エキスパンションバルブ
エキスパンションバルブは自動車のA/C冷凍回路で高圧液冷媒を減圧・微量噴射し、蒸発器で効率よく気化させるための制御弁である。冷媒流量を負荷に応じて調整し、蒸発器出口の過熱度を一定に保つことで、霜付きや液圧縮を防ぎつつ冷房性能と効率を両立する役割を担う。一般にTXV(熱膨張弁)やEEV(電子膨張弁)などの形式があり、冷媒はR134aやR1234yfが用いられる。
機能と役割
エキスパンションバルブの主機能は、コンデンサーで凝縮・サブクールされた液冷媒を絞り流し、圧力と飽和温度を一気に低下させることである。これにより蒸発器内部で冷媒が沸騰し、車室内の熱と水分を吸収する。適正な過熱度を維持すれば蒸発器全域を有効に使いつつ、圧縮機への液戻りを防止でき、システムの信頼性と燃費に寄与する。
作動原理と過熱度制御
TXVはバルブ上流下流の圧力差と蒸発器出口温度に比例する力(感温部)を釣り合わせて開度を決める機械式制御である。感温バルブのダイヤフラムに伝わる力とスプリング反力の均衡で針弁が動き、過熱度(蒸発器出口の実温度と同圧力の飽和温度差)をおおむね一定に保つ。EEVはステッピングモータやパルス駆動で微細に開度を制御し、ECUがサーミスタや圧力センサの情報から過熱度を演算しPIDで制御するため、低負荷やアイドル時でも安定した蒸発温度が得られる。
主要構成部品
- ニードル・シート:微小開度でも安定したスロットルを実現する精密流路
- ダイヤフラム・スプリング:開度を決める機械要素(TXV)
- 感温バルブ(バルブボディ外のバルブバルブ/バルブバルブ管):蒸発器出口温度を検知
- ステッピングモータ・ドライバ:EEVの微小ステップ制御アクチュエータ
種類と特徴
- TXV(Thermostatic Expansion Valve):機械式で構造が単純、応答は良好だが微小負荷域でハンチングしやすい。
- EEV(Electronic Expansion Valve):開度分解能が高く、過熱度を狭い範囲に維持でき省エネ性に優れる。制御ロジックが必要。
- 固定オリフィス(Orifice Tube):開度一定で安価・軽量。コンプレッサの能力変調と組み合わせるCCOT方式で使われるが、外乱追従性は劣る。
自動車A/Cでの設計ポイント
膨張弁の容量は蒸発器の熱交換能力、コンプレッサの吐出量、冷媒の物性、目標過熱度に整合させる必要がある。蒸発器入口に十分なサブクール度を確保しフラッシングを抑制することで、流量制御の安定と冷房性能を両立できる。可変容量コンプレッサや電動コンプレッサと組み合わせる場合、開度制御と吐出制御の協調が重要で、EEVではECU内でのモデルベース制御が有効である。
設計パラメータの目安
- 目標過熱度:5〜8 K程度(車種・負荷で最適化)
- 許容圧力損失:蒸発器側の必要冷媒流量を満たす範囲で最小化
- サブクール度:蒸発器入口で3〜10 Kを確保しキャビテーションを抑制
- 取付位置:蒸発器直前(熱侵入を避け短い配管でフラッシュを防止)
故障症状と診断
エキスパンションバルブの固着閉(閉まり過ぎ)では吸入圧が極端に低下し蒸発器が冷えすぎず、吹出口温度が上がる。固着開(開き過ぎ)では吸入圧が上がり過熱度が低下、コンプレッサ液戻りリスクが生じる。異物詰まりや乾燥剤崩壊粉、金属粉による流路閉塞では低圧側が過度に低くなり霜付きや循環量不足が顕在化する。ゲージ診断では高低圧の組み合わせ、吹出温度、配管の温度分布、霜の付き方を総合評価する。
トラブルシューティングの指標
- 低圧極端低+高圧やや低:流路閉塞やTXV閉方向異常の疑い
- 低圧高め+高圧高め:過大流量や凝縮不足、コンデンサー風量不足
- 蒸発器出口過熱度ゼロ付近:液戻りリスク、開き過ぎの可能性
- 異音・サージ:ハンチング、制御ゲイン不整合、液圧縮兆候
保守・交換時の注意
交換時は配管内清浄度を最優先とし、レシーバドライヤーやオリフィス、Oリングを同時刷新するのが望ましい。トルク管理を守り、流向マークと感温部の密着取り付けを確認する。真空引きは規定時間を厳守し、規定量の冷媒と冷凍油を充填する。EEVは初期化手順や学習値リセットが必要な場合があり、サービスマニュアルに従う。R1234yfは可燃性区分を持つため、作業環境の安全確保と適合機材の使用が不可欠である。
関連用語と周辺機器
膨張弁の性能はコンデンサーの放熱、レシーバドライヤーの乾燥能力、内蔵サブクーラやIHXの有無、ファン制御、コンプレッサ特性と密接に結び付く。設計では熱マネジメント全体での最適化が重要で、車両のアイドルストップや電動化戦略と協調してA/Cの省エネ化を図るのが現在の主潮流である。