TCU|電子制御で変速とクラッチ協調

TCU

TCUは自動車の自動変速機(AT、CVT、DCT、ハイブリッドの動力分割機構など)を統合制御する電子制御ユニットである。油圧回路や電動アクチュエータを介してクラッチ・ブレーキ帯・プーリ比・ロックアップクラッチなどを作動させ、車速・エンジン負荷・路面勾配・温度といった状態量に応じて最適な変速、ライン圧、トルク伝達を実現する。TCUはエンジンのECUやブレーキ制御、車両統合制御と通信し、燃費・走行性能・快適性・耐久性の両立を図る要となる。

基本機能

TCUの基本機能は、①変速スケジュール決定、②クラッチ圧の精密制御、③ロックアップやクリープの制御、④適応学習(学習補正)による経時・個体差の吸収、⑤診断・フェイルセーフである。これらをリアルタイムOS上でタスク分離し、ミリ秒オーダで演算・出力することでドライバビリティを担保する。

構成要素

  • マイクロコントローラ:演算、タイマ、A/D、CAN等インタフェースを内蔵する。
  • 電源・保護回路:車載電源のサージ、クランキング電圧低下、逆接続等に耐える。
  • ソレノイド/モータ駆動:電流制御で油圧バルブやアクチュエータを精密作動。
  • センサ入出力:回転、圧力、温度、レンジ位置の計測回路。
  • 不揮発メモリ:学習値、故障コード、キャリブレーションの格納。
  • 筐体・コネクタ:耐熱・耐振・耐油の車載グレード構造。

入出力と主要センサ

  • 入力:入力軸/出力軸回転、ATF温度、油圧、シフトレンジ、ブレーキ/アクセル開度、車速、エンジントルク要求(ECU経由)など。
  • 出力:ライン圧制御、クラッチ/ブレーキ帯のソレノイド、ロックアップ、ポンプ/アクチュエータ駆動、表示器制御等。

TCUはこれら信号を常時監視し、フィードフォワードとフィードバックを組み合わせて変速ショック低減とフレア・バンプ抑制を図る。

制御アルゴリズム

TCUのアルゴリズムは、マップベースの変速線図、クラッチ充填・圧力斜行制御、スリップ目標制御、ロックアップのスリップ最適化、坂道・牽引・寒冷時補正、学習値のオンザフライ更新などから成る。DCTではクラッチtoクラッチのトルク交差をミリ秒精度で同期させ、CVTではプーリ圧とベルト張力の協調で比を連続制御する。

キャリブレーション

量産前のキャリブレーションでは、変速感(ショック/フレア)、発進・低速クリープ、追従加速、燃費、熱マネジメント、NVHを総合最適する。データロギングとDOEを活用し、A2L/HEXでパラメータをフラッシュ、UDS経由で書換・検証を行う。TCUは個体差・摩耗・ATF劣化に応じて学習値を更新し、ライフサイクル全体で性能を維持する。

車載ネットワークと規格

TCUはCAN/CAN FD、LIN、FlexRay、Automotive Ethernetで他ECUと接続し、UDS(ISO 14229)による診断、J1979/OBD-II互換のモニタ、商用車ではJ1939に適合する。機能安全はISO 26262に基づきASIL割当、ウォッチドッグ、電源監視、メモリECC、E2E保護などを実装する。近年はISO 21434に準拠したサイバーセキュリティも必須である。

フェイルセーフと故障診断

TCUはセンサ断線・短絡、圧力異常、スリップ過大、ソレノイド電流逸脱、通信タイムアウト等を監視し、DTC(P07xx系等)を記録する。異常時はリンプホーム(固定ギヤ/固定比)、ライン圧セーフ設定、ロックアップ解除などで可用性を確保し、ドライバへの警告を出す。

ハードウェア実装形態

TCUはバルブボディ一体のメカトロニクス化や車室内別体実装がある。一体型は油温変動・振動に強い構造とコーティングが必要で、別体は配線長やEMC対策、熱設計が焦点となる。量産では自動はんだ付けの品質、樹脂封止、環境試験(熱衝撃、振動、塩水噴霧)が重視される。

AT/CVT/DCTでの相違点

  • AT:油圧多板クラッチ/ブレーキを段切替。ロックアップのスリップ制御が燃費・NVH鍵。
  • CVT:プーリ比とライン圧、ベルト張力の協調で比連続変化。発進クラッチの温度管理が重要。
  • DCT:2系統クラッチのトルク交差同期が肝。乾式は熱、湿式は油温・せん断粘度を考慮。

EV/HEVにおける役割

EVでは単段減速が主流だが、駐車ポール、逆起電力抑制、回生協調、ギヤドッグの同期などでTCU同等の機能がVCU/トラクション制御内に実装される。パラレルHEVやeCVTではエンジン/モータ/変速機のトルク配分・クラッチ接続を協調し、発進・変速時の段付きやうなり音を抑える制御が求められる。

熱マネジメントとATF

ATFの温度・せん断粘度は応答と耐久に直結する。TCUは温度に応じた圧力補正、冷却回路バイパス、ロックアップスリップ変更で熱負荷を管理する。高出力化・トーイング用途では油量学習やヒートエクスチェンジャ容量の監視が有効である。

品質・寿命設計

TCUは部品のばらつき、経年劣化、ATF汚染、ソレノイド摩耗を織り込んだロバスト設計を行う。モデルベース開発でプラント(油圧・摩擦)を同定し、HILで故障注入、量産後はフィールドデータ解析によりキャリブ更新と不具合再発防止を図る。サプライチェーンではトレーサビリティとソフト構成管理が欠かせない。

関連する部品・用語

  • トルクコンバータ、バルブボディ、ソレノイド、クラッチ、ライン圧、ロックアップ、レンジスイッチ
  • ATF、油圧ポンプ、回転センサ、圧力センサ、温度センサ、変速比、学習値
  • CAN、UDS、OBD-II、J1939、ISO 26262、ISO 21434、AUTOSAR、HIL