グリーンウォッシュ|環境配慮を装う欺瞞的な企業広報

グリーンウォッシュ

グリーンウォッシュとは、企業や団体が製品・サービス・事業活動について、実態以上に環境に配慮しているかのように見せかける表示や広告を指す言葉である。英語の「green(環境配慮)」と「whitewash(ごまかし、取り繕い)」を組み合わせた造語で、日本語では「見せかけの環境配慮」などと訳される。根拠のない「エコ」表示、一部分の改善を製品全体の性能のように語る宣伝、カーボンオフセットに頼った「排出ゼロ」の主張などが典型例とされる。消費者の誤認を招くだけでなく、真面目に環境対策へ投資している企業の競争力を損なう点でも問題視されている。

言葉の起源と広がり

この語を最初に使ったのは、米国の環境活動家ジェイ・ウェスターベルトとされる。1986年、彼はホテルの客室に置かれた「環境保護のためタオルの再利用にご協力を」というカードを取り上げ、実際には洗濯コスト削減が主目的ではないかと批判した。1990年代以降、石油・化学・自動車などの大企業による環境広告が増えるにつれて批判の言葉として定着した。2015年に発覚したフォルクスワーゲンの排ガス不正では、「クリーンディーゼル」を売りにした車両が世界で約1,100万台規模に及び、環境性能を偽る行為の深刻さを広く知らしめる契機となった。

グリーンウォッシュの7つの罪

カナダの環境マーケティング会社テラチョイスは、2007年に北米の消費財を調査し、誤解を招く環境表示を6つの類型に整理した。2009年には7番目の類型が加えられ、現在も判断の目安として引用されることが多い。

  1. 隠れたトレードオフ:一つの環境属性だけを強調し、他の大きな負荷を隠す
  2. 証拠の欠如:第三者が確認できる根拠を示さない
  3. 曖昧さ:「ナチュラル」「地球にやさしい」など意味が広すぎる言葉を使う
  4. 無関係:法律ですでに禁止されている物質の「不使用」を誇る
  5. より小さな悪:本質的に有害な製品の中で相対的にましな点を強調する
  6. 虚偽:事実と異なる認証や性能を主張する
  7. 偽ラベルの崇拝:認証マークに似せた独自ロゴで公的な認証を装う

日本における法規制とガイドライン

日本には「グリーンウォッシュ禁止法」のような専用の法律はない。中心となるのは景品表示法で、商品の品質を実際より著しく優良に見せる表示は第5条第1号の優良誤認表示として規制される。2022年12月、消費者庁は「生分解性」をうたうカトラリー・ストロー、釣り用疑似餌、ゴミ袋、エアガン用BB弾などの販売事業者計10社に措置命令を出した。どの環境下で、どの程度の期間をかけて分解されるのかという根拠が不十分だったことが理由である。2024年2月にはこのうち1社に課徴金納付命令も出ており、環境表示が行政処分の対象になることがはっきりした。自主的な指針としては、環境省の「環境表示ガイドライン」(平成25年3月版)があり、自己宣言型の環境主張を定めたJIS Q 14021(ISO 14021の対応規格)に沿った表示を推奨している。

金融分野への波及

投資信託でも、ESGの名を冠しながら銘柄選定に環境要素をほとんど反映していないファンドが問題となった。金融庁は2023年3月に監督指針を改正し、ESG投資をうたう公募投信に対して投資手法や目標の開示を求めている。

EUの規制強化と2026年からの新ルール

規制が最も進んでいるのは欧州連合である。2024年3月に発効した指令(EU)2024/825、通称「グリーン移行のための消費者エンパワーメント指令(ECGT)」は2026年9月27日から適用が始まり、根拠のない「エコフレンドリー」「サステナブル」といった包括的な表示を禁止した。排出量の相殺のみを根拠に製品を「気候中立」と表示することも認められなくなった。より厳格な第三者検証を義務づける予定だった「グリーンクレーム指令案」(2023年3月提案)は、2025年6月に欧州委員会が撤回の意向を示し、現在も先行きが定まっていない。欧州へ製品を輸出する日本の部品メーカーにとっても、最終製品メーカーから表示根拠の提出を求められる場面は確実に増えている。

地域 主な根拠法・規格 特徴
日本 景品表示法、JIS Q 14021 優良誤認として個別に処分、ガイドラインは任意
EU 指令(EU)2024/825 包括的な環境表示やオフセット依存の気候中立表示を禁止
英国 CMAグリーンクレームコード(2021年) 競争・市場庁が6原則を提示し調査を実施
米国 FTCグリーンガイド 連邦取引委員会による解釈指針、1992年策定

製造業の現場で起こりやすい落とし穴

製造業でとくに注意が要るのは、試験条件と表示内容のずれである。たとえば生分解性プラスチックの評価に用いるJIS K 6953-1(ISO 14855-1)は、58℃前後に保った管理コンポスト中での分解率を測る規格だ。この結果をもって「土や海で自然に分解する」と書けば、常温の環境とは条件がまったく違うため誤認表示になりかねない。リサイクル材の配合率も同じで、梱包材だけが再生材なのに製品全体が再生材でできているような書き方をすれば、ECGT指令が名指しで禁じる「部分属性の全体化」にあたる。B2Bの取引では、営業資料やカタログの一文が顧客の最終製品の表示に転用されることも多い。社内では、環境に関する文言を技術部門と品質保証部門の両方が確認し、試験報告書の番号を表示根拠として管理しておくのが実務的な対策である。ライフサイクルアセスメント(LCA)を外部に委託すると1製品あたり数十万〜数百万円かかることもあり、中小企業では主要製品に絞って算定する例が多い。

カーボンニュートラル表示をめぐる論点

近年、最も議論を呼んでいるのはカーボンニュートラルや「CO2ゼロ」の表示である。自社工場の温室効果ガス排出を削減しないまま、安価なクレジットを購入して相殺分を「ゼロ」と称する手法は、海外で訴訟の対象にもなった。サプライチェーン全体の排出量(スコープ3)を算定範囲から外したまま「排出ゼロ企業」を名乗る例も批判されやすい。算定範囲、基準年、オフセットの比率を併記するだけでも、誤認のリスクは大きく下がる。

グリーンハッシングとの関係

規制が厳しくなったことで、逆に環境への取り組みをあえて公表しない「グリーンハッシング」と呼ばれる現象も報告されている。批判や法的リスクを避けるための沈黙であるが、SDGsやISO14001に基づく取り組みが外部に伝わらなくなる弊害もあり、正確な情報開示との両立が課題とされている。

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