LIN|車載ネットワークを簡易化する通信規格

LIN

自動車産業を中心に採用されているローカル通信規格としてLINが存在する。LIN(Local Interconnect Network)はコストを抑えつつ複数の機器間通信を実現する目的で開発され、マスタースレーブ方式によってシンプルなネットワーク構成を可能にしている。特に窓やドアミラー、空調制御など比較的小規模な制御系が多数存在する車両内部では、通信速度や配線数を最適化しながら必要十分な機能を提供する点が注目される。こうした低コストかつ設計の容易さから、限られたリソースで電子制御機能を拡充するのに適しており、小型車や汎用モジュールを扱う分野で幅広く導入が進んでいる。

LINの特長

LINの大きな特長として、比較的低い通信速度を採用することでシステム全体のコストを削減できる点が挙げられる。複雑なメッセージ優先順位制御や高速通信のためのハードウェアを必要としないため、制御器(ECU)やワイヤハーネスの設計が簡素化される。さらにマスタースレーブ方式を用いることで通信フレームの送信タイミング管理が容易になり、クラッシュなどの複雑な衝突処理を最小限に抑えられる。結果として、シンプルな構成で車載ネットワークを実装できる仕組みになっている。

LINの利用分野

ドアロックやルーフ開閉機構、座席位置制御など、データ量や速度がさほど大きくないユニット間の通信が必要な場面でLINは広く利用されている。また車内照明や音響システムの連携にも活用されることが多く、既存の高機能バス(CANなど)と組み合わせることで車載電子制御の階層化を実現し、開発コストを分散させやすい利点がある。こうした多彩な用途により、車種やグレードに応じて必要な機能を柔軟に選択・拡張できる設計思想が生まれている。

LINとCANの比較

LINはCANに比べて通信速度や信頼性の面では劣る部分があるものの、そもそもCANが想定するような高負荷・高信頼性のリアルタイム通信を必要としない周辺デバイスやモジュール向けに最適化されている。そのため配線や使用するトランシーバーがより安価になり、ソフトウェア側の設計も簡素化しやすい。対してCANはエンジン制御やトランスミッション、車両挙動の安定化システムなど、応答速度と信頼性が求められる用途に集中し、ネットワーク全体を階層的かつ効率的に運用する仕組みとして連携している。

通信プロトコルの構造

LINのプロトコルはフレーム単位でマスターがスレーブへ送信タイミングを通知し、それに基づいてスレーブが応答データを返すという形式を取る。このシンプルな設計によって、通信の衝突や混信が大きく減り、エラー処理も単純化される。フレームにはシンクブレイクシグナルが挿入され、スレーブ側はそれを検出して適切なデータ送信のタイミングやビットレートを合わせるよう作られている。加えてIDフィールドにより各スレーブの役割を判別しながら必要なデータ交換が行われる。

同期とビットレート

一般的にLINの通信速度は20kbps程度から最大でも20kbps~40kbps程度が想定される。これは高速通信を必要としない周辺制御デバイスをターゲットにしているためであり、信頼性を確保しながらも厳格なリアルタイム性を求めない層をカバーするための設計といえる。同期タイミングはマスターが定期的に送信する同期フレームにより維持され、スレーブは内部のクロックと比較しつつ通信速度を適宜調整する機構を持つことで高価な水晶発振器を省略しやすい。

LINのセキュリティと耐障害性

LINは基本的に単一マスター構成であり、重大なセキュリティリスクを抱えるような高機能ゲートウェイや外部接続を前提としないケースが多い。それでも車載ネットワーク全体の保護を考慮する場合、ゲートウェイECUでのフィルタリングやフレーム改ざん検知といった対策が求められる。また物理層の接触不良やノイズの影響を受けやすいため、配線設計やハーネスの取り回しには適切な対策を施す必要がある。異常発生時にはマスター側でフレーム送信の連続性を監視し、スレーブが応答を返さない場合にエラー処理フローを実行する仕組みが多い。