イオナイザー
イオナイザーは、空気中に正と負のイオンを発生させ、帯電した物体の電荷を中和して静電気を取り除く装置である。除電器や静電気除去装置とも呼ばれ、半導体や電子部品の組立、フィルム加工、印刷、樹脂成形といった工場で広く使われている。接地では電荷を逃がせない絶縁体や、アースから浮いた導体を非接触で除電できる。この点が、ほかの静電気対策にはない大きな特徴となっている。
静電気が招く製造現場の不具合
ロールから巻き出したPETフィルムは、剥離帯電によって表面電位が20kVを超えることも珍しくない。人が帯電を感じるのはおよそ3kVからとされるので、現場では気づかないまま、その何倍もの電位が生じていることになる。帯電が原因で起こる主な不具合は次のとおりである。
- 静電気放電(ESD)による電子素子の破壊、または潜在的な劣化
- 粉塵や異物が製品の表面に吸着することで起こる外観不良
- シートやフィルムが貼り付き、搬送不良や積み重ね不良を起こす
- 有機溶剤を扱う塗工ラインでの放電着火
- 作業者が受ける電撃と、それに伴うヒヤリハット
イオンが電荷を打ち消すしくみ
帯電した物体のまわりには電界ができる。そこへ正負のイオンが混ざった空気を送り込むと、正に帯電した面には負イオンが、負に帯電した面には正イオンが引き寄せられ、電荷が中和される。物体の電荷量 Q は、静電容量 C と電位 V を使って Q = C × V と表される。たとえば100pFの部品が1kVに帯電しているとき、電荷量は0.1μCになる。必要なイオン量はこの電荷量で決まるため、静電容量が大きい物体ほど除電に時間がかかる。
イオン生成方式の違い
イオンをどう作るかによって、性能も使える場所も大きく変わる。現在の主流はコロナ放電式で、針状の電極に高電圧をかけ、先端付近の空気を電離させる。それ以外の方式も含めて比べると、下の表のようになる。
| 方式 | イオンの作り方 | 長所 | 短所・制約 |
|---|---|---|---|
| コロナ放電式(AC) | 50/60Hzの交流で約7kVを印加 | 構造が簡単で安価 | イオンの到達距離が短い |
| コロナ放電式(DC) | 正極針と負極針に別々の直流電圧を印加 | イオンの量が多い | イオンバランスの調整が難しい |
| パルスAC式 | 極性を0.1〜数十Hzで切り替える | 遠くまで届き、周波数を調整できる | 近くでは電位が振れやすい |
| 軟X線式 | 3〜9.5keV程度のX線で空気を直接電離 | 電極がなく発塵やオゾンがない | 遮蔽と法令対応が必要 |
パルスAC式が選ばれる理由
AC式では、正イオンと負イオンが電極のすぐ近くで再び結合して消えやすい。パルスAC式は、正と負のイオンを数百msごとの塊にして送り出すので、300mm以上離れた対象物にも十分な量が届く。その反面、近づけすぎると対象物の電位が周期的に±数十Vの幅で揺れる。ESDに弱いデバイスのそばで使う場合は、周波数を高めに設定するのが基本となる。
軟X線式の位置づけ
軟X線式は空間そのものを電離するので、気流がなくても除電できる。真空に近い装置内や、風を嫌う薄いウエハの工程で強みを発揮する。ただし電離放射線を出すため、漏洩線量を管理し、遮蔽カバーを設けることが前提となる。導入する前に、所轄の労働基準監督署への届出が必要かどうかを確認しておきたい。
形状によるタイプ分け
ラインの上に渡して使うバー型は、幅が数百mmから3,000mm程度まで揃っており、フィルムや板材の連続搬送に向いている。作業台に置くファン型(ブロワ型)は、人が手で組み立てる工程で使われることが多い。ノズル型やガン型は圧縮空気でイオンを吹き付けるタイプで、供給圧0.2〜0.5MPa程度で使う。吹き付けによる除塵も同時にできるため、射出成形品の取り出し直後の工程などに向いている。
性能はCPMで測る
除電性能の評価方法は、IEC 61340-4-7と、これに対応するJIS C 61340-4-7で定められている。測定にはCPM(チャージドプレートモニタ)を使う。150mm × 150mmの金属板(静電容量20pF)を±1,000Vに帯電させ、±100Vまで下がるのにかかる時間を「除電時間」として記録する。イオンを出したまま板の電位がどこに落ち着くかを示す「オフセット電圧」は、イオンバランスの指標となる。ANSI/ESD S20.20やIEC 61340-5-1に基づくESD管理では、±35V以内に収めることが多くの現場で求められる。カタログの数値は条件のそろった試験室での値なので、実際のラインで同じ数値が出るとは限らない。
現場で選ぶとき・据え付けるときの勘所
導入でよくある失敗は、導体の部品なのに接地をせず、イオナイザーだけで対策しようとすることである。金属治具や導電性のトレーは、まずアースを確実に取る。イオナイザーは、絶縁物と浮いた導体を受け持つ補助的な手段と考える。価格の目安として、汎用のバー型は1本十万円台から購入できる一方、軟X線式は遮蔽を含めるとその数倍になることが多い。据え付けるときは、天井のFFU(ファンフィルタユニット)が作るダウンフローの向きにも注意する。気流に逆らって吹き付けると、イオンが対象物に届く前に散ってしまう。表面抵抗率が1012Ω以上の樹脂は自然に電荷が逃げにくいため、搬送の直前と直後の2か所に設置するのが効果的である。
電極の汚れと日常保守
コロナ放電式の針電極は、使い続けると先端に白い付着物がたまる。これは空気中に含まれるシロキサンなどが放電で分解され、二酸化ケイ素として堆積したものである。付着が進むとイオンの量が減り、オフセット電圧もずれていく。週に1回から月に1回を目安に、アルコールを含ませた綿棒で清掃するとよい。クリーンルームのISO 14644-1クラス5より清浄な環境では、タングステン針から出る微粒子さえ問題になる。そのため、シリコン単結晶製の電極や、発塵の少ない軟X線式が選ばれる。放電に伴ってオゾンも発生するため、狭い作業ブースでは日本産業衛生学会の許容濃度0.1ppmを超えないよう、換気の状態もあわせて点検しておきたい。
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