ベネズエラ
ベネズエラは南アメリカ北部に位置する共和制国家であり、カリブ海に面した熱帯の国である。首都カラカスを中心に、アンデス山脈、オリノコ川流域、ギアナ高地など多様な自然環境をもつ。かつてスペイン帝国の植民地であったが、シモン=ボリバルらの指導のもとで独立を達成し、ラテンアメリカの独立の重要な一角を占めた。その後は一時期大コロンビアの一部となり、分離独立をへて現在の国家体制が形づくられた。20世紀以降、豊富な石油資源により経済成長を遂げたが、同時に政治的不安定や社会問題も抱える国となっている。
地理と自然環境
ベネズエラは北をカリブ海と大西洋に面し、西にコロンビア、南にブラジル、東にガイアナと接する。国土は大きく、カリブ沿岸の低地、アンデス山脈の高地、オリノコ川流域の平原(リャノ)、ギアナ高地のテーブルマウンテンといった地域に分かれる。世界最大級の落差をもつエンジェルフォールをはじめとする滝や、熱帯雨林・サバナなど、多様な生態系が広がっている。こうした地理的多様性は、農牧業、鉱業、観光などの基盤となる一方、インフラ整備や国家統合において課題ともなってきた。
植民地化と独立運動
16世紀以降、現在のベネズエラ地域にはスペイン人が進出し、先住民社会は征服とキリスト教化の過程を経験した。カカオやコーヒーなどのプランテーション経済が発展するなかで、スペイン人地主、混血住民、先住民、アフリカ系奴隷といった階層構造が形成された。18世紀末から19世紀初頭になると、フランス革命やハイチの独立の衝撃、さらにナポレオンによるスペイン本国の混乱が重なり、クリオーリョと呼ばれる植民地生まれの白人エリートの間で独立の機運が高まった。この過程では、ハイチ側から支援を受けたトゥサン=ルベルチュールの闘いも、象徴的な先例として意識された。
大コロンビアからの分離と国家形成
独立戦争の中心人物であるシモン=ボリバルは、現在のベネズエラ・コロンビア・エクアドルなどを統合した広域国家大コロンビアの構想を掲げた。独立達成後、一時期はこの構想にもとづく国家が成立したが、地方エリート間の利害対立、地理的な隔絶、中央集権か地方分権かをめぐる政治的対立が深まり、19世紀前半に大コロンビアは解体した。ベネズエラはその過程で独立した共和国としての道を歩み始めるが、各地方軍閥の抗争やクーデターが頻発し、安定した立憲体制の確立には時間を要した。ボリバルが構想したパナマ会議による汎アメリカ協調も十分には実現せず、南米諸国はそれぞれの国家建設を優先することになった。
石油産業の発展
20世紀に入ると、マラカイボ湖周辺などで大規模な油田が相次いで発見され、ベネズエラは世界有数の産油国となった。外国資本による採掘と輸出が急速に進み、国家財政や都市経済は石油収入に大きく依存するようになる。のちに石油輸出国機構(OPEC)の創設メンバーとなり、国際原油市場において一定の発言力を持ったが、単一資源依存の構造は、価格の変動に国民経済が左右される脆弱性も抱えていた。同じ南米のボリビアやパラグアイが鉱業や農牧業を軸に多様な経済構造を模索したのに対し、ベネズエラでは石油セクターと非石油セクターの格差が大きな社会問題となっていく。
20世紀の政治史
石油ブームは軍部や権威主義政権の財源ともなり、20世紀前半には軍事政権が長期支配を続けた。第二次世界大戦後、民主化の波のなかで複数政党制にもとづく選挙制度が整備され、一定期間は比較的安定した民主体制が続いた。しかし、政党間の談合政治や汚職への不満が蓄積し、また農村から都市への人口流入や貧困の拡大に十分対応できなかった。冷戦期、ベネズエラは米国との関係を保ちつつも、石油政策では自国の主権を重視する姿勢をとり、資源ナショナリズムの一例として他地域にも影響を与えた。同時期、北米におけるアメリカ合衆国の発展と比較されながら、南米諸国の開発戦略の一つとして位置づけられた。
チャベス政権以降の動向
1990年代末、軍人出身のウーゴ・チャベスが大統領に就任し、「ボリバル革命」を掲げて社会政策と反新自由主義的な経済路線を打ち出した。石油価格の高騰を背景に貧困層向けの教育・医療・住宅政策が展開され、一定の支持を得る一方で、権力集中や司法・メディアへの介入、反対派との対立激化が国内外で批判された。チャベス死去後はニコラス・マドゥロ政権が継承するが、原油価格の下落や通貨危機、ハイパーインフレ、政治対立により、経済・社会状況は深刻化した。多くの国民が国外へ移住し、周辺の南米諸国やエクアドルなどにも難民・移民が流出するなど、地域的な課題ともなっている。
社会と文化
ベネズエラの社会は、先住民・ヨーロッパ系・アフリカ系・混血など、多様なルーツをもつ人々によって構成されている。宗教面ではカトリックが多数を占めるが、地方ごとの民俗信仰や音楽・舞踊と結びついた祭礼も豊かである。ジャノーと呼ばれる平原地帯の音楽、サルサやメレンゲといったカリブ音楽、野球やサッカーなどのスポーツ文化は、国民的な娯楽として親しまれている。また、独立の英雄ボリバルへの敬意は現在も強く、学校教育や祝祭日のなかで歴史意識が語り継がれている。ラテンアメリカの独立全体の流れの中で、ベネズエラは政治・社会・文化のいずれにおいても重要な位置を占めている。