カーテンエアバッグ
カーテンエアバッグは、側面衝突や横転時に乗員の頭部を保護し、窓からの飛び出しやガラスへの衝突を抑制する側面用エアバッグである。ルーフサイドレールに沿って長尺に収納され、作動時にはAピラーからC(またはD)ピラーにかけて帷子(カーテン)のように展開し、前席から後席までの広い範囲を覆う設計が一般的である。頭部の減速を緩和し、側面ポール衝突、他車との側突、さらには横転での窓外放出リスクを低減することを主目的とする安全デバイスである。
構造と配置
カーテンエアバッグは、インフレータ(ガス発生器)、長尺に折り畳まれたバッグ、固定用ブラケットとテザー、ルーフトリム内の収納スペースで構成される。バッグは高強度ナイロン基布にシリコーン系コーティングを施すことが多く、シーム縫製や織り込みバッフルにより展開形状と気室圧力を制御する。車体側には点在する固定点で確実に保持され、展開時にはウィンドウ面に沿って下方へ広がる。サンルーフ、アシストグリップ、サイドガーニッシュなど周辺部品との干渉を避けるパッケージングが要件となる。
作動原理とセンサ
エアバッグECUはミリ秒オーダで側面加速度センサ、ドア内圧センサ、ヨーレート・ロールレートを含む横転判定センサ群を監視し、しきい値と時間窓に基づいて展開を決定する。側突ではおおむね10~15ms程度でインフレータが点火し、高圧ガス(蓄圧式またはハイブリッド式)がバッグに充填される。横転事象では滞留時間が重視され、数秒間以上の圧保持(ステイインフレーテッド)を図る設計が採用されることが多い。他のSRSとの誤作動干渉回避、電源低下時の冗長化も重要である。
安全性能の評価指標
ヘッドフォーム衝突時の頭部傷害基準HIC(特にHIC(d))の低減、側突評価(例:ポール側突)での頭部・胸部保護指標、窓外放出抑制(エジェクション・ミティゲーション)性能が主要評価項目である。車外排出の抑止では、ガラス破砕後も頭部が開口部から押し出されないよう、バッグ高さ、重なり幅、縫製強度、テザー位置が最適化される。シート位置・着座姿勢変動やチャイルドシート装着時の適合も検討される。
設計上の留意点
- パッケージング:ルーフレール内の限られた断面にインフレータと折畳みバッグを収納する。
- 展開クリアランス:ヘッドライナ、ピラー、シート、グリップ、サンシェードとの干渉を防ぐ。
- ガラスとの相互作用:割れたガラス片との摩耗・切創に耐えるコーティングと縫製強度を確保する。
- 滞留特性:横転での数秒規模の圧保持に向け、ベント孔径やバッフル形状を最適化する。
- 多列保護:3列シート車では後席端部まで保護範囲を延長するレイアウトが必要である。
- OOP対策:前屈・側屈姿勢(Out-Of-Position)での過度荷重を避ける展開速度と圧力制御を行う。
関連システムとの連携
サイドエアバッグやシートベルト、プリテンショナとの協調が事故実態に近い保護性能を生む。側突ではシート側のサイドエアバッグが胸部・骨盤を支え、カーテンエアバッグが頭部をガラス面から隔離する。シートベルトのロードリミッタが胸部荷重を抑えつつ、プリテンショナが骨盤・胸郭を早期に拘束することで、頭部の側方移動量を減らし、バッグの「受け」に乗員を導く役割を果たす。
耐久・品質・機能安全
長期耐候(高温・低温・湿熱・塩水噴霧)に対する劣化抑制、長期収納時の折り癖と摩耗の管理、インフレータの気密・点火安定性が品質の柱である。自己診断(DTC)により点火回路断線や抵抗異常を検知し、警告灯で運転者に通知する。機能安全ではISO 26262に基づくASIL割当、センサ冗長、診断カバレッジ、フェイルセーフ戦略を設計に織り込む。
材料・製造技術
バッグ生地は高強度66ナイロンのリップストップやエア織り構造が用いられ、耐熱・耐摩耗・ガスバリア性向上のためコーティングを施す。縫製部は荷重集中が起こりやすいため、ステッチ長と糸種、重ね幅、端末処理をCAEで検証する。インフレータは蓄圧式・ハイブリッド式が主流で、点火時の音圧・温度管理、ガス流路の均一化が重要である。折畳み工程では展開方向を誘導するための段折り・ロール折りを使い分け、量産ではトレーサビリティとPPAP等の承認プロセスに従う。
評価・試験
- 台上評価:流量・圧力履歴、ベント設計、リーク率、耐摩耗試験。
- 車両評価:側突・ポール・横転試験でのダミー頭部指標計測、ウィンドウ開口での排出抑止確認。
- 環境ストレス:高温保持後展開、低温急展開、湿熱後展開、振動・衝撃耐性。
- 適合検証:着座姿勢・シート位置・リクライニング角・チャイルドシート取付状態での有効性確認。
ユーザー視点の注意点
ピラーやヘッドライナ周辺に後付けアクセサリを装着すると展開を阻害するおそれがある。純正指定以外の部品やカーテン、ハンドル取付は避けるべきである。作動後はバッグ、インフレータ、ヘッドライナ、ピラーガーニッシュ、ガラス等の関連部位を一式交換する。整備時はサービスマニュアルに従い、SRS回路の電源断や静電気対策を厳守する。
他のエアバッグとの違い
運転席エアバッグや助手席エアバッグが前方衝突での頭胸部の前後方向荷重低減を主目的とするのに対し、カーテンエアバッグは側方からの侵入・ガラス面への衝突・窓外放出を抑える点に重心がある。車両の安全アーキテクチャではこれらを相補的に設計し、実交通の多様な事故態様に対応することが求められる。
歴史と普及
1990年代後半から高級車を皮切りに普及が始まり、評価プログラムの導入や横転対策の重視とともに大衆車にも広がった。現在では多列シート車やSUVでの採用比率が高く、後席乗員の頭部保護と窓外放出抑止に不可欠の装備として位置付けられている。名称はメーカーにより異なるが、機能の本質は共通である。
システム全体の最適化
ステアリングエアバッグや他のSRS、シート、車体側面構造、ガラス、内装部材の剛性・変形モードを総合的に設計し、衝突条件分布に対して確率的に最適な保護を与えることが重要である。CAEでのマルチフィジックス解析、実車検証、量産ばらつき管理を通じ、頭部保護性能と滞留性、乗員快適性(音圧・熱負荷)をバランスさせるのがエンジニアの役割である。