アドルノ|人はなぜ野蛮になりさがるのか

アドルノ

アドルノは、ドイツの哲学者、社会学者である。音楽にも精通していた。主著は『否定弁証法』、『権威主義的パーソナリティ』、『啓蒙の弁証法』(ホルクハイマーとの共作)。ホルクハイマーとともにフランクフルトの社会研究所の中心として活躍した。ナチスが政権を掌握すると、ユダヤ人公職追放によって、ドイツを追われ、イギリス、アメリカへの亡命を余儀なくした。戦後はドイツに帰国して、社会研究所の再建に参加し、ファシズムや戦争を生み出した人間の性質について研究を行った。現代の文明社会の問題点を鋭く指摘し、文明が自然を抑圧したことから生まれる歪みがファシズムや戦争の原因であることを指摘し、自然と文明との和解の必要性を説いた。

アドルノの生涯

アドルノは、富裕なワイン商のユダヤ系の父とイタリア人歌手の母との間にフランクフルトで生まれた。父親はユダヤ人であったが、結婚の前にプロテスタントに改宗している。幼少期から優秀であった。1931年フランクフルト大学の講師となったが、ナチスがドイツの政権を掌握すると、イギリスへ亡命を余儀なくし、38年にはアメリカへ渡ることになる。戦後、ふるさとのドイツに戻り、社会研究所の再建に努め、盛んな著作活動を通じて脚光を浴びた。戦後のフランクフルト学派に全盛期の指導的立場を果たした。音楽にも深い造詣をもっており、各領域にわたる広範で鋭い批評活動を行った、戦後のドイツを代表する知識人である。

道具的理性

アドルノは、理性を批判的理性と道具的理性に区別した。道具的理性とは、目的を実現するため、道具のように使われる理性である。啓蒙主義に基づいた産業革命、資本主義の発達によって理性は産業社会の利益獲得のために使われるようになった。また、利益のために時に戦争やファシズムの肯定にさえつながった。

批判的理性

批判的理性とは、道具的理性に対してできあがった社会思想を批判的に扱い、その矛盾を指摘し、公にさらす理性である。道具的理性は盲目的にその社会の価値体系に組み込まれるのに対して、批判理性はそれと衝突し、その弊害を社会に示す役割を持つ。

野蛮

野蛮は人間が自然のなかでもつ暴力性である。古代、人間は神話の中に生きていたが、近代にはいって啓蒙主義が盛んになると、神話が入る余地はなくなった。しかし、理性が支配する世界でさえ、神話がもつ野蛮は消えることはなく、むしろ理性の世界に回帰し、ファシズムや戦争など反理性的・反文明的な暴力性は表出した。理性は自然の脅威から解放したが、人間も自然の一部であり、自然を制御しすぎると、かえって人間の自然的側面である暴力性や欲望があらわになる。ホルクハイマーとアドルノは、理性と自然との対立ではなく融和的態度をとることによって悲惨な歴史の繰り返しを回避しようとした。

権威主義的パーソナリティ

権威主義的パーソナリティとは、地位の高い者の権威に無条件に従う一方で、地位の低い者に服従を求める現代人の社会的性格をいう。アドルノの他、同じフランクフルト学派フロムによっても説かれた。

社会的性格

社会的性格とは、任意の社会システム(政治的・経済的構造)によって形成された、構成員に共通する行動の特性である。その社会が、自分の行動を反省することがなく、命令と服従の硬直した人間関係によって行動する権威主義的パーソナリティを持つと、組織の命令で平気で残虐な行為や不正を行う危険性を持つとした。ナチスによる組織的なユダヤ人虐殺などがその例である。

否定弁証方

プラトンヘーゲルに代表される弁証法は肯定的なものであった。テーゼ(定立)とアンチテーゼ(反定立)が衝突するとき、より高いレベルで融和が果たされ、肯定的なものである。それに対し、否定弁証法はアンチ体系とよばれ、より低い次元へと、否定的なところにいく。アドルノは、啓蒙思想における理性がどのようにして道具理性となって、野蛮になりさがったのか、を思索している。

否定弁証法は、統一原理や上位概念の支配のかわりに、こうした統一の呪縛のそとにあるかもしれない観念を、整合論理的な手段によって引きだそうと努める」(『否定弁証法)

『啓蒙の弁証法』

『啓蒙の弁証法』は、ホルクハイマーとアドルノが議論をしながらまとめた共著である。ホルクハイマーやアドルノによると、ファシズムや戦争を起こした原因は、啓蒙主義のうちにみる。啓蒙主義は人間を主体として自然を支配していくことであるが、人間による自然の支配は啓蒙の弁証法によって、人間による人間の支配になっていく。このように人類の歴史が直線的な進歩ではなく、理性による啓蒙主義の発展と自然のもつ野蛮への逆もどりがからみあう弁証法的な過程であることを示した。

『美の理論』

『啓蒙の弁証法』を出版した後、アドルノは『美の理論』(1970年)において、芸術に希望と救済を求めていった。

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