SK鋼|炭素工具鋼の代名詞、JIS規格が定める切削・成形工具の定番材

SK鋼

SK鋼(SK材、炭素工具鋼鋼材)とは、JIS G 4401に規定された炭素工具鋼材の総称であり、材料記号の頭文字「SK」はSteel Kouguに由来する。炭素(C)を0.55〜1.50%含み、Cr(クロム)やMo(モリブデン)などの合金元素を意図的に添加しない高炭素鋼で、P(リン)・S(硫黄)の少ない良質なキルド鋼を圧延または鍛造して製造される。焼入れ・焼戻しによって高い硬度と耐摩耗性を発揮するため、やすり・刃物・ゼンマイ・丸のこ・刻印・ゲージといった手工具から機械部品まで幅広く用いられる、もっとも基本的な工具鋼材である。

JIS規格と鋼種記号

JIS G 4401では、SK鋼の鋼種をSK60(C:0.55〜0.65%)からSK140(C:1.30〜1.50%)まで、炭素含有量の違いによって11鋼種を規定している。2000年のJIS改訂以前はSK1〜SK7の7鋼種区分が用いられていたが、改訂後は炭素量をそのまま数値で示す現行の記号体系に変更された。たとえばSK85は旧SK5、SK105は旧SK3にそれぞれ対応する。ISO規格との対照ではC70U・C80U・C90Uなどの記号が用いられ、国際流通においては両方の記号が参照されることがある。

化学成分と主要元素

SK鋼の化学成分は、炭素(C)のほかにケイ素(Si:0.10〜0.35%)とマンガン(Mn:0.10〜0.50%)を含み、それ以外の合金元素を実質的に含まないのが特徴である。CrやMoなどの合金元素が添加されないため、焼入れ性は合金工具鋼(SKS・SKD)と比較して低く、水焼入れが基本となる。炭素量が増えるほど硬度と耐摩耗性は向上するが、靭性は低下する傾向にある。SK材全体の炭素量の下限が0.6%を超える点は、機械構造用炭素鋼(S□□C材)との境界線にあたる重要な規定である。

鋼種記号 C(%) 旧記号 主な用途例
SK60 0.55〜0.65 SK7 刻印、プレス型
SK85 0.80〜0.90 SK5 ゼンマイ、帯のこ、農機具
SK95 0.90〜1.00 SK4 ドリル、タップ、のみ
SK105 1.00〜1.10 SK3 やすり、刃物、錐
SK120 1.15〜1.25 SK2 カミソリ、やすり
SK140 1.30〜1.50 SK1 やすり(最高硬度品)

熱処理とミクロ組織

SK鋼の市販材は球状化焼なましされた状態で流通しており、フェライト(α-Fe)の地に球状のFe3C(セメンタイト)が分散した組織を示す。焼入れはSK材の標準焼入温度である800〜850℃に加熱してオーステナイト化し、水冷または油冷によって急冷することで、マルテンサイトと未固溶炭化物(球状セメンタイト)からなる正常な焼入れ組織が得られる。焼入れ後は150〜200℃の低温で焼戻しを施すことが一般的であり、この温度域ではε炭化物が析出して地組織は焼戻しマルテンサイトに変化し、硬度をほぼ維持したまま衝撃値を大幅に改善できる。焼入温度が高すぎると炭化物の固溶が過多となって残留オーステナイトが増加し、硬度が低下するため、加熱温度の管理は特に重要となる。

質量効果と焼入れ性の限界

SK鋼は合金元素を含まないため、質量効果が大きく、大型工具への適用には不向きである。断面が大きくなるほど内部の冷却速度が低下し、中心部がマルテンサイト変態せずにフェライトやパーライトが混在した不完全焼入れ組織になりやすい。このためSK鋼は薄板・細棒・小物工具などに適した材料であり、肉厚品や大断面の工具にはCr・Mnなどを添加して焼入れ性を改善した合金工具鋼(工具用合金鋼)が選定される。水焼入れの急冷能は高いが、焼割れや変形のリスクも同時に高まるため、複雑形状部品では油焼入れが可能な代替鋼種への変更が検討される場合もある。

硬度と耐摩耗性の特徴

SK鋼の焼入れ後硬度はHRC60〜65程度に達し、高い耐摩耗性を示す。一方、高温環境での硬度保持性(熱間硬度)は低く、200〜300℃付近から硬度が急激に低下するため、切削熱が発生する高速切削や重切削には不向きである。このためSK鋼は熱の発生が比較的少ない手工具(ヤスリ・刃物・錐・斧・チゼル)、ゲージ・ゼンマイ・ペン先・丸のこ、さらに機械部品ではピンやシャフトなど摩耗が問題となる用途に広く使われる。炭素量が多いほど耐摩耗性は向上するが靭性は低下するため、刻印やプレス型のようにじん性を要する用途には炭素量の少ない低番手グレード(SK60など)が適している。

耐熱性の限界と高速度鋼との比較

高速切削環境では刃先温度が数百℃に達するため、SK鋼は十分な耐熱硬さを維持できない。このような用途にはW(タングステン)やMo(モリブデン)を多量に添加した高速度工具鋼(SKH材、ハイス鋼)が用いられる。ハイス鋼は500〜600℃の高温でも高硬度を維持する二次硬化特性を持つが、材料コストはSK鋼と比べて大幅に高い。SK鋼は加工性が良好で低コストなため、低速切削・手工具・汎用工具・簡易金型など幅広い一般用途では依然として需要が根強い。

市販形態と加工

SK鋼の市販形状は丸棒と平鋼が中心で、SS材やS□□C材ほど形状バリエーションは多くない。特にSK85は流通量が多く、比較的多様な寸法での入手が容易な鋼種である。焼入れ前の球状化焼なまし材は被削性が良好であるため、切削・研削・穴加工などの機械加工後に焼入れを行う手順が一般的である。焼入れ後は硬度が極めて高くなるため、通常の切削加工は困難となり、研削加工や放電加工が形状仕上げの主要手段として用いられる。表面に圧縮残留応力を付与するショットピーニングを組み合わせることで、疲労寿命の向上を図る事例もある。

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