾配で、どちらも120 mV/decとすると、Bは約26 mVになる。測定手順はASTM G59にまとめられている。

不動態金属と孔食電位

不動態皮膜に守られた金属では、電位が高い(貴な)ことが健全さの目安になる。ただし、塩化物イオンが多い環境で電位が孔食電位を超えると、皮膜が局所的に壊れて孔食が始まる。ステンレス鋼の孔食電位はJIS G 0577で測定方法が決められており、電流密度100 µA/cm2に達したときの電位V’c100で材料の耐孔食性を比べる。自然電位と孔食電位の差が小さいほど、孔食が起きやすい。

電気防食で使う電位の基準

電気防食は、外部電源や犠牲陽極から鋼材へ電流を流し、電位を腐食電位より低い(卑な)側へずらして溶解反応を止める技術である。埋設鋼管では、CSE基準で−0.85 V以下(電流の流れによる電圧降下=IRドロップを除いた値)を防食の基準とするのが一般的で、ISO 15589-1やNACE SP0169にも採用されている。もう1つの基準は「100 mVシフト」で、防食電流を切った直後の電位が、もともとの腐食電位より100 mV以上低ければ十分とみなす。硫酸塩還元菌が活発な嫌気性の土壌では、目標を−0.95 Vまで下げる。下げすぎると水素が発生して塗膜がはがれたり、高張力鋼が水素脆化を起こしたりするため、−1.2 V前後を下限にする運用もある。亜鉛めっきが鋼を守るのも同じ原理で、亜鉛の腐食電位が鉄より約0.4 V低いため、亜鉛が先に溶けて鋼を守る(犠牲防食)。

鉄筋コンクリートの自然電位法

鉄筋コンクリートの劣化診断では、コンクリート表面に参照電極を当てて鉄筋との電位差を格子状に測る「自然電位法」が広く使われている。測定間隔は500 mm~1 m程度が一般的である。ASTM C876では、CSE基準で−0.20 Vより高ければ90%以上の確率で腐食なし、−0.35 Vより低ければ90%以上の確率で腐食ありと判定し、その間は判断できない範囲としている。国内では土木学会のJSCE-E 601が同じ趣旨の試験方法を定めている。

現場測定で値が狂いやすいポイント

  • 表面が乾いていると電位が高めに出て、腐食を見落とす。散水してから10~15分ほど置いて測る
  • CSEの温度係数は約0.9 mV/℃なので、25 ℃から大きく外れるときは補正する
  • 鉄筋との接続点は、グラインダで黒皮を削って金属面を出してから結線する
  • エポキシ樹脂塗装鉄筋や、かぶりが極端に厚い部材には適用できない
  • 電位だけで判断せず、中性化深さや塩化物イオン量の試験と組み合わせて評価する

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