締付けトルク
締付けトルクとは、ボルトやナットを回して部材を締結するときに、工具からねじ部へ与える回転モーメントである。単位はN·m(ニュートンメートル)で表す。ねじ締結の目的は、部材同士を押し付ける力、すなわち軸力を適正な大きさで発生させることにある。ただ、軸力は締付け作業中に直接測りにくい。そのため、測定しやすいトルクを代わりの指標として管理する方法が広く使われている。国内ではJIS B 1083「ねじの締付け通則」が、トルク法・回転角法・トルク勾配法といった締付け管理の考え方をまとめている。
トルクと軸力を結ぶ基本式
締付けトルクと軸力の関係は、次の簡易式で見積もることが多い。
T = K × d × F
Tは締付けトルク[N·m]、Kはトルク係数、dはねじの呼び径[m]、Fは軸力[N]を表す。Kは無次元の値で、一般的な鋼製ボルトを無潤滑に近い状態で締める場合は0.2前後になる。たとえばM10、強度区分8.8のボルトで考えてみる。有効断面積は約58mm2、耐力は640MPaなので、耐力の70%を目標軸力とすると約26kNになる。これをK=0.2として式に入れると、T = 0.2 × 0.01 × 26,000 ≒ 52N·mとなる。カタログの標準締付けトルク表に載っている値も、多くはこの考え方で算出されている。
トルク係数を左右する要因
Kの値は一定ではない。ねじ面と座面の摩擦係数、表面処理、潤滑の有無、ねじ山の精度によって大きく変わる。ISO 16047では、トルクと締付け力の関係を求める試験方法が定められている。
トルクの9割は摩擦で消える
意外に知られていないが、工具で与えたトルクのうち実際に軸力になるのは1割程度にすぎない。残りのうち約50%は座面とナット(またはボルト頭部)の間の摩擦で、約40%はおねじとめねじのねじ山同士の摩擦で失われる。つまり、摩擦条件が少し変わるだけで、同じトルクでも得られる軸力は大きくばらつく。トルク法で締めた場合、軸力のばらつきは一般に±30%程度になるといわれる。設計段階でこの幅を見込まずに目標軸力を決めると、下限側では締付け不足、上限側では降伏点を超える締め過ぎが起こる。
締付け管理方法の違い
トルク法のばらつきを補うため、目的に応じて別の管理方法も使い分けられている。代表的な3方式を比べると下表のようになる。
| 管理方法 | 管理する量 | 軸力のばらつき | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| トルク法 | 締付けトルク | 大きい(±30%程度) | 一般機械、組立ライン全般 |
| 回転角法 | スナグトルク後の回転角度 | 小さい | 高力ボルト接合、エンジンのシリンダヘッド |
| トルク勾配法 | トルクと回転角の勾配変化 | 小さい(降伏点付近で停止) | 自動車エンジン部品など高精度締結 |
回転角法とトルク勾配法は、ボルトを塑性域近くまで締めて軸力を安定させる考え方である。ただし塑性域締付けを行ったボルトは伸びが残るため、再使用には向かない。建築鉄骨のトルシア形高力ボルトも、専用の締付け機でピンテールが破断するまで締めることで軸力を確保する仕組みを持つ。
トルクレンチの種類と校正
締付けトルクを管理するには、トルクレンチの選定と精度維持が欠かせない。JIS B 4652(ISO 6789に対応)は手動式トルクツールの要求事項と試験方法を定めている。現場で使われる主なタイプは次のとおりである。
- プレセット形:設定値に達すると「カチッ」と知らせる。量産ラインで最も普及している
- 直読式:目盛やダイヤルで実際のトルクを読み取る。検査や増し締め確認に使う
- 単能形:トルク値が固定されており、作業者が設定を変えられない。誤設定防止に有効
- デジタル式:トルク値を記録・転送できる。トレーサビリティが求められる自動車・航空分野で導入が進む
ISO 6789では、校正周期の目安として12か月または5,000回使用のいずれか早い方が示されている。実務ではもっと短くしている工場も多い。プレセット形は使用後に設定を最低目盛まで戻しておかないと、内部ばねがへたって精度が落ちる。ここは新人作業者が見落としやすいポイントといえる。
現場で起こりやすい落とし穴
製造現場でよくあるのが、表面処理が違うボルトに同じトルク表を使ってしまうケースである。溶融亜鉛めっき品はK値が0.3を超えることがあり、同じトルクでは軸力が足りなくなる。反対に、二硫化モリブデン系の潤滑剤を塗るとK値が0.1程度まで下がり、カタログ値どおりに締めるとボルトが破断することもある。購買部門がコスト削減のために表面処理を変更したのに、組立側のトルク指示書が更新されていなかった、という事例は珍しくない。部品仕様を変えるときは、締付けトルクの見直しも同時に行う運用にしておくのが安全である。
締付け不良が招くトラブル
締付けトルクが不足すると、軸力が外力に負けて接合面がすべり、振動によってナットが回転する緩みにつながる。軸力が低いままだとボルトに繰返し荷重がそのまま伝わるので、疲労破壊の危険も高くなる。配管フランジではガスケットの面圧が足りず、流体の漏れが起こる。逆に締め過ぎた場合は、ボルトの伸びが引張強さの限界に近づいて首下で破断したり、アルミ鋳物などの柔らかい母材側のめねじが崩れたりする。座面のへたりを抑えたいときは、座金を入れて面圧を分散させる方法もある。どのトラブルも原因をたどると、目標軸力から逆算したトルク設定と、それを守るための工具管理のどちらかに行き着くことが多い。
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