High-k
High-k(高誘電率膜)とは、半導体デバイスのゲート絶縁膜に用いられる高誘電率材料の総称である。従来のシリコン酸化膜が微細化の進行によってリーク電流増大や信頼性低下を招く中で、絶縁層を薄膜化しながらも高い静電容量を維持できる点が注目されている。具体的にはHf(ハフニウム)を主成分とする化合物を中心に、さまざまな酸化物や複合薄膜が研究・実用化されており、微細プロセスでのMOSFET特性向上や省電力化に大きく貢献している。本稿では、高誘電率を活かしたHigh-k(高誘電率膜)技術の背景や材料特性、プロセス技術、応用分野および課題を整理する。
背景
半導体デバイスの集積度向上を追求する微細化の流れでは、ゲート絶縁膜の薄膜化が避けられない。しかし、シリコン酸化膜(SiO₂)を極限まで薄くするとリーク電流が著しく増大し、高性能化や省電力化を阻む大きな要因となる。そこで注目されたのがHigh-k材料によるゲート絶縁膜置換である。誘電率が高ければ物理的膜厚をある程度確保しつつ、シリコン酸化膜と同等以上の静電容量を実現できる。このアイデアは1990年代後半から本格研究が進められ、2000年代初頭にはCMOSプロセスへの導入が始まっている。
基本特性
High-k材料の最大の特徴は「高い誘電率」である。誘電率(κ値)が大きいほど、薄膜でも高容量を確保しやすくなるため、ゲート制御力を強化できる一方でリーク電流を抑制できる。加えて、結晶構造の安定性や界面での欠陥密度が低いことも重要とされる。誘電率は高ければよいわけではなく、界面特性や熱安定性、酸化耐性などトータルな信頼性を考慮しながら選定される。また、シリコン基板との界面反応を制御するために、緩衝層を挟むアプローチや特定の元素ドーピングを活用する手法も見られる。
材料と組成
代表的なHigh-k材料としては、ハフニウム(Hf)系の酸化物(HfO₂)やジルコニウム(Zr)系酸化物(ZrO₂)が知られる。これらは単独の酸化物に加えて、ケイ酸化物との複合薄膜や窒素ドーピングなどにより特性を調整する場合が多い。結晶化温度を引き上げて熱処理工程に耐えられるようにする工夫や、界面反応を抑制するためのシリコン酸化膜との多層構造など、研究段階から量産に至るまで多様な配合技術が検討されてきた。高い誘電率を維持しつつ長期的な信頼性を確保するため、材料選択とプロセス最適化の両面からアプローチが行われている。
製造プロセス
High-kゲート絶縁膜の成膜には、原子層堆積(ALD)や化学気相成長(CVD)などの高精度プロセス技術が用いられる。ALDは表面反応を制御しながら原子レベルで薄膜を堆積できるため、膜厚均一性や欠陥密度の低減に有利である。成膜後のアニール工程で膜中の欠陥や不純物を除去し、結晶構造や界面品質を最適化する一連のステップが不可欠となる。また、ゲート電極には金属ゲート技術との組み合わせが一般化しており、ポリシリコンとの相性や閾値電圧の最適化をはかる多層構造が採用されるケースが多い。
適用分野
High-k技術は、最先端CMOSのロジックICやDRAMのキャパシタ膜など、多岐にわたる分野で活用が進んでいる。特にスマートフォンや高性能コンピュータ向けのプロセッサにおいては、微細化による集積度向上と省電力化の両立が欠かせないため、ゲート絶縁膜として高誘電率材料の導入が必須要素となっている。また、電力制御用のパワーデバイスでも、高耐圧化や低損失化を目指す取り組みの一環としてHigh-k材料を用いる研究がある。今後はIoT関連機器や車載半導体など、さらなる応用の拡大も期待される。
課題と今後の展望
微細化が進むほど、物理的膜厚が超薄膜域に達し、界面欠陥やリーク電流が顕在化しやすくなるなど課題も多い。特にHigh-k材料は熱処理や金属電極との界面反応、結晶化挙動など複雑な要素が絡むため、工程管理や材料選択での最適化が不可欠となる。一方、チャネル材料としてSiに替わるGeやIII-V族への適用を目指す研究も進展しており、応用領域はさらに広がる見通しである。今後は超微細プロセスへの対応力や、パワーデバイスや新素材との互換性などが大きな焦点となっていくと考えられる。