磁界レンズ|電子ビームを収束し高分解能を支える電磁レンズ技術

磁界レンズ

磁界レンズとは、主に電子顕微鏡や電子ビーム描画装置などで電子ビームを収束・制御するために用いられる、磁場を利用した集束素子である。電磁コイルに電流を流し、内部に磁場を発生させ、その磁力線分布によって電子の軌道を制御する仕組みである。一般的に電子光学系では、電子ビームをできる限り細く絞って高分解能の像を得たり、高精度のパターン描画を行ったりする必要がある。この際に磁界レンズが果たす役割は非常に大きく、電子ビームの集束や拡大、スキャン等を最適化することによって、装置の性能を左右する重要な要素となっている。

基本原理

電子は負の電荷を持つ粒子であり、電界や磁界中ではローレンツ力を受ける。とりわけ磁界レンズでは、電磁コイルによって生成される回転対称な磁場に電子を通過させることで、らせん状の軌道を描かせながら中心軸方向へ収束させる作用を利用している。具体的には、ソレノイドコイルを使って軸対称の磁場を作り出し、その磁力線が広がる内側に電子を導くと、電子ビームは幾度も旋回しながら軸に近い方向へと集められる。これは光学の凸レンズに類似した役割を果たすため、「磁界で形成されたレンズ」と呼ばれている。

種類と構造

  • 透過型電子顕微鏡(TEM)用:試料の通過後に像を拡大・縮小するために複数の磁界レンズを直列に配置し、高倍率と高分解能を両立する。
  • 走査型電子顕微鏡(SEM)用:電子銃付近にコンデンサーレンズ、試料近傍にオブジェクティブレンズを設け、電子ビームを試料表面へ細く絞り込む。
  • 電子ビーム描画装置:ナノメートルオーダーのパターン加工が可能で、レンズ系に加えてアパーチャや偏向器を組み合わせ、描画ビームの位置や形状を制御する。

それぞれの装置において、コイルの巻き方や磁極構造、磁性体の形状などを最適化し、高い集束性能と低収差を実現している。

収差と補正

磁界レンズも光学レンズと同様に、収差と呼ばれる歪みやぼやけを引き起こす。球面収差や色収差(エネルギー依存による焦点のずれ)、コマ収差などが代表例である。現代の高度な電子顕微鏡では、アクティブ補正器を用いてこれらの収差を大幅に低減し、サブオングストロームオーダーの分解能を達成している。具体的には、複数の多極子コイルや電場・磁場の組み合わせを駆使した補正ユニットが搭載され、電子光学系全体の欠点を補償する仕組みが採られる。

試料観察への影響

電子ビームを試料に集束する際、磁界レンズの性能が不十分であれば、ビームサイズが大きくなったり、ビーム形状が楕円に歪んだりして分解能低下やアーティファクトが生じる。一方、適切なレンズデザインと調整が施されていれば、高解像度・高コントラストの像を取得できるだけでなく、分析精度も向上する。例えば元素分析(EDS)や結晶方位解析(EBSD)などの局所プローブ型計測にも役立ち、高い空間分解能でサンプルの微細構造を評価可能となる。

アラインメントと調整

実際の装置では、磁界レンズの調整(アラインメント)が非常に重要である。レンズ電流や試料位置、対物レンズと中間レンズの連携などを最適化しなければ、像がピントから外れたり、視野中央と周辺部で倍率が異なったりといった問題が起こりやすい。走査型電子顕微鏡ではビームアライメント機能を備えたソフトウェアが一般的に搭載されており、オートチューニングやガンアライメントなどの手順を通じて精密な条件出しを行う。高分解能観察や微小部描画を目指す場合、このような調整工程に要する時間や技術が大きな鍵を握る。

新たな動向

近年、磁界レンズ技術では超伝導コイルの導入や特殊な磁性体材料、超高電圧電子顕微鏡への適用など新たな研究開発が進んでいる。より強力かつ安定した磁場を低エネルギー消費で生成できるようになると、電子ビームのさらなる高密度化・高解像度化が期待される。また、小型化や可搬型の装置への応用も注目されており、医療現場や野外での迅速分析など新たな利用シーンが広がる可能性がある。将来的には、多極子レンズ構造の高度化やAIを活用したレンズ制御などを通して、電子光学系の性能はまだまだ向上する余地があると考えられている。