TOFセンサ|光の飛行時間で高速高精度距離計測

TOFセンサ

TOFセンサは、光の飛行時間(Time Of Flight)を用いて対象物までの距離や3D深度を求める距離計測デバイスである。発光素子から対象に向けて近赤外光を照射し、反射光が受光素子に戻るまでの時間差Δt、または変調位相差φを測ることで距離dを算出する。代表的な方式には、パルスの往復時間を直接測るdTOF(direct TOF)と、連続波変調の位相差を用いるiTOF(indirect TOF)がある。イメージセンサと同様の2Dアレイで深度マップを生成する方式は一般に「TOFカメラ」と呼ばれ、ロボティクス、産業計測、モバイル端末の生体認証やAR/VRなど幅広い応用を持つ。

動作原理(タイムオブフライト)

TOFセンサは送受光の時間基準を高精度に同期させ、光速cをスケールに距離へ変換する。dTOFではナノ秒領域のパルス送出と高時間分解のタイムスタンピングを行い、ヒストグラムから最尤到来時刻を推定する。iTOFでは数MHz〜数百MHzで強度変調した光を用い、受光信号の位相をロックイン検出して位相差から距離に換算する。環境光やマルチパスの影響を抑えるため、狭帯域光学フィルタや同期検波、積算回数の最適化が併用される。

測距方式

dTOF(direct TOF)

dTOFはパルスの往復時間を直接計測する方式で、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)やアバランシェフォトダイオード(APD)と、ピコ秒〜ナノ秒分解能のTDC(Time-to-Digital Converter)を組み合わせる。各ピクセルまたは画素群で到来光子の時刻ヒストグラムを積算し、ピーク抽出やCFR(Constant Fraction)等で到来時間を推定する。長距離化や低反射対象に有利で、屋外用途でも高ダイナミックレンジを取りやすい。一方でタイミングジッタやダークカウント、後方散乱による早期パルスなどの補正が重要となる。

iTOF(indirect TOF)

iTOFは連続波強度変調と同期検波により位相差を求める方式である。変調周波数fと位相差φから距離を導出し、位相の2π周期性によるアンビギュイティは多周波法で解消する。画素回路は4相サンプリングなどのミキサ内蔵CMOS構造が多く、低コストで高フレームレートに適する。屋内の中距離(例: 数十cm〜数m)で高安定・高画素の深度マップが得やすい。

構成要素

  • 発光部:VCSELまたはLED(波長850nm/940nm)。アイセーフ出力と照射パターン(フラッド/ドット)を設計。
  • 受光部:SPAD/APD/高感度CMOS受光画素。量子効率と時間分解能、ダークノイズを最適化。
  • タイミング/読出し:TDC、ロックイン、ゲーティング、積算制御、MIPI等のIF。
  • 光学系:投光/受光レンズ、バンドパスフィルタ、カバーガラスAR/IRコート。
  • 処理アルゴリズム:ヒストグラムピーク推定、位相アンラップ、外れ値除去、空間/時間フィルタ。
  • 電源/ドライバ:パルス電流ドライバ、EMI対策、熱設計、リップル低減。

誤差要因と対策

  • ショットノイズ/環境光:940nm+狭帯域フィルタ、同期検波、積算回数増。
  • マルチパス反射:時間ゲーティング、モデルベース補正、迷光抑制のメカ設計。
  • 光学クロストーク:画素間遮光壁、厚膜メタル、レンズバッフル。
  • 温度ドリフト:発光出力と受光感度の温度補償、オフセット再校正。
  • 反射率/材質依存:強度に依らない到来時刻推定、アクティブ露光制御。
  • モーション/ブラー:短積算・高フレーム化、動き適応フィルタ。

設計パラメータと代表仕様

TOFセンサの設計では、波長、FOV、レンジ、分解能、フレームレート、電力、筐体条件を整合させる。屋内iTOFの典型ではレンジ0.2〜5m、深度分解能数mm〜数cm、30〜60fps程度が一例である。dTOFは単発パルスで数十m級まで拡張可能で、積算時間と光学口径によりSNRを確保する。近年はSPADアレイの画素微細化とTDC多チャネル化により、深度マップの空間解像度と時間分解能の両立が進む。

  • 波長選定:850nmは感度が高く屋内で有利、940nmは太陽光重畳下で飽和しにくい。
  • アイセーフ:IEC 60825-1のClass 1内で光出力・パルス幅・繰返しを設定。
  • フレーム/露光:動体追従は短露光、低照度は積算増。マルチフレーム融合も有効。
  • キャリブレーション:距離オフセット/スケール、画素ごとの位相/遅延補正、温度係数補正。

応用領域

TOFセンサは、ロボットの障害物検知やSLAMのマップ生成、AGVのピッキング・距離保持、工作機械や搬送設備での位置決め、在庫の体積推定、人物の存在検知、ジェスチャ認識、モバイル端末の生体認証やポートレート深度、AR/VRの空間把握などに用いられる。深度マップは点群化してメトリック地図構築や物体抽出に活用できる。

キャリブレーションと製造実装

TOFセンサの量産実装では、カバーガラスの厚み・屈折率差による位相/遅延のバラツキ、筐体内部の迷光経路、レンズの反射・フレア、発光のスポット均一性などを管理する。工場校正で距離オフセットや画素固有のゲイン/遅延を測定し、温度チャンバーで温度ドリフトをモデル化する。フィールドではセルフキャリブレーションや黒基準板/白基準板の簡易再校正を提供すると安定運用に寄与する。

実装の勘所(EMI/熱/光学)

  • ドライバと電源:高速パルスによるEMIを低減するため、帰還ループ最短化、接地分割、デカップリング配置を最適化。
  • 熱設計:VCSEL/LEDの温度上昇は出力・波長を変動させるため、放熱経路とサーマルフィードバックを設ける。
  • 光学整合:受光面と投光パターンの重なり、FOVと有効レンジの整合、外光シールドのバッフル設計を行う。
  • ソフト処理:外れ値除去、空間/時系列フィルタ、信頼度マップの併送で下流アルゴリズムを安定化。

参考式と用語メモ

基本式はdTOFで d = c·Δt/2 、iTOFで d = c·φ/(4πf) となる。単一周波数iTOFには不定距離が生じるため、多周波や擬似ランダム変調でアンビギュイティを抑える。SPADは単一光子検出が可能で、高積算によりSNRを稼ぐ。受光の時間分解能(ジッタ)、ダークカウント、デッドタイムは測距精度に直結する。これらを総合的に設計・補正することがTOFセンサの性能発揮に不可欠である。

コメント(β版)