クーラントリザーバタンク|冷却系の容量調整で圧力と温度安定

クーラントリザーバタンク

クーラントリザーバタンクは、内燃機関やハイブリッド車の冷却系で膨張・収縮するクーラント液を安全に受け止め、系内の圧力と液量を安定化させる容器である。冷間から高温までの体積変化を吸収し、エア抜きや補給を容易にすることで、冷却系のキャビテーションやオーバーヒート、エアロックの発生を抑制する。レベルセンサや加圧キャップを備えるタイプも多く、保守点検の基点としても機能する。

役割と原理

クーラントリザーバタンクは温度上昇に伴うクーラントの膨張分を一時的に受け、冷却時には収縮分を系へ戻す。これによりラジエーターウォーターポンプの吐出圧変動を緩和し、シール部の負担を軽減する。ブリーザから気泡を導入して滞留させる設計では、気液分離(デガス)も担い、冷却水路のエア滞留を抑えることで熱交換効率を維持する。

種類(オーバーフロー型とデガスタンク)

非加圧のオーバーフロー型は、ラジエーターキャップのリリーフ開弁時に排出された冷却液を受ける単純な容器で、減圧時に復帰する。一方、デガス(サージ)タンクは系の一部として常時循環し、タンク自体を加圧系に含める。後者は微細気泡の分離や温度安定性に優れ、高出力エンジンや過酷環境で採用される。

構造要素と材料

  • 本体:耐熱・耐薬品性に優れたPP、PA66+GFなどの樹脂を主とし、透明度を確保して残量確認を容易にする。
  • キャップ:圧力リリーフと負圧弁を内蔵し、設定圧で排圧、冷却時に逆止して吸気・復帰を行う。
  • バッフル:走行中のスロッシングを抑制し、確実な吸い込みと気液分離を助ける。
  • センサ:フロート式や導電式のレベルセンサが警告灯と連動する。

圧力管理とキャップの機能

キャップの設定圧は一般に約80〜110kPa程度で、冷却液の沸点を引き上げることでマージンを確保する。リリーフ弁は過圧を排出し、負圧弁は冷却収縮時に外気またはタンク液を吸い戻す。これによりサーモスタット開閉時の圧力ショックを緩和し、系全体の安定動作に寄与する。

流路設計と配置

デガスタンクでは、ラジエーター上部やシリンダヘッド高所からブリーザラインを取り、タンク上部で気液分離を行う。リターンはポンプ吸込側に接続して気泡の再混入を避ける。配置は補機の保守性、重量配分、衝突安全を考慮し、熱源からの放射を避けつつホース長を短く保つ。関連部品としてラジエーターホースヒーターホースの取り回し最適化が重要である。

容量設計と安全余裕

容量は冷却系総量、最高温度、傾斜条件、スロッシングを考慮して定める。最低液面でも吸込口が露出しない形状とし、傾斜試験・加速度試験でエア巻き込みを評価する。冷却能力に対するマージンは、渋滞・高地・高外気温での連続運転を想定して設定する。

材料耐久と環境対応

樹脂は長期の熱酸化・加水分解・クーラント添加剤への耐性が必要である。PA系は強度に優れるが吸水膨潤に配慮する。PPは軽量で加工性に優れる。可塑剤やリサイクル比率の管理、TEMPERATURE CYCLE、SALT SPRAY、UV耐候などの試験で劣化を検証する。EV/HEVでは電動化に伴い電動ウォーターポンプや低導電クーラントとの適合も求められる。

製造方法と品質

  • ブロー成形:中空一体でスロッシング抑制形状を作りやすい。透過性も確保しやすい。
  • 射出+溶着:上下ハウジングをホットプレートや超音波で溶着し、取付ボス精度を確保する。
  • 品質保証:耐圧・気密試験(エアリーク)、ヒートショック、落下、振動、化学耐性、キャップ開弁圧の全数・抜取り管理を行う。

センサと診断

レベル低下は過熱や漏れの初期兆候であり、レベルセンサ信号はメータやECUに取り込まれる。OBD上は過熱・冷却系故障としてDTCが管理されることが多い。関連してラジエーターファン制御の不具合や、ヒータコア内のエア噛みも診断対象である。

保守・点検の要点

  1. 液面:COLD/HOTマークの範囲内を維持する。頻繁な減少は漏れや燃焼ガス混入の疑い。
  2. 外観:樹脂の黄変、クラック、白化、溶着部のにじみを点検する。
  3. キャップ:開弁圧の劣化は早期沸騰やホース膨張を招くため、交換推奨距離を目安に予防整備する。
  4. ホース:硬化・膨張・クランプ痕のずれを確認し、必要に応じてラジエーターや配管系と併せて交換する。

故障モードと対策

樹脂タンクの微小クラックや溶着部のピンホールは、温間でのにじみとして現れる。キャップ弁の固着は圧力異常やリザーバ溢れを伴う。ブリーザ詰まりはエア抜け不良を招く。対策として材料グレードの見直し、リブ補強、バッフル形状最適化、キャップ弁材の耐薬品性向上などを行う。

関連部品との関係

クーラントリザーバタンクは、熱源から熱を受けるエバポレータとは系統が異なるが、車室側熱交換器であるヒータ回路と連動して液流量・圧力に影響を与える。冷却系全体では、サーモスタットの開度、ウォーターポンプの流量、ラジエーターファンの風量が相互に作用する。

設計・法規・リサイクル

車両衝突時の二次被害抑制のため取付強度と破断様式を設計し、環境規制に合わせて材料のVOCや重金属を管理する。リサイクル設計では単一材料化や刻印表示、分別容易性を考慮する。サービスマニュアルには補充手順、エア抜き手順、トルク規定(クランプ・ブラケット)を明記して整備性を担保する。

設計チェックリスト(抜粋)

  • 容量:系総量に対し膨張分+安全余裕を確保
  • 圧力:キャップ開弁圧・負圧弁特性の設定
  • 配置:高所配置、ブリーザ経路の勾配と滞留防止
  • 耐久:熱老化、薬品、振動、UVの実車条件フィット
  • 品質:全数気密、トレーサビリティ、外観基準