カーボンオフセット|削減しきれないCO2を他所の削減で埋め合わせる仕組み

カーボンオフセット

カーボンオフセットとは、事業活動や日常生活で出る温室効果ガスのうち、自らの努力で減らしきれない分を、別の場所で実現した削減量や吸収量で埋め合わせる考え方である。埋め合わせに使う削減・吸収量は「クレジット」と呼ばれ、第三者の検証を経て発行される。英語のoffsetには「相殺する」という意味がある。日本では、環境省が2008年に「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」を公表したことで広く知られるようになった。

京都議定書から始まった制度の歩み

制度の起点は、1997年に採択された京都議定書にある。この議定書は先進国に削減の数値目標を課した。あわせて、途上国での削減事業をクレジットにできるクリーン開発メカニズム(CDM)を導入し、国境を越えて削減量をやり取りする道を開いた。民間主導の自主的市場もほぼ同じ時期に立ち上がり、2003年にはGold Standard、2007年には現在のVerraにつながるVCS(Verified Carbon Standard)がつくられている。国内では2013年度に国内クレジット制度とJ-VER制度が一本化され、J-クレジット制度が始まった。2015年のパリ協定では第6条で国際的な削減量移転のルールが定められ、同じ削減量を二国で数える「二重計上」をどう防ぐかが大きな論点になった。

算定・削減・埋め合わせの3段階

取り組みは、自社の排出量を知ることから始まる。算定にはGHGプロトコルやISO 14064-1が使われる。対象は、燃料の燃焼による直接排出(Scope1)と購入電力による間接排出(Scope2)が中心だが、調達品や輸送に伴う排出(Scope3)まで広げる企業が増えている。次に、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーへの切り替えで排出を減らし、それでも残った分をクレジットで埋め合わせる。ここで気をつけたいのは、クレジットは買っただけではオフセットを名乗れないという点である。登録簿上で「無効化(償却)」の手続きを済ませて、はじめて自社の排出の埋め合わせに使える。

正味排出量の計算式

オフセット後の正味排出量は、次の式で表せる。
Enet = Etotal − R − C
Etotalは算定した排出量、Rは自助努力で減らした量、Cは無効化したクレジットの量を表し、単位はいずれもt-CO2である。たとえば年間5,000t-CO2を排出する工場が、省エネで800t-CO2を減らし、残る4,200t-CO2分のクレジットを無効化すれば、Enetは0になり、全量オフセットを名乗れる。

代表的なクレジットの比較

クレジットは、どこが運営しているか、どんな事業から生まれたかによって信頼性や使える用途が変わる。取引先へ説明するときや、国の報告制度に使うときは、どの制度のクレジットかが問われる。主なものを下の表にまとめた。

名称 運営主体 主な対象事業 特徴
J-クレジット 経済産業省・環境省・農林水産省 省エネ設備の更新、太陽光発電、森林管理 温対法の報告やCDPへの回答に使える国内制度
JCM(二国間クレジット制度) 日本政府とパートナー国 途上国への脱炭素技術の導入 2013年に始まり、日本の削減目標の達成に使われる
VCS(Verra) 米国の非営利団体 REDD+、再エネ、廃棄物処理 自主的市場で最大級の発行量を持つ
Gold Standard スイスの財団 高効率調理コンロ、再エネ 地域社会や持続可能な開発への貢献も評価する

製造業の現場での使い方

自動車や電機の大手メーカーが、サプライチェーン全体でのCO2削減を取引先に求める動きが強まっている。部品加工を担う中小企業でも、排出量の報告を求められる場面が珍しくない。現場の実感として、熱処理炉、コンプレッサー、空調が工場の電力消費の大部分を占めることが多い。そのため、エアー漏れ対策や炉の断熱補修といった低コストの改善を先に済ませ、それでも残った排出にクレジットを当てるのが定石である。クレジットの費用は種類によって大きく違う。J-クレジットの入札では、省エネ由来が1tあたりおおむね1,500〜3,000円、再エネ電力由来が3,000円前後で取引される例が多く、森林由来は1万円を超えることもある。2023年10月には東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開かれ、価格を確かめやすくなった。製品1個あたりの排出をゼロとうたう「オフセット製品」をつくる場合は、ライフサイクルアセスメントで原材料から廃棄までを算定する必要があり、社内の工数は想像以上にかかる。

GX-ETSとの関係

国内の排出量取引制度であるGX-ETSは2023年度に試行が始まり、2026年度からは直接排出が年間10万t-CO2以上の事業者に参加が義務づけられた。J-クレジットやJCMは、一定の割合までなら排出枠の代わりに使える。企業の排出に値段をつけるカーボンプライシングが本格化したことで、クレジットは任意の環境貢献ではなく、経営上のコストとして扱われるようになりつつある。

グリーンウォッシュ批判と品質の見極め

安易なオフセットには厳しい目も向けられている。2023年には、Verraが認証した森林保全クレジットの多くで、削減効果が大きく見積もられていたとする海外報道が相次いだ。実体のない環境配慮をうたうグリーンウォッシュと批判されないよう、民間団体のICVCMは同じ年に「コア・カーボン原則(CCP)」を公表した。クレジットを選ぶときに確かめたい主な観点は次のとおりである。

  • 追加性:クレジットの収入がなくても実施された事業ではないか
  • 永続性:森林吸収源が火災や伐採で失われる心配はないか
  • 二重計上の回避:同じ削減量がほかの国や企業で数えられていないか
  • 第三者検証:独立した機関が測定値を確かめているか

カーボンニュートラルとの違い

カーボンニュートラルは、排出量と吸収量・除去量を差し引きゼロにした「状態」を指す。これに対してカーボンオフセットは、その状態に近づくための「手段」の一つにあたる。2023年に発行されたISO 14068-1は、カーボンニュートラルを宣言するには、まず削減計画を立てて実行し、どうしても残る排出に限ってクレジットを使うよう求めている。削減の努力をせず、二酸化炭素の排出をクレジット購入だけで帳消しにする方法は、国際規格の上でも認められなくなってきた。

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