熱酸化
熱酸化とは、ウェハ(主にシリコン)を高温下で酸素または水蒸気と反応させることで表面に酸化膜を形成するプロセスである。ゲート酸化膜や絶縁層を生成するうえで重要な手法であり、CMOSデバイスなど多くの半導体製造フローに組み込まれている。ウェハ表面に高品質のSiO2を得られるメリットがある一方で、微細化時代においては酸化膜の均一性や薄膜化によるリーク電流など、多くの課題にも直面している。これらの要件を満たすためにプロセス条件や装置技術の高度化が進められ、今もなお多様な改良や研究が行われている状況である。
工程の概要
熱酸化の工程ではシリコン基板を高温(概ね800〜1200℃程度)に保ちつつ、酸素(ドライ酸化)または水蒸気(ウェット酸化)を反応させてSiO2膜を成長させる。一般にドライ酸化は濃度制御が容易で均質な膜質を得やすいが、酸化速度が遅く厚い膜の形成には時間がかかる。一方、ウェット酸化は酸化速度が高いため膜厚を容易に確保できるものの、界面特性や均一性の面でドライ酸化に劣る場合がある。これらを組み合わせた複合プロセスを用いることで、最適な膜厚と品質を両立させる手法が多くのファウンドリやIDMで実施されている。
1日1語!#半導体用語集#熱酸化炉(Thermal Oxidation Furnace)
抵抗体に電気を流して加熱する抵抗加熱炉を熱酸化に用いる。熱酸化は、Si基板を酸化雰囲気中で900℃から1100℃に熱してSiO2膜を成長させる。炉温や酸化雰囲気(圧力、ガス)等により酸化速度や膜質が制御される。 pic.twitter.com/9IswRJqH5a— セミネットSEMI–NET(半導体&エレクトロニクスのWEB展示会) (@semiconnet) July 8, 2021
基本的な反応機構
シリコン基板表面における熱酸化は、Si原子とO原子(またはOH基)が化学反応を起こしてSiO2を生成する現象である。初期段階ではシリコンとガスの直接反応により酸化膜が成長するが、膜が厚くなるほど拡散支配領域に移行し、膜表面から内側へ酸化種が拡散して反応を進める。高温下では拡散係数が大きくなるため速やかに反応が進行するが、一方で界面近傍に欠陥が生じたり膜質が粗くなったりするリスクもある。こうした反応機構の理解は膜厚制御や酸化速度モデルの構築に欠かせず、プロセスシミュレーションでも最も重要な要素となっている。
SiO2膜の品質と信頼性
ゲート絶縁膜やパッシベーション層としての役割を担う熱酸化SiO2は、その品質や界面特性がデバイス性能に直結する。膜中に含まれる欠陥や不純物がMOSFETのしきい値特性やリーク電流、耐圧に影響するため、熱履歴やガス純度、基板表面の洗浄状態など細部にわたる管理が必要となる。特に微細化が進む世代ではゲート膜厚が極薄化し、わずかな欠陥が大きな歩留まり低下をもたらす可能性がある。こうした観点から、酸化炉内の環境制御や急速熱処理(RTA)を組み合わせた工程設計が広く実践され、より高いデバイス信頼性を確保するための研究が続けられている。
デバイスの重要な構成要素である結晶Si(半導体)とアモルファスSiO2(絶縁体)の界面です。両者の境界は急峻であることが分かります。実験室レベルの熱酸化で作製したため、界面には原子レベルの段差が存在しますが、実際のデバイスの界面は非常に平坦です。#今日の組織 pic.twitter.com/MY8jeDMkIy
— 九州工業大学マテリアル工学科 (@KyutechMSE) November 27, 2021
ドライ酸化とウェット酸化
熱酸化プロセスにおいて、酸素ガスを用いるドライ酸化は高品質で薄い酸化膜の形成に適している。高周波回路や微細ゲート酸化膜など、厳格な界面制御が必要な場合に選択されることが多い。一方のウェット酸化は水蒸気を用いて酸化するため、速度が速く厚膜形成に向いている。しかし水素原子やOH基の侵入により界面に歪みが生じやすい課題もあるため、高温アニーリングなどで膜質を修正する工程が合わせて行われることも多い。プロセス要件によってこれらを組み合わせるなど、最適解を求めるためのレシピ開発が盛んに行われている実情である。
微細化への対応
トランジスタの微細化が進むに伴い、ゲート酸化膜や絶縁層の厚さを極限まで薄くするニーズが高まっている。しかし極薄膜では量子トンネル効果によるリーク電流や界面準位の生成が顕著化するため、従来の熱酸化だけでは限界が見え始めている。これを補完するために窒化処理や高誘電率材料(High-k)への移行が進んでいるが、依然としてSiO2ベースの酸化膜が重要な位置を占める分野は多い。そのため、既存ラインを活かしつつ極薄酸化膜を安定して形成する技術開発が継続的に行われており、反応ガスの選択や低温酸化プロセスなど新たなアプローチも注目されている。
産業応用と多様なプロセス
CMOS回路のゲート酸化膜だけでなく、パワーデバイスやセンサー分野など幅広い用途に熱酸化工程が利用されている。SiCなどの化合物半導体でも、表面特性の最適化や絶縁膜形成のために酸化処理が検討されているが、シリコンと比べて格子定数や熱伝導特性が異なるため課題が多い。各メーカーは長年蓄積したノウハウを活かし、成膜装置の改善からプロセスレシピの独自開発まで多角的に取り組んでいる。こうした技術革新がデバイスの性能向上と量産性の両立を可能にし、エレクトロニクス業界の競争力を支えている状況である。