孔食|小孔から深く進行する局所腐食

孔食

孔食(pitting corrosion)は、広い面が均一に溶解する全面腐食と異なり、受動態皮膜が局所的に破れて微小な穴状に深く進行する局部腐食である。わずかな面積で急速に深さが進むため、外観上は軽微でも貫通・漏洩・破断に直結する致命性をもつ。塩化物を含む環境、オーステナイト系ステンレス鋼、停滞水や沈積物の存在などで起こりやすい。設計・材料選定・表面仕上げ・運用保全を一体で最適化することが対策の基本である。

定義と特徴

孔食は、受動態金属表面に形成される微小アノード部が局所的に溶解して「ピット(穴)」を作る現象である。深さ/幅比が大きく、最大深さが寿命を支配する。外観検査で見逃しやすく、進展途中で一時不活性化(メタステーブル)と再活性化を繰り返すため、検出と予測が難しい。

発生機構

受動態皮膜の局所破壊

塩化物イオンが皮膜欠陥や機械傷、介在物(MnS)周辺に集中し、臨界電位を超えると皮膜が破壊され局所溶解が始動する。始動後は局所アノード/カソードの電池作用で溶解が自己促進される。

ピット内環境の自己触媒化

金属塩の加水分解でpHが低下し、塩化物が移動集積して酸性・塩化物リッチのマイクロ環境が形成される。IR降下により再不動態化が阻まれ、孔食は深部へ加速的に進展する。

評価指標

臨界孔食電位Epit、臨界孔食温度CPT、ピッティングファクタ(最大深さ/平均減肉)、極値統計に基づく最大深さ推定が用いられる。信頼性設計では最大深さの確率分布を想定し、所要寿命中の貫通リスクを評価する。

PRENによる耐孔食性

耐孔食等価指数PREN=%Cr+3.3×%Mo+16×%Nで表し、値が大きいほど耐性が高い。一般にSUS304は約18〜20、SUS316/316Lは24前後、二相系は35以上、スーパー二相は40超が目安である。

材料・環境因子

  • 孔食を促進:高Cl濃度、温度上昇、停滞(低流速)、沈積物、低pH、溶存酸素の存在
  • 材料側:Cr・Mo・N含有量、金属間化合物/介在物、溶接熱影響部の感受性、表面粗さや残留引張応力
  • 電気化学条件:ガルバニック接触、電位の貴化、カソード面積過大

試験・規格

定温塩化物溶液に浸すASTM G48、温度を上げながらCPTを評価するASTM G150、分極曲線からEpitを決める電気化学試験が代表である。JIS・ISOの腐食試験規格も参照し、試験片仕上げ・媒体・攪拌・温度の条件化で再現性を確保する。

臨界孔食温度(CPT)試験の要点

塩化物濃度を一定に保ち温度を段階上昇させ、安定ピットが発生する最小温度をCPTと定義する。合金間比較や材料ロット間のばらつき評価に有効である。

設計と対策

  • 合金選定:Cl環境ではMo・N添加鋼(例:SUS316L、二相ステンレス)を選ぶ。PRENを設計要件に明記する。
  • 表面:酸洗・不動態化処理・電解研磨・鏡面仕上げで皮膜を健全化し、粗さ低減で起点を抑える。
  • 形状:水溜まり・隙間・死角を避け、ドレン・傾斜・流速を確保する。ガスケットや重ね継手は隙間腐食と併発しやすい。
  • 運用:塩化物管理、定期洗浄・スケール除去、漂白剤/次亜塩素酸の過剰使用を避ける。停止時の乾燥・ドレインを徹底。
  • 電気防食:過防食や水素脆化、塗膜下局部腐食に留意し、電位管理と塗装仕様を適合させる。

解析と予測

孔食の成長は拡散・電荷移動・IR降下が支配し、深さは時間の冪則d∝tn(n≦1)で近似されることが多い。極値統計やモンテカルロ法で最大深さの信頼区間を評価し、板厚や検査間隔の設計に反映する。

他形態との関係

隙間腐食は幾何学的隙間で生じる局部腐食で、ピットと同様に酸性化・塩化物濃縮を伴う。深いピット底は応力集中源となり、応力腐食割れ(SCC)の核生成サイトとなるため、機械的強度設計と腐食設計を統合することが重要である。

典型事例

海水熱交換器、海浜設備、融雪塩に曝される屋外構造、プール・上下水設備、食品・医薬製造ラインの洗浄剤環境、空調ドレン滞留部、塩素系殺菌後のステンレス配管などで事例が多い。SUS304で問題が出る条件ではSUS316Lや二相系への変更が有効である。

検査・モニタリング

目視・内視鏡・レプリカ・浸透探傷・渦流探傷・プロファイラで局所減肉を確認する。運転中は腐食プローブや電位監視、導電率・Cl濃度・pH・温度の常時計測でリスクを把握し、しきい値を超えたら洗浄や化学条件の是正を行う。

実務上の要点

  • 仕様書に環境条件(Cl、温度、流速、滞留)と許容リスクを明記し、PREN・CPT・表面粗さ・仕上げ処理を定量要求とする。
  • 溶接後はスケール除去と不動態化を徹底し、熱影響部の感受性を低減する。
  • 保全では沈積物管理、薬品の残留洗い流し、停止・再起動手順の標準化を行う。

用語補足

CPT(臨界孔食温度)は安定ピットが発生する最低温度、Epitは安定ピットが生じる臨界電位である。CCT(臨界隙間腐食温度)は隙間腐食に対応する。これらのしきい値を満たす材料・仕上げ・環境管理を組み合わせることが、孔食の信頼性設計の核心である。

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