TVSダイオード|過渡電圧から回路を守る保護素子

TVSダイオード

TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor diode)は、雷サージや静電気放電などで回路に入り込む一時的な高電圧を一瞬で抑え込み、後段の半導体部品を守るためのダイオードである。通常の動作中は高インピーダンスのため、回路にほとんど影響しない。規定の電圧を超えた瞬間にだけ導通し、余分なエネルギーを接地側へ逃がす。応答時間はピコ秒オーダーとされ、サージ保護素子のなかでも特に速い部類に入る。電源ライン、通信インターフェース、車載電子機器など、使われる場面は幅広い。

過渡電圧がもたらす問題

帯電した人がコネクタに触れただけで、数kVの電圧が数ナノ秒のうちに加わることがある。IEC 61000-4-2のレベル4では、接触放電±8kV、気中放電±15kVが試験条件として定められている。耐圧が数Vしかない最新のICにとって、これは致命的な水準である。誘導性負荷の開閉や落雷で生じるサージも同じように危険で、こちらはIEC 61000-4-5で8/20μsの電流波形が規定されている。静電気放電やサージを部品が壊れる前に抑え込むのが、TVSダイオードの役割である。

動作原理

基本の構造はツェナーダイオードと同じpn接合である。違いは、大電流を短時間で吸収できるように接合面積を大きくしている点にある。逆方向の電圧が降伏電圧VBRを超えるとアバランシェ降伏が起こり、電流が急に増えて端子間の電圧はほぼ一定に保たれる。このときの電圧をクランプ電圧VCと呼ぶ。過渡電圧が収まれば素子は高インピーダンスの状態に戻るので、何度でも動作できる。ツェナーダイオードは定電圧源として連続して使うことを前提にしている。これに対してTVSは、パルス状の大きな電力を吸収することに特化した設計といえる。

主要な電気的パラメータ

データシートには多くの項目が並ぶが、選定に直接かかわるのは次の5つである。

  • 逆方向動作電圧VRWM:通常動作で加えても導通しない最大の電圧。漏れ電流は数μA以下に抑えられている
  • 降伏電圧VBR:試験電流IT(多くは1mA)を流したときの電圧。VRWMのおよそ1.1〜1.2倍に設定されている
  • クランプ電圧VC:ピークパルス電流IPPを流したときの端子電圧
  • ピークパルス電力PPP:10/1000μs波形で吸収できる最大の電力
  • 接合容量CJ:信号ラインに加わる寄生容量

パルス電力の計算例

ピークパルス電力は次の式で求められる。
PPP = VC × IPP
たとえばSMBJ5.0Aは、VRWMが5.0V、VCが9.2V、IPPが65.2Aと規定されている。掛け合わせるとおよそ600Wになる。この定格は周囲温度25℃が基準で、接合温度が上がるほど吸収できる電力はほぼ直線的に下がり、150〜175℃付近でほぼゼロになる点に注意したい。

単方向型と双方向型

直流の電源ラインのように極性が決まっている回路には、単方向型を使う。逆極性のサージに対しては順方向に約1Vで導通するため、負の過渡電圧も低い電圧で抑えられる。交流信号やRS-485のように電圧が正負両方に振れるラインには、2つの接合を背中合わせに並べた双方向型が向いている。品番の末尾に「CA」が付いていれば双方向型、というのが一般的な命名のルールである。

ほかのサージ保護素子との比較

サージ対策の部品には、バリスタ(MOV)やガス入り放電管(GDT)もあり、それぞれ得意な領域が違う。サージ耐量はGDTが圧倒的に大きい。ただし放電が始まるまでに時間がかかり、続流の問題もある。TVSダイオードは耐量こそ小さいものの、応答の速さとクランプ電圧の安定性ではほかの素子に勝る。通信基地局などでは、一次側にGDT、二次側にTVSを置く多段構成がよく採られている。

項目 TVSダイオード バリスタ ガス入り放電管
応答時間 1ns未満 数十ns程度 数百ns〜μsオーダー
サージ耐量 数十〜数百A 数百A〜数kA 数kA〜数十kA
静電容量 0.5pF以下〜数nF 数百pF〜数nF 1pF前後
繰り返し動作による劣化 ほぼなし 少しずつ劣化 電極が消耗
クランプ特性 シャープ 緩やか 放電後はアーク電圧

パッケージと定格電力

表面実装品ではJEDECのDO-214系パッケージが広く使われている。代表的な定格は、SMA(DO-214AC)が400W、SMB(DO-214AA)が600W、SMC(DO-214AB)が1500Wである。リード付きの1.5KEシリーズも、電源回路では今も使われている。高速インターフェース向けには0201や0402サイズのチップ品がある。接合容量を0.5pF以下にした製品は、USB 3.2やHDMIの信号ラインに採用されている。

選定と実装の勘所

選定は、VRWMを回路の最大動作電圧以上にするところから始まる。12V系の電源なら、電源電圧の許容差や起動時のリンギングも見込んで15V品を選ぶ、という余裕の取り方が現場では一般的である。そのうえで、VCが保護したいICの絶対最大定格を下回るかを確かめる。実装では配線インダクタンスの影響が大きい。プリント基板のパターンには1mmあたり約1nHのインダクタンスがあるとされる。IEC 61000-4-2の8kV接触放電はピーク電流が約30A、立ち上がりが1ns未満なので、5mm引き回しただけで100Vを超える誘導電圧がかかる計算になる。素子はコネクタのすぐ近くに置き、グランドへのビアは最短で落とすのが基本である。価格は、汎用のSMA品なら量産時で1個数円程度、低容量の多チャネルアレイ品だと数十円になる。耐量を稼ぐために複数個を並列につなぐ方法は勧められない。VBRのばらつきで、電流が1つの素子に集中してしまうためである。

車載用途での要求

自動車で最も厳しい過渡現象とされるのが、オルタネータが発電している最中にバッテリ端子が外れるロードダンプである。その試験パルスはISO 16750-2で規定されている。12V系では電圧が最大100V前後に達し、数百ミリ秒続くこともあるため、通常品より大きなエネルギー耐量を持つ車載専用のシリーズが用意されている。ディスクリート半導体の信頼性認定であるAEC-Q101への適合も、車載で採用されるための前提条件となる。

コメント(β版)