エバポレータ|冷媒を蒸発させ熱を奪う熱交換器

エバポレータ

エバポレータは冷凍サイクルにおいて液体冷媒を低圧で沸騰させ、周囲から顕熱・潜熱を吸収して空気や液体を冷却する熱交換器である。冷蔵庫、産業用チラー、自動車HVACなど幅広い装置で用いられ、蒸発に伴う潜熱吸収により高い熱移動密度を実現する。圧縮機、凝縮器、膨張弁と循環する中で、エバポレータは室内や工程流体の温度・湿度を規定し、快適性とプロセス安定に直接寄与する中核機器である。

原理と熱力学

膨張弁を通過した低温低圧の二相冷媒がエバポレータ内で沸騰し、流体または空気側から熱を奪う。熱収支は概ね Q = m_ref × (h_out − h_in) ≒ m_ref × L で表され、蒸発潜熱 L の大きさが能力を決める。空気側は対流・フィン伝熱、冷媒側は核沸騰・膜沸騰を経て全体の伝熱係数が支配される。出口でわずかなスーパーヒート(5〜10 K)を確保し、液冷媒の圧縮機流入を防ぐ設計が基本である。

主要構成要素

  • 熱交換コア(フィン・チューブ/マイクロチャネル):表面積拡大と圧力損失の最適化を両立する。
  • ディストリビュータ:並列チューブへの冷媒均等分配で乾き度偏りを抑える。
  • 膨張機器(TXV/EEV):過熱度を制御し能力と安定性を担保する。
  • 温度・霜検知センサ:凍結や結露を監視しデフロストやブロワ制御に接続する。
  • ドレンパン・ドレン配管:除湿で生じる凝縮水を確実に排出する。

タイプと用途

乾式膨張(DX)方式

DXは管内が主に気液二相〜過熱蒸気となる方式で、小型・応答性良好のため空調や自動車HVACで標準的に用いられる。分配均一性と過熱度制御の良否が能力を左右する。

フラッディッド方式

シェル側に液冷媒を満たしチューブ内を被冷却側が流れる。伝熱係数が高く大型プラントや低温プロセスに適するが、冷媒量が増え機器が大形化しやすい。

フォーリングフィルム

管外を薄膜状に冷媒が流下し高い伝熱を得る。部分負荷でも効率を保ちやすいが、液配分・表面濡れ性の管理と汚れ対策が鍵となる。

自動車HVACにおける特徴

自動車用エバポレータはアルミ製コルゲートフィンやマイクロチャネルを採用し、軽量化と高伝熱を両立する。冷媒はR134aからR1234yfへの移行が進み、可燃性・温暖化影響に配慮した封止設計が重要である。除湿能力は視界確保に直結し、結露水のドレン設計、臭気・カビ対策の表面処理やキャビンフィルタ管理が品質を左右する。

設計指標と選定

  1. 能力・LMTD:目標蒸発温度と入口空気条件からLMTDを算出し伝熱面積を決める。
  2. 空気側特性:ブロワ風量、フィンピッチ、表面効率、圧力損失のバランスを最適化する。
  3. 冷媒側特性:流量、乾き度、圧力損失、均等分配を考慮しチャネル形状を決める。
  4. 結露・霜:フィンピッチやコーティングで排水性を確保し、低温域ではデフロスト戦略を準備する。
  5. 材料・耐食:アルミろう付一体化と防食皮膜で塩害・電食を抑制する。

制御と保護

TXVはバルブ直下の過熱度で機械的に流量を調整し、EEVはセンサ情報をもとにPID等で開度を制御する。霜検知による間欠デフロスト、過冷却・過熱の最適化、コンプレッサ保護のためのサイクル停止やクラッチ制御など、エバポレータ中心の安定化ロジックが実装される。

効率とCOPへの影響

エバポレータの温度アプローチ(空気出口温度と蒸発温度差)を小さくできれば圧縮比が下がりCOPが向上する。過熱度過大は面積の非有効化を招き、過小は液圧縮の危険を高めるため、設計点と制御点の整合が肝要である。汚れや霜による伝熱劣化・通風損失は消費電力を押し上げるため、清浄度維持が省エネの近道となる。

故障・劣化と対策

  • 冷媒漏れ:継手・コアのピンホールや腐食が原因。リーク検知と乾燥剤管理で予防する。
  • 目詰まり:粉塵・花粉の堆積で圧損増大。フィルタ交換と定期洗浄を行う。
  • 凍結:風量不足や過度の膨張で発生。過熱度監視とデフロスト制御で回避する。
  • 臭気:生物膜の形成による。親水・抗菌コートやドレン勾配の適正化が有効。

製造と信頼性

量産品はアルミろう付による一体コアが主流で、拡散接合や真空ろう付で微細流路の気密を確保する。耐圧・気密・浸漬・塩水噴霧などの信頼性試験を経て市場投入される。R1234yfなど新冷媒では潤滑油やエラストマ適合性も検証対象となる。

設計の実務ポイント

初期検討では負荷線図とサイクル計算で蒸発温度・流量・圧縮比を見積もり、プロトで空気側特性曲線(風量–圧損、能力–風量)を取得する。モデル同定に基づくEEV制御、結露マネジメント、量産ばらつきと分配均一性の見込みを織り込むことで、エバポレータは小型・高効率・静粛性の要件を同時に満たす。