エアバッグモジュール
エアバッグモジュールは、衝突時にミリ秒単位で膨張し乗員の減速度を緩和する車両受動安全装置である。構成はクッション(袋体)、インフレーター(ガス発生器/貯蔵器)、イニシエータ(スクイブ)、モジュールハウジング、カバー(テアシーム付)から成り、車両側のセンサと制御を担うエアバッグECU(ACU)と連携して作動する。乗員検知やベルト着用状態、衝突角度・速度に応じて単段/多段展開やベント制御が行われ、シートベルトのプリテンショナーやロードリミッターと協調して胸部荷重と頭部傷害値の低減を図る。材質・折り畳み・換気孔設計・点火特性までが一体で最適化されており、法規と実車評価に基づく厳格な品質保証の下で供給される。
主な構成要素と役割
クッションは一般にナイロン66織物をシリコーン等でコーティングし、耐熱・耐ガス性と気密を確保する。インフレーターは固体推進薬、圧縮ガス、ハイブリッドのいずれかで、イニシエータ点火により急速にガスを供給する。ハウジングは衝撃荷重を受け持ち、カバーはテアシームで意図した方向に破断させてクッションを展開させる。これらを組み合わせたエアバッグモジュールは、短時間で規定容量に達し、換気孔(ベント)で内部圧を制御する。
作動原理(ミリ秒タイムライン)
衝突検知から数ミリ秒でECUが展開判定を下し、スクイブが点火、インフレーターが加圧ガスを放出する。約20〜40msでクッションが乗員に受け止め開始し、50〜80msで最大荷重に達する。ベントからの排気で過圧を防ぎ、乗員のリバウンドを抑える。強度や初期折り畳み(J折り、S折り等)は展開速度に大きく影響するため車種毎に適合が行われる。
種類と搭載位置
運転席(ステアリング内)、助手席(インパネ内)、サイド(ドア/シート側)、カーテン(ルーフサイド)、ニー(膝部)、センター(前後乗員間)、歩行者保護用(ボンネット外部)などがある。各エアバッグモジュールは衝突方向、乗員拘束との相補性、パッケージ制約に応じて容量・形状・ベントを専用設計する。
インフレーターの方式
固体推進薬式は小型・高出力で普及している。圧縮ガス式は温度依存が小さく、ハイブリッド式は両者の特長を折衷する。近年は環境・毒性配慮から推進薬配合が更新され、発熱・副生成物の低減が進む。多段点火や可変ベントと組み合わせた出力制御で、乗員体格や姿勢のばらつきに適合させる。
センサとアルゴリズム
加速度・角速度・圧力センサの信号と、OCS(乗員分類)、シートベルト着用、シート位置を統合して展開判定を行う。閾値は単純なΔVだけでなく、パルス形状や方向成分、二次衝突の有無も加味される。多段展開、デュアルステージ、サプレッション(児童・未着用時抑制)などのロジックを内蔵し、エアバッグモジュールの出力を最適化する。
設計パラメータ
主な設計因子はクッション容量、織密度、コーティング、テアシーム形状、折り畳みパターン、ベント直径・配置、インフレーター出力曲線、ハウジング剛性、モジュール総質量である。これらはダミー(Hybrid III 等)を用いる台上評価と実車衝突で最適化し、胸部変形量や頭部加速度(HIC)を目標値内に入れる。
法規・規格と安全性
代表的な参照規格として FMVSS 208(乗員保護)、UNECE R94(前面)、UNECE R95(側面)などがある。機能安全は ISO 26262 に準拠し、システム設計から検証・妥当性確認までプロセス化される。構成品は ISO 12097(エアバッグコンポーネント)等の試験に基づき評価され、静電気、湿熱、低温、高温老化、振動、腐食、耐用年数が検証される。
診断・サービス性
エアバッグ回路は常時自己診断され、スクイブ抵抗監視や導通チェックにより断線・短絡・高抵抗を検出する。異常時はDTCが記録され、メータの警告灯が点灯する。サービスでは残留電荷・静電気対策、保管温度、落下禁止、カプラのショートイングバー確認が必須である。コネクタは一般に識別のため黄色系統が用いられる。
パッケージングと車体側設計
ステアリング、インストルメントパネル、ドアトリム、ルーフサイドなど車体側にはモジュール固定部と展開経路が必要である。テアシームは視認性と耐候性を両立し、展開時のみ計画破断させる。助手席用エアバッグモジュールでは広範囲にわたる展開空間の確保と、グローブボックス等付帯部品との干渉回避が重要となる。
品質保証と製造管理
推進薬・点火薬はロット管理が厳格で、DFMEA/PFMEA、トレーサビリティ、爆発物安全管理が適用される。量産では自動秤量、シール、リーク、電気特性の全数検査が一般的である。完成車組付け後もエンドオブラインで通信・抵抗・警告灯を確認し、エアバッグモジュールの初期不良をゼロに近づける。
評価・試験のポイント
台上展開(クリーンルーム/チャンバー)で袋体の折り畳み再現性、しわ、破断、ベント流量を確認し、実車衝突(オフセット、全面、側面、ポール)でダミー指標を評価する。環境前処理(高温/低温/湿熱/熱衝撃)や耐久展開、長期保管後展開も重要である。
将来技術の方向性
可変ベントやガス量のリアルタイム制御、乗員姿勢推定(カメラ/圧力マット)との連携、軽量・難燃・低粉塵の新材料、リサイクル性向上が進む。歩行者保護やセンターエアバッグモジュールの普及に加え、データ駆動の衝突判定アルゴリズムで不要展開を減らし、必要時の即応性を高める方向にある。