係留|船舶をロープや鎖でつなぎ留める

係留

係留とは、船舶や浮体構造物、気球などを索・鎖・金具を用いて特定の位置につなぎ止めることをいう。港の岸壁に貨物船を留める作業から、水深1,000mを超える海域で石油生産設備を定位置に保つ技術まで、対象の規模は幅広い。外力として風・波・潮流を受け止めながら、許容される範囲内で動揺を許す点に特徴があり、完全に固定する「固着」とは考え方が異なる。

岸壁での係留作業

港で最も身近な係留は、船を岸壁につなぐ作業である。船首と船尾から出す「ヘッドライン」「スターンライン」、船体の前後移動を抑える「スプリングライン」、横方向の離岸を防ぐ「ブレストライン」を組み合わせ、岸壁側の係船柱(ボラード)に掛ける。船体と岸壁の接触は防舷材が受け持つ。国内の港湾施設では、係船柱の設計牽引力を船の総トン数ごとに定めており、1万総トン級の船舶なら700kN程度が目安とされる。現場の実感として、潮位差が2mを超える港では索の張り具合が数時間で大きく変わるため、当直による増し締めや緩めの作業が欠かせない。

係留を構成する主な要素

係留システムは、索そのもの、索を巻き取る機械、索を受ける金具、海底側の保持装置に分けて考えると整理しやすい。主要な要素を次の表に示す。

要素 代表例 関連規格・備考
索・鎖 合成繊維ロープ、ワイヤロープ、スタッドリンクチェーン 洋上用チェーンはR3〜R5級(DNV-OS-E302)
巻取機 係船ウインチ、キャプスタン ブレーキ保持力は索の破断強度の60%前後に設定する例が多い
船側金具 ビット、フェアリーダー、チョック ISO 13795(溶接鋼製ボラード)
海底保持 アンカー、サクションパイル、パイル 地盤条件で選定が大きく変わる

ウインチのブレーキを索より先に滑らせる設定は、過大な荷重がかかったとき索の破断を避けるための安全弁として機能する。

索材料の選び方

かつて主流だったのは鋼製のワイヤロープとマニラ麻である。現在は繊維ロープが大半を占め、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレン(HMPE)が用途に応じて使い分けられている。ナイロンは破断時の伸びが20%を超えるほど大きく、衝撃吸収に優れる反面、濡れると強度が10〜15%程度低下する。HMPEは同じ強度の鋼索に比べて質量がおよそ1/7と軽く、乗組員の取り回しが格段に楽になる。ただし伸びが小さいため、波で船が揺すられると荷重が急変しやすい。そこで先端に伸びの大きいテール(ナイロン製の短索)を継ぎ足す使い方が普及した。調達の場面では、HMPE索の単価はポリエステル索の数倍に達することが珍しくない。それでも交換頻度と作業人員の削減効果を加味して採用を決める船主は多い。

浮体構造物の係留方式

洋上の石油生産設備や浮体式洋上風力発電では、係留の設計が構造物全体の成否を左右する。方式は大きく三つに分けられ、それぞれ得意な水深と動揺特性が異なる。

カテナリー係留

鎖の自重で海底に向かって垂れ下がる曲線(懸垂線)を利用する方式である。浮体が流されると海底に横たわっていた鎖が持ち上がり、その重さが復元力となる。構造が単純で信頼性が高い。水深が数百mを超えると鎖の重量が浮体の負担になるため、深海ではポリエステル索と組み合わせる。

緊張係留

索をあらかじめ強く張り、浮体の上下動をほぼ拘束するやり方。1984年に北海で稼働したハットン油田のTLP(Tension Leg Platform)が最初期の実用例として知られる。設置範囲を狭くできる半面、索の張力管理と海底基礎の引抜き抵抗が厳しく問われる。

一点係留

タンカーを1本の索でブイにつなぎ、風向きに合わせて船が自由に回る「ウェザーベーニング」を許す方式。CALMブイと呼ばれる浮標を使う形式が多く、港湾設備のない沖合で原油の荷役を行うときに用いられる。

鎖と索を傷める要因

洋上の係留鎖は、設計寿命20〜25年のあいだ休みなく繰返し荷重を受け続ける。このため疲労と腐食の評価が設計の中心になる。とくに海面付近の飛沫帯と、鎖が海底に接する「タッチダウン域」は損耗が早い。鎖の素材には高張力鋼が使われ、R4級で最小引張強さ860N/mm2、R5級で1,000N/mm2が規定されている。強度等級を上げれば鎖の径を細くできる。しかし高強度材ほど水素脆化の感受性が高まるため、陰極防食の電位を過度に卑にしない配慮が必要になる。点検では、リンクの径を実測して腐食代(年0.2〜0.4mm程度を見込む例が多い)を下回っていないか確かめる。

スナップバック事故への備え

張力のかかった索が破断すると、蓄えられた弾性エネルギーが一気に解放され、切れた端が鞭のように跳ね返る。これをスナップバックと呼び、岸壁や甲板の作業員が死傷する事故が世界で繰り返されてきた。業界団体OCIMFは指針「MEG4」(2018年発行)で、危険域を床面に塗装で示す従来の方法だけでは不十分だと指摘し、係船配置そのものを見直すよう求めている。現場で徹底される対策には次のようなものがある。

  • 張力のかかった索の延長線上や、ローラーで曲げられた索の内側に立たない
  • 索の摩耗・素線切れ・熱による硬化を出港前に目視で確認する
  • 索の種類を混在させず、同じ方向に出す索は材質と長さを揃える
  • ウインチのブレーキ保持力を定期的に試験し、記録を残す

同じ方向の索に伸び特性の異なる材料が混じると、伸びにくい索だけに荷重が集中して先に切れる。材料の統一は地味ながら効果の大きい対策といえる。

船以外への広がり

係留の対象は海の上に限らない。地上から索でつなぎ止めた係留気球は、広告や観測、通信中継に使われてきた。高度数百mに滞空させる場合、索には気球の浮力と風による抗力が合わさって作用し、海の係留と同じく張力と角度の計算が設計の土台になる。湖や河川に浮かべる水上太陽光発電の架台も、水位変動に追従させるため弾性のある索で係留される。水位差が数mに及ぶ農業用ため池では、索の余長の取り方ひとつで台風時の挙動が大きく変わる。動く物体を「適度に」留めるという発想は、対象が変わっても共通している。

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