絶縁抵抗計
絶縁抵抗計は、電気機器や配線の絶縁状態を直流高電圧を印加して評価する計測器である。印加電圧によって流れる漏れ電流を計測し、オームの法則から絶縁抵抗値(MΩ〜GΩ級)を求める。現場では「メガ」「メガー」と呼ばれ、受電設備、分電盤、ケーブル、モータ・トランス巻線、基板実装品の絶縁健全性確認や保全点検に用いられる。計測は安全確保、設備停止計画、環境条件の管理が前提であり、短絡・感電リスクを防ぐための放電手順まで含めて運用することが重要である。
測定原理と構成要素
絶縁抵抗計は、(1)直流高電圧源(手回し発電機または電子式DC-DC)、(2)微小電流計測回路、(3)演算・表示部から構成される。被試験物(DUT)の両端に一定電圧Vを印加し、流れる漏れ電流Iを測ることで、R=V/Iとして絶縁抵抗を表示する。表面漏れとバルク(体積)抵抗が並列的に現れるため、表面状態や湿潤度により値は変動しうる。電子式は安定な定電圧出力と広い測定レンジ(μA〜nA級)を備え、統計処理やログ記録が可能である。
三端子法(GUARD端子)の役割
LINE(L)、EARTH(E)に加えGUARD(G)を備える絶縁抵抗計では、不要な表面漏れ経路にGを当ててシールドすることで、目的とするバルク経路の抵抗を選択的に評価できる。長尺ケーブルや汚れた表面を持つ機器で有効である。
定格試験電圧の選定
試験電圧は対象の定格・絶縁種別・劣化リスクを踏まえて決める。一般に、弱電回路や通信線には100〜250V、低圧配線や多くの機器には500V、モータ・トランスや高めの絶縁を持つ対象には1000Vを選ぶ慣行がある。印加電圧が高いほど微小電流の相対測定が安定する一方、過度な電界でダメージを与える恐れもあるため、メーカーの絶縁試験条件や設備仕様書に従うことが原則である。
温湿度・清浄度の影響
湿潤・汚染環境では表面漏れが増加し、見かけの絶縁抵抗が低下する。測定は乾燥・清浄状態で行い、温度補正の考え方(温度上昇で抵抗低下)を理解して記録に残すと比較評価が容易になる。
測定手順と安全
- 設備を完全に停電・遮断し、残留電荷を放電する(安全標識・施錠による誤投入防止)。
- DUTを外来回路から切り離し、意図しない並列経路を避ける。必要なら三端子法で表面漏れをガードする。
- 絶縁抵抗計の試験電圧を設定し、規定時間(例:30〜60秒)印加して安定値を読む。
- 印加停止後はDUTに残る電荷を確実に放電する(大容量機器は特に要注意)。
- 結果・環境(温度、湿度、清掃状況)・配線構成を記録し、傾向管理の台帳に反映する。
安全留意点
測定中は先端が充電されるため、プローブの露出部に触れない。印加中・直後の結線変更は厳禁で、放電操作が完了したことを確認してから作業を進める。
経時特性評価:DARとPI
吸収電流・分極現象を利用した経時評価は、絶縁の健全性をより信頼性高く判断できる。DAR(Dielectric Absorption Ratio)は一般に60秒値/30秒値、PI(Polarization Index)は10分値/1分値として定義され、値が大きいほど吸収電流の減衰が顕著で、健全な絶縁と解釈されやすい。汚損・湿潤やマイクロクラックがあると比が低下する傾向がある。
読み取りの実務ポイント
- 時間プロファイルをログできる絶縁抵抗計を用いると、DAR・PIを自動算出できる。
- 比較は同一試験電圧・同一配線構成・類似環境で行う。
- 絶対値のみでなく、過去履歴とのトレンド低下を重視する。
代表的な測定対象と接続例
ケーブルは芯線—シース間、相間、相—大地間で測る。モータ巻線は各相—フレーム間、および相間。トランスは巻線—鉄心/シールド間、巻線相互。配電盤では回路単位に切り離し、機器内蔵のRC素子やサージ保護が並列誤差を生む点に注意する。基板はコンタミやフラックス残渣で表面漏れが発生しやすく、洗浄・ガードリング併用で真のバルク抵抗に近づける。
大容量負荷の充電電流
長尺ケーブルや大型巻線は初期に充電電流が流れ、指示値が時間とともに上昇する。規定時間待って安定値を採るか、時間比(DAR/PI)で評価する。
誤差要因と低減策
- 表面汚染・湿気:清掃・乾燥、ガード端子の活用。
- 並列素子:EMIフィルタや避雷素子があると見かけ抵抗が低下。必要に応じて切り離す。
- リード・治具の漏れ:高抵抗領域ではリードの表面抵抗が支配的。テフロン系、シールドケーブルを用い、端子部を清浄に保つ。
- 温度:記録に温度を併記し、比較は近似条件で行う。
- ノイズ:高圧・高周波源付近では誤読の恐れ。アースとケーブル取り回しを最適化する。
測定基準・判定の考え方
判定基準は設備仕様や保安規程に依拠する。実務では「定格電圧1kVあたり1MΩ以上」のような経験則が参照されることがあるが、用途・絶縁種別・安全要求水準により必要値は変わる。新品の受入れでは高い値と良好なPIが期待され、運用中設備では過去履歴からの低下率が重要な警報指標となる。
計器の機能・選定ポイント
- 試験電圧範囲(100/250/500/1000V等)と最大測定抵抗レンジ。
- 三端子測定(GUARD)の有無と治具互換性。
- DAR・PIの自動算出、タイマー印加、データロギング、Bluetooth等の記録性。
- 安全カテゴリ(CAT規格)と耐環境(IP等級)、現場視認性(バックライト、アナログバー)。
- 放電機能の明示、テスト中警告表示、先端プローブの安全構造。
記録と傾向管理
絶縁抵抗計の結果は、日時・場所・環境・配線条件・試験電圧・時間プロファイルをセットで保存する。台帳化し、季節・負荷サイクル・メンテ後の変化を追うことで、突発故障の予兆検知や予防保全の精度が高まる。異常兆候(絶対値の急低下、PIの継続的悪化、相間バラつきの拡大)は計画停止での開放点検・洗浄・含浸処置等につなげる。
トラブル対応の初動
低下が出た場合は、まず環境要因と並列素子の有無を切り分ける。清掃・乾燥・切り離し再測で改善するなら劣化確定ではない。改善しない場合は部分放電や局所的含水の可能性を疑い、追加診断に進む。