SCM420|クロムモリブデン鋼の代表格、高強度と焼入性を兼備

SCM420

SCM420は、JIS G 4053「機械構造用合金鋼鋼材」に規定されるクロムモリブデン鋼の一種で、炭素含有量が0.18〜0.23%の低炭素域に設定された肌焼鋼である。クロム(Cr)0.90〜1.20%、モリブデン(Mo)0.15〜0.25%を含み、浸炭焼入れによって表面を高硬度化しつつ内部の靭性を維持できる点が最大の特長である。引張強さは930 N/mm²以上、硬度はHBW 262〜352に達し、耐摩耗性と耐衝撃性を両立する。自動車や産業機械の歯車・ピストンピン・シャーピンなど、高い表面硬さと芯部靭性を同時に要求される機械構造部品に広く採用されている。

JIS規格上の位置づけと化学成分

SCM420は、JIS G 4053「機械構造用合金鋼鋼材」のクロムモリブデン鋼(SCM鋼)シリーズのうち、炭素量が0.18〜0.23%の鋼種である。同シリーズには炭素量の異なるSCM415・SCM418・SCM421・SCM430・SCM432・SCM435・SCM440・SCM445・SCM822が含まれ、SCM420はSCM415に次いで炭素量が少ない低炭素域の鋼種に位置する。また、焼入性を保証したH鋼規格であるJIS G 4052に基づく「SCM420H」も流通しており、末尾の「H」はHardenabilityの頭文字を意味する。市場に流通する素材の多くはこのH鋼規格品に該当する。化学成分の規定値(JIS G 4053)は以下のとおりである。

元素 C Si Mn P S Ni Cr Mo
規定値(%) 0.18〜0.23 0.15〜0.35 0.60〜0.90 0.030以下 0.030以下 0.25以下 0.90〜1.20 0.15〜0.25

機械的性質

SCM420の機械的性質は、浸炭焼入れ・焼戻し後の状態で評価される。引張強さは930 N/mm²以上、伸びは14%以上、絞りは40%以上、シャルピー衝撃値は59 J/cm²以上を満たす必要があり、ブリネル硬度はHBW 262〜352の範囲に規定される。浸炭処理後の表面硬度はHRC58〜62程度(HV約680〜740相当)に達し、心部は低炭素組織のままフェライト+マルテンサイトの混合組織を維持するため靭性が高い。この表面硬・心部軟の組み合わせが耐摩耗性と耐衝撃性を同時に達成する根拠となっている。なお、ずぶ焼入れ(全体焼入れ)を行う場合は600℃前後の高温焼戻しによる調質処理が標準となり、そのときの硬度は浸炭品より低下する。

合金元素の作用

SCM420に添加されるクロムとモリブデンは、それぞれ異なる機構で鋼の特性を向上させる。クロムは焼入れ性を高め、パーライト変態を遅延させることで内部まで確実にマルテンサイト変態を生じやすくする。一方モリブデンは焼戻し軟化抵抗を増大させ、焼戻しを施しても硬度が低下しにくい安定したマルテンサイト組織を形成する。また、モリブデンは粒界偏析による焼戻し脆性を抑制する効果も持つ。両元素の複合添加によって、炭素量が低いSCM420でも小さな質量効果(焼入れ時の表面と内部の硬度差が小さい特性)が実現し、太径・複雑形状部品への適用性が高まる。

浸炭焼入れとの適合性

SCM420が肌焼鋼として広く使われる理由は、炭素含有量の低さにある。炭素量0.18〜0.23%という低炭素組成では材料全体を直接焼入れしても十分な表面硬度が得られないが、浸炭処理によって表層のみ炭素量を0.8〜1.0%程度まで高めたのちに焼入れすると、表面は高炭素マルテンサイトとなり硬度が大幅に上昇する。有効硬化層深さはJIS規定の限界硬さHV550を基準として評価され、一般的な処理条件では0.3〜1.0 mm程度となる。表面には圧縮残留応力が生じるため、繰り返し荷重に対する疲労強度も高まる。SCM440のような中炭素鋼では芯部の炭素量がすでに高く、浸炭すると内部の靭性が損なわれるため、浸炭処理には低炭素のSCM420やSCM415が適材とされる。

標準的な熱処理条件

浸炭処理は通常920〜950℃のオーステナイト化温度域で行い、吸熱型変成ガス(RXガス)に富化ガスを添加した浸炭雰囲気中で所定時間保持する。浸炭後は一次焼入れ(860〜900℃)、必要に応じて再加熱による二次焼入れを実施し、最後に180〜200℃程度の低温焼戻しを施す。焼戻し温度が低いほど表面硬度は高く維持されるが、残留オーステナイトの分解や内部応力の緩和にも配慮が必要である。処理時間は要求する有効硬化層深さによって異なり、深い硬化層が必要な場合はガス浸炭で数時間から十数時間を要することがある。

加工性と溶接性

SCM420は炭素量が低く熱処理前の硬度も低いため、切削加工性および溶接性に優れる。一般に、SCMシリーズは炭素量が少ないほど切削加工性・溶接性が高く、数字が大きくなるほど熱処理後の強度は向上するが加工の難易度も上がる傾向がある。合金鋼の中では比較的安価であり、量産部品への適用コストを低く抑えられる点も実用上の優位性につながっている。ただし、クロム添加量が耐食臨界値(約10.5%)を大きく下回るため耐食性は低く、使用環境によっては防錆処理が必要となる。

主な用途

SCM420の用途は、表面硬化と芯部靭性の両立が求められる機械構造部品全般に及ぶ。自動車エンジン部品ではピストンピンやピストンロッドへの適用が代表的であり、エンジン動作時の高面圧と繰り返し衝撃荷重に耐える必要がある。産業機械分野では変速機・差動装置の歯車(ギア)に使われることが多く、歯面耐摩耗性と歯元曲げ疲労強度の確保が主目的となる。そのほかシャーピン・スプライン軸・カムシャフトなど、摺動面をもつ駆動伝達部品でも採用実績が多い。浸炭焼入れ後の表面硬度が高いため、高周波焼入れでは処理が難しい複雑形状部品にも適用できる利点がある。

  • 自動車エンジン:ピストンピン、ピストンロッド
  • 変速機・差動装置:歯車全般
  • 駆動系部品:スプライン軸、カムシャフト
  • 安全機構:シャーピン
  • 産業機械:軸受支持部品、カム機構部品

SCM415・SCM435との比較

同じクロムモリブデン鋼シリーズ内でのポジションを理解するうえで、SCM415とSCM435との比較が参考になる。SCM415は炭素量0.13〜0.18%とSCM420よりさらに低く、最も切削加工性・溶接性が高いが熱処理後の強度はやや劣る。一方、SCM435は炭素量0.33〜0.38%の中炭素鋼であり、調質(焼入れ焼戻し)処理による高強度化が主目的で、浸炭処理には適さない。SCM420は浸炭用肌焼鋼としての性能と加工性のバランスが最もとりやすい鋼種として、量産加工部品の設計標準材に採用されることが多い。SCM420HはH鋼規格として焼入性のばらつきが保証されており、量産品の品質安定に寄与する。

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