MEMS(微小電気機械システム)|小型センサーと電子機器の融合技術

MEMS

MEMS(メムス)は「Micro Electro Mechanical Systems」の略で、日本語では「微小電気機械システム」と訳される。電子工学・機械工学・材料科学を融合したこの技術は、マイクロファブリケーション(微細加工技術)を用い、シリコン基板上にセンサ・アクチュエーター・電子回路を一体として作り込む。デバイス全体の寸法は数ミリメートル、個々の部品はマイクロメートル(μm)オーダーに収まり、小型・軽量・低消費電力という特性を備える。スマートフォンから自動車、医療機器に至るまで、現代の製造業における中核的なデバイス技術となっている。

MEMSの成り立ち

MEMSの原点は1960年代の半導体産業にある。シリコンウェハの微細加工技術がICやLSIの量産を支える中で、シリコンが電気的特性だけでなく優れた機械的特性も持つことが注目された。1980年代に米国でマイクロマシンという概念が提唱され、1990年代に入るとフォトリソグラフィーをベースとした量産プロセスの確立とともに本格的な産業化が進んだ。日本では通商産業省(現・経済産業省)が1991年から10年間にわたるマイクロマシン国家プロジェクトを推進し、基盤技術の整備が加速した。この時期に培われた製造ノウハウが、現在のMEMS産業の礎となっている。

MEMSの基本構造と構成要素

MEMSの最大の特徴は、電子回路と微細な機械的要素を同一チップ上に集積する点にある。主な構成要素は次の3つである。第一に、物理量(加速度・圧力・温度・音など)を電気信号に変換するセンサ部。第二に、電気信号を物理的な動きや力に変換するアクチュエーター部。第三に、これらを制御し信号処理を担う電子回路部である。三者が一枚のシリコン基板上に統合されることで、外部配線なしに高速・高精度な信号処理が実現する。可動部を持たないタイプ(光導波路やDNAチップなど)もMEMSの範疇に含まれることがある。

製造プロセス

MEMSの製造は、一般的なLSI製造フローと同様に、シリコンウェハへの成膜・リソグラフィ・エッチングを繰り返して立体構造を形成する。薄膜の生成には熱酸化法・スパッタ法・CVD(化学気相堆積)法などが用いられる。プロセスは大きく「表面マイクロマシニング」と「バルクマイクロマシニング」の2種類に分類され、目的に応じて使い分けられる。

表面マイクロマシニング

表面マイクロマシニングは、シリコン基板上に薄膜を層状に積み上げて立体構造を形成する手法である。後工程で除去される「犠牲層」(通常は酸化シリコン)をあらかじめ形成しておき、フッ化水素(HF)水溶液やHF蒸気でエッチングすることで、梁のように宙に浮いた可動構造体を作り出す。電子回路との集積化が容易でコスト効率に優れる反面、犠牲層除去の際に構造体が基板に張り付くスティクション問題が課題となる。Texas InstrumentsのDMD(デジタルマイクロミラーデバイス)やAnalog Devicesの加速度センサなど、代表的なデバイスに採用されている。

バルクマイクロマシニング

バルクマイクロマシニングは、シリコン基板そのものを深く削り込んで構造体を形成する手法である。従来はKOH(水酸化カリウム)やTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を用いたウェットエッチングが主流であったが、ボッシュプロセスの発明によりICP-RIE(誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング)を使った垂直深掘りが可能となり、より自由度の高い三次元加工が実現した。圧力センサのダイヤフラムや加速度センサの重り構造など、高精度が要求される部品に多く採用される。表面マイクロマシニングと比べてコスト・工程数は増えるが、より複雑な立体形状の作製が可能である。

使用材料

MEMSで最も広く使われる材料はシリコン(Si)である。シリコンは半導体としての電気的特性に加え、降伏点まで塑性変形しない理想的な弾性体としての機械的特性も兼ね備えており、フォトリソグラフィーによる高精度加工との親和性も高い。構造材料としてポリシリコン・窒化シリコン・酸化シリコンが、電極材料としてアルミニウムや金が用いられる。近年はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料、形状記憶合金、ポリマー材料を取り入れた非シリコン系MEMSも開発が進んでいる。

主な応用分野

MEMSはその小型・低消費電力・低コストという特性から、多様な産業分野に普及している。下表に代表的な応用例を示す。

分野 デバイス例 機能
民生・モバイル MEMSマイク、加速度センサ、ジャイロセンサ、気圧センサ 画面自動回転、音声入力、位置情報取得
自動車 エアバッグ用加速度センサ、タイヤ空気圧センサ(TPMS) 衝突検知、安全制御
産業・製造 圧力センサ、フローセンサ、振動センサ 工程監視、予知保全
医療 血圧センサ、薬剤デリバリデバイス、DNAチップ 低侵襲診断、体内埋め込み計測
光通信・映像 光スイッチ、DMD(デジタルマイクロミラー) 光路切替、プロジェクタ映像制御
印刷 インクジェットヘッド 微小液滴制御による高精細印刷

MEMSの特性と設計上の課題

MEMSスケールでは、マクロ世界とは異なる物理現象が支配的になる。スケールの2乗に比例する表面積効果(静電力・表面張力・ファンデルワールス力)がスケールの3乗に比例する体積効果(慣性力・重力)を大きく上回るため、静電アクチュエーターや表面張力を利用した駆動機構が有効に機能する。一方で、スティクション(構造体の貼り付き)、残留応力による変形、熱膨張差に起因する信頼性低下など、マクロ設計では現れない問題が設計を困難にする。パッケージングも重要な課題であり、外部環境(湿度・衝撃・電磁ノイズ)からデバイスを保護しつつ、測定対象との接触を確保する構造設計が求められる。

MEMSとナノテクノロジーの関係

MEMSとナノテクノロジーは密接に関連している。MEMSがマイクロメートルサイズのデバイスであるのに対し、ナノテクノロジーはナノメートル(1nm=10^-9m)レベルの加工技術を扱う。このようなナノサイズの技術を組み合わせることで、より高性能で省エネルギーなデバイスの開発が可能になる。たとえば、MEMSデバイスの表面にナノコーティングを施すことで、摩擦や劣化を防ぐことができるなど、相乗効果が期待されている。

MEMSの市場と産業動向

スマートフォン1台に搭載されるMEMSデバイスの数は10個を超え、IoT(モノのインターネット)の普及とともに需要は拡大の一途をたどっている。主要メーカーはSTマイクロエレクトロニクス、Bosch Sensortec、Texas Instruments、村田製作所などであり、いずれも独自の半導体製造プロセスで差別化を図っている。自動車のADAS(先進運転支援システム)向けの高精度センサや、医療・ヘルスケア分野のウェアラブルデバイス向け需要が今後の成長を牽引するとみられている。また、シリコンフォトニクスとMEMSを融合した光学MEMS、生体親和性材料を用いたバイオMEMSなど、新領域への展開も進んでいる。

コメント(β版)