サイレンサー|排気消音と背圧管理で性能維持

サイレンサー

サイレンサーは内燃機関の排気脈動で生じる音圧波を減衰させ、車外騒音と車内こもり音を低減する装置である。吸収(多孔質材による粘性損失)と反応(反射・干渉)を組み合わせ、周波数帯ごとに最適化する。騒音規制を満足させつつ、出力低下の原因となる背圧を抑えることが設計の要点である。材料はアルミめっき鋼板やSUS系の耐熱耐食材が主流で、溶接・成形性、耐久性、コストのバランスを取る。

作用原理

サイレンサーの減衰機構は大別して吸音型と反応型である。吸音型は多孔質のパッキングとパンチング管で高周波を熱に変えて損失化し、反応型は膨張室・仕切り板・反射面で位相差を作り、干渉により特定帯域を打ち消す。四分の一波長共鳴管やヘルムホルツ共鳴器を付加して狙いの基本・倍音を狙い撃ちすることも多い。これらを直列・並列に組み、車種固有の排気次数構成にあわせた帯域別チューニングを行う。

構造と主要部品

筐体(外板・エンドプレート)、インレット/アウトレット、パンチングストレート管、バッフル、膨張室、パッキング(グラスウール等)、ハンガー、遮熱板で構成される。外板は石跳ね・塩害と熱疲労に晒されるため、板厚とビード設計で剛性と耐久を確保する。凝縮水の滞留を避ける排水設計や、スポット・シーム・レーザ溶接の連続性確保が重要である。内部パッキングは飛散防止のためメッシュで保持し、長期使用での目減りや焼損を見込んだ容量設計を行う。

種類と適用

直管吸音型はパンチング管周囲に吸音材を配し、高回転域のシャー音に有効である。多室反応型は仕切りで経路長と反射を制御し、低中周波のこもり音に効く。両者のハイブリッドが量産車の標準である。さらにバイパス弁で経路を切替える可変排気や、マフラーテール形状を音質と圧損の両面で最適化する手法もある。近年はエンジン回転・負荷に応じたモーダル制御を前提に、車内音質(快音)と外部騒音(規制値)を同時達成する統合設計が一般的である。

設計指標とチューニング

性能評価は伝達損失(Transmission Loss)、挿入損失、背圧、流量特性で行う。TLは周波数ごとの減衰能力を示し、実機では配管曲がり・触媒・GPFの影響を受けるためシステムで最適化する。背圧は出力・燃費に直結し、許容値内での低減が必須である。ターゲット周波数はアイドル~巡航の卓越次数を起点に、四分の一波長長さやヘルムホルツ容積・頸部寸法を逆算する。吸音材は繊維径・嵩密度・充填率で実効吸音率が変わるため、耐熱劣化を織り込んだ余裕設計を行う。

音質・快適性

規制適合だけではなく、車内のボンボン感(低周波ブーム)や耳障りなヒス(高周波)を抑え、加速時のスポーティ感を残す音質設計が重視される。排気管路の位相整合、テールパイプ径・長、二重管や拡散端末での放射効率調整、車体フロアやサブフレームとの結合剛性最適化が効く。パワートレイン支持系との連成でこもりが悪化するため、ハンガーブッシュのばね定数や取付位置も合わせて検討する。

材料・製造・耐久

量産ではアルミめっき鋼板、SUS409LやSUS304が多用される。外板はプレス・ロール成形、エンドはディープドロー、内部部品はパンチングと曲げを組み、周溶接で気密を確保する。耐久は熱衝撃、プレッシャーパルス、振動、塩水噴霧、ストーンチップで検証する。腐食は内面凝縮水の酸性化が主因であり、排水孔や勾配設計、重ね代の隙間腐食対策、溶接熱影響部の保護が要点である。

法規・試験とシステム連成

自動車騒音はパスバイや定常騒音の国際規格で評価され、型式認証・量産監査に適合する必要がある。実機では触媒や粒子フィルタと直列接続され、温度・圧力・化学耐性の制約を受ける。OBDとの整合や排気温・差圧センサの配置も含めたシステム最適化が前提である。関連項目として触媒コンバーター三元触媒GPFチャコールキャニスター排気温センサー差圧センサーEGRクーラー尿素タンクを参照すると理解が深まる。

電動化時代との関係

HEVではエンジン停止~再始動や低負荷運転が多く、低周波の位相設計が難しい。投入頻度の少ない高回転域より、再始動時の立上り音やアイドル近傍のブーム対策が要所となる。BEVは排気系を持たないが、逆にモータ高周波や風切り音が支配的となるため、車体側の遮音・制振技術に焦点が移る。将来は合成サウンドとの協調で知覚品質を調整するケースが増える。

設計上の留意点

パッケージング制約の中で十分な容積と管長を確保しつつ、地上高・後突安全・温度管理を満たす必要がある。遮熱板や断熱ラップで床面と樹脂部品を保護し、ハンガー配置でボディ共振を避ける。量産性では部品点数削減、溶接継手の標準化、治具剛性と歪み管理が効率を左右する。最終的には音響性能と背圧、耐久、コストのトレードオフを定量指標で合意形成することが重要である。