溶接ヒューム|溶接時に発生する有害な金属微粒子

溶接ヒューム

溶接ヒュームとは、溶接のときに高温で蒸発した金属が空気中で冷えて固まり、ごく細かい粒子になったものである。見た目は白っぽい煙のように見える。主成分は鉄の酸化物で、母材や溶接材料によってはマンガン、クロム、ニッケル、亜鉛なども含まれる。2017年には国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」に分類した。日本でも2021年4月1日から労働安全衛生法の特定化学物質障害予防規則(特化則)の対象になり、「管理第2類物質」として扱われている。

2021年の法改正で変わったこと

改正前は、アーク溶接の粉じん対策は主に粉じん障害防止規則で管理されていた。2020年4月22日に改正特化則が公布され、溶接ヒュームは「がんなどの健康障害を起こすおそれがある物質」として位置づけ直された。新しい義務は一度に始まったわけではない。濃度測定と換気の義務は2021年4月から、作業主任者を選ぶ義務は2022年4月から、フィットテストは2023年4月から始まった。このように数年かけて順番に施行されている。対象は屋内で金属アーク溶接、アーク溶断、ガウジングなどを続けて行う作業場である。屋外での作業や、たまに行うだけの補修溶接は、すべての義務がそのまま当てはまるわけではない。

ヒュームができる仕組みと粒子の大きさ

アークの中心は5,000〜20,000℃前後に達する。この熱で溶接ワイヤや溶融池の表面から金属の蒸気が出て、まわりの空気で急に冷やされ、酸化しながら固まる。こうしてできた最初の粒子(一次粒子)は直径が数十nmしかなく、すぐにくっつき合って0.1〜1μmほどの集まりになる。粒子がとても小さいので、鼻やのどで止まらずに肺の奥の肺胞まで届く。

砂ぼこりのような粉じんとの一番の違いは、この粒の細かさにある。目の粗い布マスクやタオルを巻くだけの対策がほとんど役に立たないのも、そのためである。

溶接方法による発生量の違い

発生量は溶接方法、電流、シールドガスの種類で大きく変わる。発生量の測り方はJIS Z 3930(アーク溶接のヒューム発生量測定方法)で決められていて、溶接材料メーカーのカタログにもこの方法で測った値が載っている。代表的な溶接方法の目安を次の表にまとめた。

溶接方法 発生量の目安 特徴
炭酸ガスアーク溶接 多い(数百mg/min程度) スパッタが多く、電流を上げると急に増える
マグ溶接(Ar+CO2) 中くらい アルゴンの割合を増やすと少なくなる
被覆アーク溶接 中〜多い 被覆剤(フラックス)の成分もヒュームになる
TIG溶接 とても少ない 電極が溶けない方式なので発生が少ない

現場の感覚でいうと、炭酸ガス100%から「Ar 80%+CO2 20%」の混合ガスに変えるだけで、ヒュームとスパッタははっきり減る。ガス代は1本あたり数千円ほど高くなるが、スパッタを取る手間や換気設備の負担が軽くなるため、全体のコストで見ると割に合うことが多い。

ステンレス鋼と亜鉛めっき鋼板で気をつけること

ステンレス鋼を溶接すると、ヒュームに六価クロムが含まれる。六価クロムは発がん性がとても強いので、軟鋼の溶接よりも一段高い防護が必要になる。亜鉛めっき鋼板の場合は、酸化亜鉛を吸い込むことで、数時間後に寒気や38℃前後の発熱が出る「金属ヒューム熱」が起こりやすい。

健康への影響

長い年月ばく露し続けると、まずじん肺(溶接工肺)が問題になる。鉄の酸化物がたまっていくだけならX線写真で影が見える程度だが、ほかの粉じんと一緒に吸い込むと肺が硬くなる線維化が進むことがある。マンガンは神経に作用し、手のふるえや歩き方の異常など、パーキンソン病に似た症状を起こす。発がん性は肺がんとのつながりが特に強いと報告されていて、喫煙とどう関係するかも研究が続いている。

事業者に課される主な措置

特化則では、屋内で継続して溶接を行う事業者に次のような対策を求めている。

  1. 全体換気装置による換気、またはそれと同じ以上の効果がある措置を行う
  2. 個人サンプラーを使い、作業者の呼吸域でヒューム中のマンガン濃度を測る
  3. 測定結果をもとに、効果の足りる呼吸用保護具を選んで使わせる
  4. 面体を使う保護具について、1年以内ごとに1回フィットテストを行う
  5. 金属アーク溶接等作業主任者限定技能講習を修了した者を作業主任者に選ぶ
  6. 雇入れ時、配置換え時、その後6か月以内ごとに1回、特殊健康診断を行う

溶接方法や材料、作業の内容を変えたときは、濃度の測定をやり直さなければならない。この点は見落とされやすい。

要求防護係数の求め方

保護具を選ぶときの基準は、マンガン濃度0.05mg/m3である。測った濃度をこの値で割った数字を「要求防護係数」と呼ぶ。

PFr = C ÷ 0.05
(PFr:要求防護係数、C:マンガン濃度の測定値〔mg/m3〕)

たとえば測定値が0.4mg/m3なら、要求防護係数は8になる。半面形の取替え式防じんマスク(RS2・RL2)の指定防護係数は10なので、この場合は条件を満たす。値が10を超えるときは、全面形のマスクや電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)を検討する。

現場で効果の出やすい低減策

いちばん効果が大きいのは、発生源の近くでヒュームを吸い取ることである。トーチにつける吸引ノズルや、可動アーム付きの局所排気装置は、フードを溶接点から30cm以内に置けると捕集率が大きく上がる。ただし、吸引の風が強すぎるとシールドガスが乱れてブローホール(気泡の欠陥)ができる。風速の調整は試し溶接をしながら決めるのが確実である。

作業する姿勢も見直したい。ヒュームは上に向かって昇るので、顔を溶接点の真上に置かないだけで吸い込む量は減る。PAPRは1台あたり十数万円かかり、初めは高く感じる。それでも、真夏の工場でマスクの息苦しさが原因で外してしまう作業者を減らせることを考えると、長い目で見て費用に見合う投資と考える工場も多い。

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